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 朝日が眩しくて目が覚めた。

 れて重たい目蓋まぶたを開けると、木の天井てんじょうが見えた。それと自分を包み込む柔らかい布団の感触……。

 起き上がろうとして、激痛が走る。体を起こすだけでも一苦労しそうだ。

 それよりも、今はこの幸せを堪能たんのうしたい。

 ふと、服がワイシャツではなくなっていることに気づく。

 より簡素で柔らかいこげ茶の生地に変えられていて、構造はローブに近い。

 さらに全身が包帯でグルグルとテーピングされていた。痛めた箇所が多すぎるのか、まるでミイラのようで、テーピングされていない箇所を探すほうが難しいくらいに巻かれている。かといって、下手な巻き方ではない。適切な処置のうえでこうなったことがうかがえる。


 ……そういえば、いろいろあったなぁ。


 布団の上で昨日の出来事を振り返る。

 路地裏で助けてくれた白銀の騎士。

 ……よく考えたら、すっごく恥ずかしいことをしていた。女性に泣きつくなんて、どうかしている。まともに彼女の顔を見られないかもしれない。

 ふと、部屋にいい香りが漂っているのに気が付いた。

 これは食べ物の匂いだ。

 嗅いだとたん、お腹が大きな音を立てた。

 コンコン、と部屋のドアがノックされた。


「は、はい!」


 返事をすると、ドアが開けられた。そして食事がのせられたお盆を持った女性が入ってきた。

 栗色の長い髪……エメラルドの瞳……?

 すぐに思い当たった。昨日のことだ、忘れるわけがない。

 白銀の騎士……!?

 布団から出ようとするが、やはり体を動かすたびに痛みに襲われてダメだった。


「――! ――――――!」


 相変わらず、この世界の言葉を理解はできないが、何を言っているかはだいたい伝わった。無理して動くな、とそんなニュアンスのことを言っているようだ。

 身体だけ起こして、おとなしく待つことにした。

 すると彼女はこちらに来て、膝の上にお盆をのせてくれた。

 お盆の上にはパンと温かい牛乳のスープ。

 喉の奥がゴクリ、と鳴る。

 パンを齧ろうとするのだが、なかなか固くて噛み千切れないでいると、ジェスチャーでスープにひたすように教えられた。

 柔らかくしてから口に運ぶ。


「おいしい……!」


 これまで食べたパンのなかで、一番おいしいと感じた。

 一口。また一口。食べる手が止まらない。

 そうしてパンを食べ終え、スープを飲み干したところで、ほぅ、と一息ついた。


「……」


 彼女と目が合った。食べる様子をマジマジと観察されていたらしい。

 ……こんなに凝視されているとさすがに恥ずかしい。


「――――! ――――!」


 食べっぷりが良かったことを喜んでいるようだ。なんか、こう、ペットか何かみたいな扱いを受けている気がする。


「あ、あの……」


 言葉が通じないし、こちらの事情をどう説明したものか。

 それに、しっかりとした形でお礼を言いたかった。この世界の言葉で。彼女にありがとうを伝えたい。

 唐突に彼女は自分自身を指さして、


「ソフィア」


 と言った。それが彼女の名前なのだとわかった。


「……そふぃあ」


 コクン、と笑顔の彼女が頷いた。

 同じように真似て、自己紹介をする。


竜登りゅうと


「リュート?」


 うなずいて、合っていることを伝える。

 名前を呼びあっただけなのに、初めて言葉を交わせたことが嬉しかった。


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