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剣と魔法


「お前、たな」


 オレはセイラムを睨む。

 電子に満ちた文明を、その仕組みを。彼女はたからこそ、その魔法を実現できた。


「ふふふ……まるで魔法だった。いいえ、魔法以上だったわ」


「待て。何の話をしているんだ?」


「……自動化オートメーション、人間の行動を自動化したんだ。セイラムは」


 肉体操作と自動化。相性が良すぎたんだ。

 そしてセイラムが感づき、それを実行に移した。その結果がこれだ。


「そんな高度でおぞましいことが……リュートのいた世界では出来ていたのか」


「いや、自動化っていう考えはあっただけだ」


 悪用された知識の末路。

 しかし、操られた人間はどうなるのだろう。操作されているのは肉体のみ、だ。そこにある意思はどうなっている?


「生きながら肉体を操作され続ける苦悩は、想像を絶するでしょうね。とっくに気が狂っているはずよ」


 いよいよ耐えかねたソフィアは切っ先をセイラムに向けた。


「もういい、よくわかった。貴様はここで倒す!」


 地面を強く蹴り、間合いを一瞬で詰める。

 そして斜めより鋭い一閃を放った。


「あらあら、怖いですわ」


 しかしそこにセイラムはいない。


「ほう、素早いな。話には聞いていたが、これが転移魔法か」


「いかなる剣技であろうと、私には届かない……」


「…………」


 ソフィアは静かに剣を降ろした。


「あら? 降参かしら? そうよねぇ、自慢の剣が通じなかったんだものねぇ」


 愉悦を押さえられないセイラムは哄笑する。

 煽られてなお、ソフィアは微動だにしない。オレはここで動いてはいけない、まだ交渉は生きている。

 ――――ここに、勝敗は決した。

 呆、と小さなため息をついて、


「少し周りを見たほうがいい」


「……なんですって?」


 ソフィアに促されてセイラムは慌てて周囲に目を配る。

 そのとたん、余裕だった笑みは消え失せた。

 数多くいた教団の兵士は、一人も立っていなかった。

 反対に騎士団の兵士は、傷を負っている者はいても、誰一人倒れていない。

 勝敗は決した。ヴァルグルント騎士団の大勝利だ。


「こ、これほどまでとは……!」


「誤算だったか? 力と速さだけで勝てるほど、我らは甘くない」


「騎士団がこれほどまで躊躇なく人を殺せるとは思っていなかったわ」


「何を言って……」


「すべて峰打ちだ、と言っているのだ。私がそう指示をした」


 殺さずに勝つ、それはつまり手加減をして勝ったということだ。

 万が一にも、セイラムに勝ち目などなかったのだ。


「クフフ……あははははははははは!!!」


 セイラムは壊れたように、笑う。笑う。笑う。

 敗北を認めたのか……?


「魔女セイラムッ! おとなしく降伏しろッ!」


 数人の騎士が取り囲み、剣を向ける。

 しかし、まだ笑う。

 …………イヤな予感がする。


「ぐぁッッッ!!?」


 背後で、騎士の悲鳴が上がった。

 それから剣と剣のぶつかり合う激しい音が聞こえてきた。

 何事かと振り向けば、ヴァルグルント騎士団の兵士が同士討ちを始めていた。


「何をやっている!」


 騎士団長であるソフィアが止めるように声を上げるが、それでも彼らは剣を止めない。

 否、止められないのだ。


「うふ、うふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


「これは貴様の仕業か……!」


 兵士がセイラムに操られていることは明白だった。


「さあ、第二ラウンドといきましょう!」


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