一日の終わり
途方に暮れ、おもむろにスマートフォンを取り出した。
通信が必要なゲームはもちろんできない。いくつか入っているカジュアルゲームをやることにした。
ポチポチと、画面をタップするだけ。
今は単純なゲームが心地よい。
帰りたいが帰れない。不安だけが募る状況で、この先のことを考えたくはなかった。つまり現実逃避。
三十分ほどが経過したころ、ようやく冷静さを取り戻した。
(何やってんだろ、オレ)
追い詰められたときこそ、行動しなきゃダメだ。
さっきのように憲兵に捕まるような事態は避けなくてはならない。まずは生き抜く最低限の手段を考えよう。
――――盗むか?
いや、ジリ貧になるのが目に見えている。足に自信がないわけではないが、いずれ捕まるだろう。
……物乞いはどうだろう。
これなら迷惑はかけない。ひとまずはやっていけそうだ。
憲兵にギリギリ見つからない建物の影で、膝をつき頭を低く下げて、手のひらを受け皿にして両手を前に出す。
うわ、すごい惨めな気分だ。
ひたすら頭を下げていると、手のひらの上に何かが置かれた。見ると、さきほど手に入れようとした紫の林檎があった。
「あ、ありがと……」
――それをくれたのは幼い少女だった。
その後ろの親らしき人物は少女の手を引き、立ち去るように促す。
少女は微笑みながら、小さく手を振った。去ってゆく姿を眺めながら、手を振って返す。
目が、熱くなった。
情けなさと、温かさで、涙が止まらなかった。
その果物を齧る。
甘くて瑞々しくて、こちらの世界の林檎と大差はなさそうだった。いくぶん酸味が強いようには感じる。
「……よし」
物乞いはオレには向いてなさそうだった。
手あたり次第に、働き口を探そうと行動を開始する。
が、汚い衣服と言葉すら通じない異邦の人間だからか、どこも門前払いを受けてしまう。
日は暮れて、灯りは微かな月明りと街灯が照らすのみ。
寝床の確保すらできないまま、一日が終わろうとしていた。どこかの馬小屋でも借りられればよかったのだが。
路地裏に身を潜め、小さく丸まって寝ることにした。ここなら憲兵に見つかることはないだろう……。
そうして目を閉じて、休息をする――。