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おかえり



     ◆



 家に着くと、さっそく調理場に立って料理を開始する。

 作るのはシチューだ。この世界に味の整ったルーは売っていないため、バターを利用して一から作る。

 鶏肉、玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモなどを切る。バターと一緒に軽く炒めて小麦粉をまぶす。そこ牛乳を加えてグツグツと煮込む。

 ガスコンロなどという設備は当然存在しない。しかし、考えてみればキャンプでカレーを作るときなどと状況はさほど変わらないのだ。以外と異世界でも料理くらいは何とかなる。

 塩加減などは難しいが、味見をしながら整えているといい具合に仕上がってきた。


 ……ソフィア、美味しいって言ってくれるといいな。


 帰ってくる時間はわからないが、シチューならすぐに温めなおせる。万全の準備で迎えることが出来る。

 適当なサラダとパンを用意して、彼女を待つことにした。



     ◆



 日が暮れても、ソフィアが帰ってくる気配はない。キウス……というあの貴族の処遇を決めることはそれほど難しいのだろうか。

 ソフィアとキウスの戦いを振り返る。風の魔法の威力を思い出すとゾッとしてしまう。

 木を切り倒せるほどの一撃、あれが人に当たっていたらタダではすまない。

 ……そういえば、ソフィアは魔法を避けるときに、しきりに背後を気にしていた気がする。今になって思うと、自分の身だけではなく、周囲にまで気を配り被害を最小限に留めるように立ちまわっていたのだろう。

 騎士団長、か。

 普段の行いから察せるが、相当な人格者だ。高校生だった自分と年齢も大差ない。きっと並々ならぬ努力があったはず。

 ソフィアの地位を思うと、少し黒い劣等感にさいなまれる。オレは彼女のために何ができるのだろう。ここで受けた恩をどうすれば返せるのか。

 不意に、家のドアが開いた。急いでそちらに向かう。


「ただいま」


 小さく微笑む彼女に、オレはおかえりと言って迎える。

 ぐぅぅぅきゅるる。

 …………すごい音が聞こえてきた。ソフィアはお腹を押さえて顔を真っ赤にしている。


「……い、いい匂いが外にまで漂ってきて、お腹がすいてしまったんだ」


「わかった。すぐご飯にしよう」


 シチューを温めなおして、盛り付けるだけで食べられる。

 数分後、食卓には湯気の立つシチューと、パン、サラダが並び準備が整った。


「いただきます」


 手を合わせてお辞儀をする。


「……気になっていたんだけど、それはリュートの国の文化?」


「そうだな。食事の前に食べ物に感謝をするんだ」


 いい文化だね、と言ってから、彼女もいただきますと手を合わせた。最近では、二人でこうして食事をすることが習慣となっていた。

 ソフィアがシチューを食べる様子を、俺はドキドキしながら眺める。スプーンですくい、口に運んだ。

 すると、その目が見開かれた。


「お、美味しい……! リュート、これすっごく美味しい!」


 目をキラキラさせて、シチューをパクパクと食べ続けている。

 ああ、よかった……! 喜んでもらえるか心配していたが、大成功のようだ。


「パンにも良く絡むし、この絶妙な塩気がたまらない。これって昼に買った薬を使っているの?」


「大正解。オレの国では、こうやって食事に使うんだ」


 へぇー、と彼女は感心していた。バターが薬にしか使われないなんてもったいない。

 バターはお菓子作りにもかかせない。今度クッキーやケーキを作ってあげよう。きっと喜んでもらえるだろう。

 自分の作った料理を、人が美味しそうに食べているのを見るのは最高に幸せだ。

 シチューを口に運ぶ。するとなぜかいつも以上に美味しく感じた。

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