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死を忘るること無かれ


     ◆


 禁呪の書物を一冊、読み終えた。

 この書に記されていたのは、“破壊”の魔法だ。


「破壊する対象について、詳細なことは書かれてないけど……」


 これは普通の攻撃魔法とは一線を画していることは明らかだ。禁呪は、莫大な魔力を消費して発動する魔法。とうぜん大魔法でなくてはならない。

 最低でも天候制御レベルの魔法を要求される。セイラムは、空間の転移を実現していた。


「世界を繋ぐ特異点――――か」


 セイラムが言った言葉。オレの存在はどうやら、この世界と元の世界を繋ぎとめる楔として機能するらしい。

 ……破壊の魔法なら、その特異点を壊せるだろうか。

 可能性はある。しかし、曖昧な対象はおそらく壊せない。

 それに、付け焼刃の禁呪であることも問題だ。知識として理解することと、力を行使することは天と地ほどの差がある。


「一度試すべきだな」


 だけどこの選択は最悪、死ぬ。

 ふと、考えてしまう。

 死んだらどうなるんだっけ。

 オレが死ねば、新世界教団セイラムの計画はおじゃんだ。とりあえず世界を守ることはできて、めでたしめでたし。

 マリナも用済みになり、助かる可能性は低くない。

 教団が危険な集団だから、騎士団が躍起になっているわけだ。ソフィアだってひとまず安心できる。

 なんだ、いいこと尽くしだな。

 死んだほうが役に立つんじゃないか。オレ。

 禁呪を覚えなければ、セイラムと相対したとき敗北は必至だ。どのみち、死の危険は避けられない。

 庭に出て、さっそく禁呪を発動させてみる。

 対象は……適当にあの木でいいだろう。十メートルほど離れたところにある、一本の広葉樹に狙いを定める。

 オレが死ねばハッピーエンド、生きていればトゥルーエンド。ってね。

 まあ死んでもいいかー、と気楽に禁呪を発動させることにした。

 理解できる言葉ではない言葉を声にだす。お坊さんが読み上げるお経と似たようなものだ。仏教では確か音写っていうんだっけな。音だけを模した意味のわからない羅列。


【――ァ、――ディヴ、ォウジャ――】


 理解する必要はない。この音は世界から魔力を借りるキーでしかない。

 自分のうちにある回路に、別の回路が接続される感覚。

 今から行うのは、内部のみの魔力でまかなえる小規模な魔法ではなく、世界から膨大な魔力を借り受けて発動させる大魔法。

 ――――接続コネクト完了コンプリート

 魔力の奔流を感じる。

 よし。ここまでは成功だ。

 魔力をため込む器が壊れる前に、禁呪を発動させるとしよう。


【あの木を、破壊しろ】


 呪文を唱えた。

 けれど魔法は発動しない。


「な。なんで!?」


 魔力は体内にとめどなく流れ込む。その流れは止まらない。


「ま、ず……ッ!」


 発動しない理由は明白だ。魔法は例外なく、イメージによって構成される。そのイメージが正しくない場合、魔法は施行されない。

 つまりこのままでは、世界から受け取った魔力を消費しきれず、魔力は体内で破裂する。

 軽い気持ちで禁呪を発動させれば死ぬなんてことは、理解していただろう。

 いや。正しく理解していなかったのか。

 死んでもいいといういい加減な気持ちが、安易に禁呪を使わせた。


「リュート!!」


 ソフィアの声がする。異変に気づいて駆けつけたのだろう。

 死ぬ。

 死ぬ。

 このままじゃ死ぬ。

 脳裏に浮かぶ死の妄想イメージ虚無ゼロの世界。

 ――それを、禁呪として発動させた。

 瞬間。

 視界が暗転した。

 オレが覚えていたのはここまでだった。


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