地底大空洞
卒業論文が終わりました。お待たせしました……
ていうかさすがにもう誰も読んでないんじゃあ(ry
先導するセイラムに従いながらも、その歩みは牛のように鈍く。
思う通りになるものかと、抵抗を続ける。わずかな抵抗でも無意味ではないはずだ。
「やれやれ……素直には従ってくれないのね。でもいいわ。どれだけ時間が経とうとも助けは来ないのだから」
意地悪そうな微笑みを浮かべる彼女。
これは賭けだ。
それも最高に分の悪い、他人任せの賭け。
作戦ですらない。
だけど、それでいい。信じなければ勝ちなどあり得ないのだから。
◆
どんなに遅く歩もうとも、その時はやってきてしまう。
通路を抜けると、土の壁で出来た広い空間に出た。
セイラムのアジトは、アリの巣のように出来ている地底大空洞だったのだ。
その空間の中央にはマリナがいた。手足に鉄枷を嵌められて、うなだれている。
「マリナ!」
わき目も振らず、彼女の元へ駆け寄ろうと――
【止まれ】
グン、と体が動かなくなる。
セイラムの魔法によって拘束され、指先までもが固まってしまった。
動けないオレの横を通り過ぎ、マリナに近づいていく。
(まて! 何をする気だ!)
声は出ない。
ポケットにはお守りがある。巻田から貰った何の変哲もないお守りだったが、それは今、魔道具としての機能を持っている。
魔力を込めれば発動する。そしてこの拘束を解くことが出来る。
しかし発動は一度きりだ。
「少し講義をしましょうか。あなたたちは私の魔法、肉体操作をどう思っているのかしら」
自慢げにセイラムが語る。
そんなの知るか。第一、口も何も動かせない。
「口くらいは、利かせてあげるわ」
気がつくと口は動くようになっていた。声も出せる。
「この世界の知識だけでは成しえなかったこと。リュート、あなたならわかるかしら」
コイツは何を言っている……。
魔法の仕組み? あちらの世界の知識? どうしてそんなことを聞く。
「…………」
「正解は、電気信号。つまり、肉体を停めるだけではなく……」
セイラムがマリナに手をかざす。
言いたいことがわかった。
「その手をどけろ……!」
魔道具を発動させるしかない!
そして奥の手のお守りを発動させようと――
「リュートッッ!!」
マリナが吼えた。
その一声でハッと我に返る。
「いいからアンタはそこでジッとしてなさい」
マリナはセイラムを睨みつけた。
「アンタ、運命って信じる?」
それは魔女にとっての怨敵である言葉だ。
「……ええ、信じるわ。その理を壊すために動いているのですから」
それを聞いたマリナは高笑いをした。
「ハッ、くだらないわ! 必死に生きて必死に死ぬ、それが運命だったのならどんな結果も受け入れる! 人間はそれだけでいいのよ」
「なら……運命に殺されたあの人は、あの人は、運命を『仕方ない』と受け入れてたって言うのかしら!」
「さあね。それは知らないけど、受け入れていないのは少なくともその人ではなく、アンタよ」
強い言葉でセイラムを否定する。
「未来だけでなく、現在・過去。これまでの歴史までも否定することになるアンタとは相容れない。それは人の成すべきことではないわ」
両腕を下げて脱力し、セイラムは静かに俯いている。
「そう……」
説得に成功したのか……?
「奇遇ね。私もあなたとは相容れない」
呟いて、再び手をかざす。
瞬間、マリナの右腕が、あり得ない角度に折れ曲がる。
大きな悲鳴が空洞の壁に反響する。
「ただでは殺さないから安心しなさい、死を上回る苦しみを味わわせてあげるわ」
PS:読んでもらえてたのなら、こんなに嬉しいことはないです。