助けに行く
操られた騎士の膂力は驚くべきものだった。一般人の肉体を強化した時点で、恐るべき怪力を誇ったのだ。当然、騎士の肉体をベースにすればそれ以上のスペックとなる。
さきほどまで優勢だったヴァルグルント騎士団の陣営も、今は統率が乱れ、新たなセイラムの勢力に圧されている。
「く……落ち着け! 隊列を再編しろ!」
ソフィアの顔からは焦りと汗が浮かんでいる。
殺すことを良しとしない方針が産んだ失態だ、自分のせいで部下が傷ついたとあれば、悔しい思いでいっぱいになっている当然だ。
そんな彼女の顔を、オレは見たくない。
動くなら、このタイミングだ――――
「リュート?」
顔を上げ、一歩踏み出す。
そしてセイラムに接近する。
「リュート! ダメだ!」
「大丈夫。ここで動かなかったら、オレはいつ動くんだ」
「……ッ」
ソフィア。キミは騎士団長なんだ。
だったら何を優先するべきか、その判断を誤ってはいけない。
今優先すべきはオレなんかじゃないのだ。
「なあ、セイラム。あの魔法は解けるんだろ?」
セイラムに話を持ち掛ける。
「ええ。私の意思一つで消すことができるわ」
「ならそうしてくれ。頼む」
「構わないけれど、もちろん見返りはあるのよね?」
「オレを連れていけ。抵抗はしない」
まずはこの場を穏便に済ませる。
この先の交渉は……わからないけど、そこは後で考える。
「わかったわ。これ以上のもめ事はこちらとしても望むことではないし」
セイラムの正面に立ち、そのまま抵抗することなく、魔法を受け入れる。
チラ、と背後に視線を向けると、ソフィアの寂しそうな顔が目に映った。これが今生の別れというわけでもないのに、二度と会えないであろうと絶望したような表情だった。
踵を返し、向き合う。
そして、
「またな」
と笑って言った。
――転移魔法が発動する。
一瞬の頭痛、暗転する視界。どこか既視感のある状況だった。
オレはこの光景を知っている。いや、一度体験している。
そして思い当たった。
ああ、オレは元の世界から転移魔法で異世界に召喚されたのか。




