大切なもの
おそらく、ちょっとした総集編回。
作者的にもキャラの心情整理の回となっています。
禁呪を覚えたその翌日。
オレはソフィアと買い物に出かけていた。
なぜこんなことになっているのかと言うと、
「キミは戦の要だ。故に、絶対に守らなくてはいけない。そうなると護衛は必要だ」
……こんな理由からソフィアに連れ出されたのだ。
完璧に守り切るなら家から一歩も出さないほうが良いのでは? とも思う。
それに対しての返事は、
「だって、それでは楽しくないだろう――?」
というものだった。彼女は優しく微笑みながらそう言った。
誰が。という主語が抜けているその言葉。
きっとそれは彼女の思いやり。だから断る気はなかった。
そうしてありがたく二人で街を歩く幸せを得たのだ。
この世界に来てから、ソフィアと二人で過ごした日々をオレは思い出す。
オレは心の底から救われた。
一人きりだった世界にただ一つの居場所ができた。
それはまるで救世主のようで――そんなソフィアに依存した。
どこかで捩じれてしまったのだろう。
そして、悲しませた。絶対的な間違いを、オレは犯した。
「リュート、久しぶりにシチューという料理が食べたいのだが」
「ああ。わかった」
目を瞑って思い返すようにして言っていた。
その幸せそうな顔を見ていると、ついこちらも頬が緩んでしまう。
「な、何かオカシなことを言っただろうか」
「いいや。こういうのっていいなと思ってさ」
少し驚いたような表情をしたあと、
「そうだな。私も同じようなことを考えていた」
穏やかな笑みを浮かべた。
◆
街の中央にある広場は、中心に噴水があり、その周囲を露店が囲むようにしてたと並んでいてちょっとした祭りのような雰囲気がある。
「ん? あれは……」
噴水の縁に腰掛けるようにして座っている一人の女性がいた。うつむくようにして何かをやっているようだが……。
「ソフィア、ちょっとだけ外してもらっていいか?」
「それはまたどうして」
「知り合いに挨拶したいんだけど」
他人との接触を許可することを迷っているのか少しの逡巡をしたあと、
「わかった。ただし遠くから監視だけは続けさせてほしい」
最大限の譲歩。
礼を言ってソフィアから離れ、噴水のそばにいる彼女に声を掛ける。
「ミーシャ、何してるんだ?」
「わ、リュートくん!」
隣に座る。
声を掛けられるまで気が付かなかったし、よほど集中していたのだろう。
魔法の練習……なのか?
「えっと、ですね。魔道具を作っていたんです」
「魔道具……?」
「はい。魔法を扱うには鍛錬が必要ですが、魔道具にはそれが要りません。魔法を道具に落とし込んで誰でも扱えるようにしたものが魔道具です」
なるほど。
それはかなり便利だ。でも、なんでこんな場所でやっていたのだろう。
「部屋で作業しているよりも何だか落ち着くんです。ここって、いろんな音や匂いがして好きなんです」
それは少しわかる気がする。おそらく自室よりもファミレスが落ち着くのと同じ理屈だろう。
「ミーシャって器用なんだな。魔道具を作れるなんて」
「私、実は魔道具の技師になりたいんです。そのために魔法学校にも入学しているんです」
「そうだったのか。立派なんだなミーシャは」
パタパタと慌てて手を振って否定する。
「いえいえ! まだ私なんて!」
ミーシャの夢を、オレは心から応援したい。
セイラムという魔女は、オレを使ってこの世界――いや、元居た世界をも壊そうとしている。どちらの世界にも大切な人がいる。
絶対に壊させてたまるものか。
「それじゃ――頑張れよミーシャ」
立ち上がって、ソフィアのもとに戻ることにした。