救世主
大変遅くなりましたが、ようやく新生活に馴染みかけて更新に至りました。
今欲しいものは油田か、都心のマンションまるごとか、三億円です。以上です。
プレゼントしてくれる人、DMにてお待ちしております。
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「リュート……ごめんなさい……っ」
マリナの謝罪する声。
何度も、何度も「ごめんなさい」という言葉を繰り返すが、彼女の姿は大空洞の奥へと消えていき、声も届かなくなった。
……オレは、賭けに負けたのだ。セイラムに負けたのだ。
自分の意思で自由にならない体は、悔しさに涙を流すことさえ許しはしない。
【――ソル・スケイン・サナン――】
【――ァ・ソルァ! スティラ!――】
【――タ・ヴァ・グランド・ゴルィン……――】
【――ゴレナム・ラウーキ――!】
そして門は開かれた。
開かれてしまった。
「くふふ……これで……ようやく……!!」
勝ち誇るセイラム。
正真正銘、オレたちの敗北だ。
どうにもならない現実の前に、思考を捨てた。
不意に。
ドォン……と、地鳴りのような音が聞こえてきた。
少しして、パラパラと砂が落ちてきた。
「ッ!? 何事……!?」
セイラムも異変に気づき、慌てて周囲を見回す。
視界に映る情報のなかから、異変の原因を見つけようとするがこの視野に異状は確認できない。
「ええい、何が起こってるって言うの!?」
苛立ち、声を荒げる。
耳を澄ますと、音はどうも横から聞こえているわけではないようだと気づく。
「ま、まさか!」
砂だけではなく、こぶし大の岩までもが落下してきた。
つまり、
――――上だ!
この異変で、束縛の呪いが緩んだのか、わずかに首を動かして上を見ることができた。
…………
………………
……………………やるなら、今しかない。
<魔道具・起動>
魔力を通す。普段よりも魔力の循環が鈍い。
だがそれでいい。起動させるにはそれで十分だ。
<魔道具・発動>
バヂバヂと青白い電流が走る。
天井の岩盤が、大きな音を立てて崩れた。そして、松明の炎が映す大きな影が自分の上にかぶさる。影の正体は大岩だ。
そして、オレは――――
――――ぐしゃり、と潰された。
……否、潰されるはずだった。
その瞬間、体の拘束は解かれ、間一髪で抜け出すことができたのだ。
大量に振り落ちた岩石が、周囲に土煙を立たせて目くらましの役割を果たしている。その隙をついて、マリナの救出へ向かう。
足元に風を起こし、移動ブーストをかける。
セイラムには詠唱無しで魔法が起動できることは感づかれちゃいない。
…………。
……………………。
…………………………それにしても。
一体どうして、突然天井が崩れたんだろうか。
単なる老朽化とは考えにくい、あの異音は何だったんだ?――
不意に、煙の中に光を見た。
それは銀色に光る何か。
それは銀色に光る鎧。
煙の中で動くそれは人影。
淡い栗色の長い髪をたなびかせ、≪彼女≫は立つ。
「リュート! 聞こえるか! ああ、答えなくていいよ。君に私の声が届いているのなら、それでいい」
オレは、笑っていた。
ありがとう、ソフィア。
あなたはオレの救世主だ。
「おのれ……よくもやってくれたわね」
「魔女セイラム、それはこちらの台詞だ。貴様の練り上げた計画もここでオシマイだよ」
騎士と魔女が対峙する。
その出で立ちはまさに対極。武と知。聖と魔。あるいは光と闇。
「さて、こうして対峙するのは二度目だな。魔女セイラム」
ソフィアは切先をセイラムに向ける。
「ええ……。ええ……ッ! 二度も邪魔するとは、覚悟はできているのでしょうね」
「無論。あなたにはお縄についてもらう。それが私の、騎士としての職務だ」




