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伝説の竜

お久しぶりです。データありました。

「おのれ……小娘が……!」


 刺された腹部を抑えてうずくまるセイラムは、憎々(にくにく)し気に呟いた。

 ソフィアに対抗する手段はもう残されていない。大怪我を負い、さらに他人を操る禁呪も封じられた。

 今度こそ逆転の目は無くなった。


「だが、まだ、ワタシは、負けてない」


 しかしなお瞳には消えない闘志が宿っていた。

 狂い果てたとも思えない。

 つまり、それは反撃の手段を残していることだ。


「ソフィア」


「ああ、注意したほうがいいだろうな」


 気をゆるめることなく、切っ先をセイラムに向けて慎重に間合いを詰めていく。


来いいあ来いいあ来いいあ……災厄を成す最悪の化身よ……!」


 狂ったように何かを呼びつけるセイラム。

 ぼだぼだと痛ましいまでに腹部から溢れる血をこぼしながら、


いでよ! バハムート!」


 そして――オレたちの世界では伝説の竜と名高い、その名を呼んだ。

 呼び声に応え、洞窟内の壁をぶち破って、真紅しんくの鱗を持つ、巨大な魔竜が出現した。

 その体躯は全長三十メートルほどはあろうか。

 最悪なまでに想像通りの怪物が立ちはだかる。


「くふ……うふふふふふ、さぁ! バハムート! あの生意気な小娘を焼き尽くしなさい!」


 ソフィアの頬を汗が伝い、アゴの先からしたたり落ちる。

 逆転の一手をセイラムに許してしまい、状況は五分、いや、それ未満へと反転した。


「……リュート。そっちのほう、あとは任せたよ」


 竜の灼熱しゃくねつの吐息に、銀色の剣が鈍く光る。

 ここで打てる最善策。それは、1対1の状況を作ること。

 オレかソフィア。

 どちらかがバハムートを足止めしなくてはならないということだ。

 その役は、オレではつとまらない。

 悲観するオレとは裏腹に、ソフィアはニッと白い歯を見せ破顔はがんする。


 ――じゃあね、リュート――


 その笑顔は、そんな幻聴さえ聞こえるほどに、死地へおもむく者からの餞別せんべつだった。


「我が名はソフィア・クラウス。ヴァルグルント騎士団の騎士団長である! いざ尋常じんじょうに!」


 大洞の空気がビリビリと振動するほどに、その声は覇気を帯びていた。


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