風の魔法
更新ペースは週一でいきたァい……。
ソフィアが駆けつけたおかげで状況は良くなった。
だが、まだ優勢には程遠い。
なぜなら、セイラムの目的はすでに達成されているからだ。
門の起動。――
こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ門は開かれてしまった。
その門は空間を捻じ曲げたような歪な穴として、セイラムの横に顕在している。
あと一歩で詰みの状況だが、ソフィアが食い止めているうちはセイラムは世界を接続できない。
オレが今すべきことは、加勢ではない。その行為は邪魔にしかならないからだ。
その隙に、まずはマリナを奪還する!
洞窟内部の通路は入り組んでいるが、そう遠くへはいけないはず。追うとすぐに見つけることができた。
「マリナを離してもらうぞ」
「リュート……!」
ここまでは順調。だが問題はその後だ。
マリナを連れ去った教団員、数は三名。セイラムの魔術で肉体を操られている彼らは凡そ人間とはかけ離れた膂力を持つ。力と速さは獣のそれと変わらない。
対するオレは徒手空拳だ。武器は、魔法のみ。
普通に戦えば勝ち目はない。
勝つためには……
「マリナ、少し伏せていてほしい」
うまくいくかわからない。だが負けは許されない。
こちらから向かうことはせず、間合いを確かめて拳を引く。
そしてその時を待つ――――
教団の男達はオレを補足すると、ジリジリと距離を詰めてきた。飛び掛かることはせず、間合いを詰めに来る。自動人形にしてはよく出来ていると感心する。
おぞましい技術だが、セイラムの知恵は本物だ。禁呪を扱えることや異世界を観測したことなど、驚嘆に値する魔法の数々を、彼女は運命を呪う一心で成し遂げたのだから。
だからといって許されることではない。
……まだ遠い、か?
そう思った瞬間、
一斉に、教団の男達が駆けた。
「……ッ!」
反応が一瞬遅れた!
マズい、とりあえず距離を取りつつ……いや、それじゃ間に合わない!
最大出力の突風を空想する。
思えば、自分には得意な魔法があったのだ。
それは風を起こす魔法。
おそらくこの世界で初めて脅威として目の当たりにしたのが風の魔法であり、強烈に脳裏に焼き付いたのだろう。
マリナとの決闘でも、詠唱なしで発動できるほど、簡単にイメージできていた。
敵は目と鼻の先。
オレにできるのは、風を起こすこと。禁呪は封じたままで勝たなければ意味がないのだから。
「――――ッ、ぶっ飛べッッ!!!」
そして、構えていた拳を振るい、最大出力の風を前方に巻き起こした。
切り裂くための鋭利な風。
否。
傷つける必要はない。ただ、逃げるための距離が稼げればいい。
風を受けた男達は、まるで奥の通路に吸い込まれるように、吹き飛ばされた。
地面に低く伏せていたマリナはどうにか無事だったようで、
「無茶、するわね……」
成功の見込みが低い作戦に悪態を吐きながらも、声音は優しかった。
「急ごう。奴らが戻ってこないうちに離れないと」
「えぇ…………、――――ァ」
マリナがふらついた。
慌てて肩を貸して支える。
「だ、大丈夫か? いや、大丈夫じゃないよな」
「そうね。ちょっと疲れてるかも」
早くしないと奴らが戻ってきてしまう。けれどマリナにこれ以上の負担は掛けたくない。
念のため通路を魔法で生成した土の壁で塞いだ。これでしばらくは駆けつけてこられないはず。
「リュート、先行ってて」
「え?」
「ここでアタシを守ってる場合じゃないでしょ。……どんな決断を下すにしたって、アンタはあの場所にいかなくちゃいけない」
セイラムと相対し、オレはこの世界を守る。
だがマリナを放ってはおけない……が、きっとそんなことを言えば怒られるな。目の前にいるのはそういうお人好しだ。
「アイツらが戻って来たらどうするつもりだ?」
「それなら心配ご無用、ほら」
マリナはスカートのポケットをごそごそと漁って、何かを取り出した。何も見えないが……?
あ。
何も見えない?
見えない何かを羽織るようにすると、マリナの姿が見えなくなった。
「透明マントか!」
「そ。あの女の持ち物検査が杜撰で助かったわ。魔力も上手く制御できなくされてるし、戦うことはできないけれど、身を守る手段はあるわ」
これがあるならたぶん大丈夫か。
「……ごめん、先に行く」
「こういうときはありがとーって言いなさい。そのほうが嬉しいんだから」
「ああ、そうだな。――ありがとう、マリナ!」
決戦の場に向かうため、急いで駆けだした。
……ソフィアは無事だろうか。
ここはセイラムの牙城だ、どんな罠があるかわからない。ソフィア一人に任せきりにはできない――。
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