再会
オレは。オレたちは。セイラムに敗北した。
冷気が肌を撫でる。どうやら薄暗い洞窟のなかにいるようだ。
抵抗できないよう、軽度の肉体操作の魔法を掛けられている。普通に歩くことや会話は問題ないが、強い抵抗はできない状態だ。
「ここが新世界教団のアジトか」
セイラムに問うと「ええそうよ」とあっさり答えた。
転移魔法を使われてここに連れてこられた。ソフィアたちの援軍はしばらく期待できないだろう。
「あそこで転移魔法を使ったのは失策だったんじゃないか? 魔力の残滓を読み取って、騎士団が向かってくるぜ」
「その心配はいらないわ。どうせ見つけてもたどり着けないのだから」
……たどり着けない? それはどういう意味なのだ。
「だって、この基地は地中深くにあるんですもの」
息をのむ。
つまり物理的にたどり着くのは困難ということか。
騎士団の援軍は望めない。
それはオレにとって絶望的な状況だ。
オレが囮になることで、アジトを特定し、そこを押さえることで事態を収束させるのが作戦の大部分であった。
作戦は失敗だ。となると、あとはオレとセイラムの一騎打ちしか手が残されていない。
カッとなってしまいそうなほど焦りを感じる。
残るは、
呪い除けのお守りと、破壊の禁呪。
この二つのみだ。やり合うには心細すぎる。
未熟な体術と魔法は手として数えるには貧弱だ。
焦るな、考えろ、打開する方法を。
「…………オイ」
「何かしら」
「マリナは無事なんだろうな」
三日ぶりの再会がしたい。
ひとまず、彼女の安否が気になった。
無事でいてくれることを願うばかりだ。
セイラムに案内され、向かった先にマリナは居た。
「あ……リュート……」
一瞬顔を上げたが、うつむいて小声でオレの名前を呼んだ。その様子はまるで来てほしくなかったかのようだった。
苛立ちはない。
マリナの心情としては、どうして逃げなかった、と憤るところもあるだろう。
「とりあえず無事で安心した」
マリナの肩が小さく揺れた。
――きっと、声は届いたはずだ。
自分の命だけ犠牲になれば、みんなが助かる。そんな状況だとしても、助けに来てほしいと思わないはずがないのだ。
「あなたが世界の門を開くことに協力してくれれば、すぐにでも彼女を解放するわ」
「そ、それはダメ!」
マリナが顔を上げて声を荒げた。
わかっている。協力は絶対にしない。
世界を犠牲にはしない。マリナも救い出す。
「そう。三日与えたけれど、選択肢は変わってないようね」
「……ああ。オレは、協力できない」
「わかったわ。こちらにも考えがあります」
セイラムはマリナに目を向けた。
「待っ、――――」
嫌な予感がして間に割り込む直後。
セイラムの指先が紫色に輝き、魔法がオレの体を射貫いた。
「ガッ、あ……」
肺が焼けるように熱い。
呼吸が、できない。
その場に崩れ落ちる。
マリナを守らなきゃ、と意思だけが奔る。
「そこで眠っていなさい。さて、仕込みを始めるとしましょうか」
無力さをかみしめたまま、最後には意識も落ちた。




