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勝者と敗者

平日でも更新いけるやん(白目

 大空洞に戻ると、目まぐるしく動く二つの影が映った。

 ソフィアは卓越たくえつした剣術で、セイラムは超越した転移の魔術で。それぞれが究極の秘奥ひおうもっ相対あいたいする。


「流石に強いな」


 剣は当然、近接武器である。瞬時に距離を取られるセイラムとは絶望的に相性が悪い。

 距離を詰める、離される、距離を詰める、離される。

 その繰り返しで埒が明かないようだ。


「それはこっちの台詞よ! ええぃ、ちょこまかと……」


 セイラムが一方的かと思えば、そういうわけでもないらしい。

 電撃を飛ばしソフィアを攻撃するも、軽く見切られかすりもしない。

 お互いに有効打を与えられず均衡きんこうは崩されない。このままいけば、どちらかの体力・魔力が尽きたそこが決着となる。


「けれど、あなたと遊ぶのもそろそろ飽きたわ」


「ほう? ずいぶんと言うな魔術師。私には、この状況は互角に見えるが」


 何か、マズい気がする。

 セイラムは奥の手をいくつも隠し持っているだろう。

 ソフィアにはその対抗手段があるのだろうか。

 しかし今出て行ったところで、邪魔をするだけだ。

 大空洞の中央には、生成された異世界の扉がある。空間が捻じれ、ブラックホールのように光を呑み込んだ穴が出来上がっている。

 あれを破壊すればこちらの勝利だ。オレが狙うべきはセイラムではなく扉の破壊。

 どうにか隙を作って、あそこまでたどり着ければいいのだが。


「さあ、騎士団長! あなたに問うわ」


「……」


「あなたが本当に警戒すべき、私の魔術は何でしょう?」


 セイラムの持つ、脅威。

 それは。


「――――肉体操作か」


「ご名答。その魔法はいつ、どのタイミングで掛かるものか、わかるかしら」


 ニタニタと、一つずつ質問を重ねていく。

 ソフィアにはオレが持つような呪いに対する強力な魔道具は無い……はず。

 つまりは防ぐ手段を持ち合わせていない。


「私は魔術師ではないから、その質問はよくわからない」


「なら教えましょう。あなたは、すでに私の術中にはまっているのよ」


 そう宣言した、直後、剣を持つソフィアの右腕が不自然に持ち上がった。


「……なるほど。決着は既についていたか」


 下手を打った自分にソフィアは歯噛みする。

 敗者と勝者が決まった、いや、結末は必然だったのだ。

 動かなくなった身体に眉をひそめてうつむく。


「……マズったな……私ともあろうものが。油断していた」


 口惜しそうに呟き、負けを認めた。


「さぁ、どうしてあげようかしら」


 生殺与奪を握っているセイラムはすっかり余裕の表情でソフィアに近づいていく。

 暗い影が落ちるソフィアのその顔が歪む。

 口角がかすかに上がる。


 絶体絶命の状況のなか――、


「そうね、その厄介な剣を振るう腕からねじ切って……」


 ――彼女は、笑った。


「なんて、言うとでも思ったか」


 操られていたはずの手が急に自由を取り戻し、切っ先きっさきがセイラムの腹部を貫いた。

 そして、ソフィアは深追いせず瞬時に距離を取って反撃に備えた。


「え――――?」


 オレも、セイラムも、呆然ぼうぜんとその様子を眺めることしかできなかった。

 なぜ?

 なぜソフィアは操られていない……?

 味方であるオレですら、その理由に気付けずにいた。


「残念だが、私を操り人形にはできなかったな」


「な、なんで……? なんで、ワタシの魔法は完璧だわ。おかしい、おかしい、痛い、どうして、どうして? なんで? 痛い……、ワタシがなんで傷を」


 痛みと疑問の言葉をセイラムは繰り返す。


「種明かしをするとだな。これだよ」


 ソフィアはふところに隠していたモノを取り出してかかげた。

 それは鈍い光を放つアミュレットおまもり


「ああ。リュートは知り合いに腕の良い魔道具の技師がいてな。彼女に作ってもらったんだ」


 そういえば、と思い出す。

 オレのお守りを魔道具に昇華させたのはミーシャだ。

 そして、ミーシャはソフィアと一度、出会っている。そこでようやく謎が解けた。

 Eクラスの落ちこぼれなんかじゃない。ミーシャは、立派な一人前の技師だ。


「もっとも、これだけの代物を作るには材料費が馬鹿にならなくてね。その点では苦労はしたよ」


 勝者と敗者は決した。


「さぁ。秘術は破られたぞ。魔女セイラム!」


 ここに、勝者は高らかに宣言をする。

 ソフィアが勝利したのだ。――


うぅ……お仕事……

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