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虚ろな闇


 そしていよいよ決戦の時はやってきた。場所はマリナが連れ去られたあの路地。オレを囮にして、周囲にはヴァルグルント騎士団が身を潜めている。

 隣にはソフィアもいるから、万が一の奇襲にも対応ができるだろう。

 やれる手はすべて尽くした。これでダメなら他に解決方法が思いつかない。

 だから、逆に不安になる。

 セイラムは本当に来るのか――と。

 マリナを助けられない未来を一番に恐れている。

 ポン、と肩に手が置かれた。固く冷たい鎧を纏ったソフィアの手。その堅牢な騎士の甲冑が逆に安心させた。

 来る。絶対に。

 アイツはオレを欲している。


 これは世界の命運をかけた戦いだ。けれどそんな実感はない。

 ヒーローのように、大勢の人を助けるために戦うなんてご立派なことはオレには無理だ。

 それでも……戦う理由は、ある。

 この世界に来て多くの人に助けられた。だから、この世界が好きなんだ。

 世界の危機を見て見ぬふりなんて出来っこない。


 マリナを助ける。

 オレの我がままに付き合ってくれた彼女をオレは見捨てたくない。

 ……少し、口が悪いところはあるけども、それは照れ隠し。本心は優しいのだ。

 無茶な決闘を挑んできたのが馴れ初めだった。行動は滅茶苦茶だけど、全部優しさから来ていると知ればそれは可愛く見えてしまう。

 だから、オレのせいで犠牲になっていいわけがないのだ。


 ソフィアには迷惑を掛けた。

 この世界で困っていたとき、はじめに助けてくれたのが彼女だ。

 彼女の存在が無ければ今頃はきっと死んでいただろう。だから……恩返しをしたい。

 数々の過ちを犯してしまった。今でも後悔している。そんな間違いを犯してもなお、彼女はオレを心配してくれた。

 全てが終わったら、ありがとう、って言いたい。言わなくちゃいけない。

 そのためにもこの世界を守り抜くんだ……!


 セイラムには強力な魔法がある。禁呪の力も使い、理の外から仕掛けてくることも考えられるだろう。

 確かに脅威ではある。

 対するこちらはソフィア率いるヴァルグルント騎士団。彼らがいるだけで心強い。

 オレには少しだけ魔術の心得があるが、マリナとの闘いのようにはいかないだろう。使えるカードは、破壊の禁呪と、呪いを防御するお守り。どちらも一度きりの使用しかできないが、タイミングを間違わなければセイラムの企みを阻止できるはずだ。


 ――――覚悟は決まった。

 さあ来い、セイラム………………!!


 遠い闇の中から、黒いローブを身にまとった女性が歩いてきた。

 間違えるはずもない、セイラムだ。

 ……が、その背後には複数の人影があった。


「どういうことだ……ッ!?」


「リュート、セイラムは新世界教団と名乗っていたな?」


「あ、ああ」


「セイラムを危険視していたのは、街から複数の失踪者がいたからでもあるんだ」


 つまり、敵はセイラム一人ではないってことか……!


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