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協力者

 保護、という名目でソフィアの家に上がり込む。

 暖かい気持ちと、それに反して頼りたくなかったという本音がせめぎ合う。これまで何度も助けられてきた。そしてまた今回も……。

 男として、情けない。

 いや、感情は二の次だ。

 セイラムの目的はオレだ。そのためにマリナを攫っていった。これ以上、自分のせいで誰かを傷つけたくないから、ソフィアを遠ざけていたのだ。

 リビングの大きな食卓でソフィアを待つ。紅茶を用意して、彼女が現れた。


「ま。とりあえず冷めないうちにどうぞ」


「……いただきます」


 以前と変わらぬやり取り。

 どこまで行っても、きっとソフィアは優しさを貫ける人間だ。


「…………」


「ん?」


 言えば、巻き込むことになる。

 何度ソフィアに助けられれば気が済むんだ。

 そう思うと同時に、マリナはどうなる、と問いかける自分がいた。


(きっと、オレ一人じゃ助けられない)


 最後の最後、交渉でセイラムの条件を飲めばマリナは助かるかもしれない。だがその結末は破滅だ。マリナと世界を比較して、マリナを選ぶという最低の選択肢。

 口が開く。オレが頼れるのは、この世界ではソフィアしかいない。


「助けてくれ……頼む……」


 何だ。恩返しをするだとか、誓っておきながら、オレはまた彼女を頼る。

 我ながらあきれ果てる行動だ。


「……まず、何があったのか。聞かせてほしい」


 これまでの経緯を話す。

 セイラムのことや、マリナが連れ去られてしまったこと……。

 だけど、オレは自分のことを話すべきか迷ってしまった。

 異世界から来た人間、そんなことを話して、はたして信じてもらえるだろうか。話はますます信ぴょう性が低くなるばかりだ。

 オレは……


「ソフィア。信じてもらえるかわからないんだけど」


 やっぱり隠し事はナシだ。オレがオレ自身を許せない。


「ここじゃない別の世界からやってきたんだ」


 そして、あの夜、ソフィアと出逢った。

 そしてキミに救われた。

 数えきれないほどの恩を、キミからもらったんだ。


「な。ちょっと待ってくれ……にわかには信じられないが、本当なのか?」


 ――――オレはうなずいた。

 すると、ソフィアは頭を下げて、


「ずっと私はそれを知らずにキミと接していたんだな」


 自嘲するように言う彼女は寂しそうで、どう声を掛ければいいのかわからなかった。


「ごめん」


「……わかった」


 ソフィアは顔を上げてオレの瞳を真っすぐ射貫いた。その目は、どこか冷たく遠く見えた。やはり打ち明けるべきではなかったのだ。


「これまでの話を信じると、新世界教団のセイラムという女性は三日後に特定の場所に現れるんだな? これに間違いはないか?」


「あ、ああ」


 事務的な声に戸惑ってしまう。

 オレはソフィアを傷つけてしまった。言うべきではなかったと後悔する。


「協力、感謝しよう。これで反乱分子を確保できる。あとは私たちに任せてくれ」


 ソフィアの言う、私たち、の中にオレは含まれていないのだと気づいた。

 慌てて口を開く。


「待ってくれ。オレが約束を破ればマリナはきっと殺される。だから、」


「その場所に連れて行ってほしい。と?」


 力強く首肯する。そうでなくちゃ協力ではない。


「……残念だが、それは引き受けられない」


「どうして!? 民を守るのは騎士の役目じゃないのか!」


 激高して怒鳴り上げる。ソフィアは強い眼差しでオレを見ていた。その裏には何かがあるはずだと、心のどこかでわかっていながら、気が付けなかった。


「キミも、その守るべき民だということを、忘れないでほしい」


「…………それならマリナはどうなるっていうんだ」


「もちろん最善を尽くす。けれど教団との交渉において、キミの存在は最大の切り札だ。安々と切るわけにはいかないんだ」


 話は平行線をたどるだけだった。

 目の前にいるのは、オレの知るソフィアではなく、騎士団長としてのソフィアだ。被害を最小限に抑えるための理で動いている。

 そして直感した。

 教団の野望を阻止するという目的は共通だが、協力者にはなり得ない。

 それがハッキリした。してしまった。


「……わかったよ。話はこれで終わりだ」


「マリナ殿の屋敷には私が連絡を入れておく。三日まではここで寝食してくれ」


 元居た部屋を自由に使って構わないと言われた。

 ああ。と気の入らない返事をして、リビングを後にする。与えられた部屋に入り、壁を背にして座り込んだ。

 望みは絶たれた。オレに協力者はいない。

 親しいのは、あとはミーシャくらいか。でも彼女は戦えないだろう。それに、優しすぎる。きっと協力はしてくれると思う。

 だけどセイラムに敵うはずがない。巻き込むだけ巻き込んで、またオレは大切な人を傷つける……!


「ハ、ハハ、ハハハハハ……そうか……そうだよな……」


 ――――間違っていたんだ、オレが。

 誰かに協力してもらおうなんて考えがそもそも違うんだ。

 禁呪の本を取り、読み始める。

 オレが強くなればいいんだ。オレが、マリナを助けるんだ。


ようやくプロットを修正できた……。結果がこれだよ。主人公なんて闇落ちしちまえ!

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