潜入-Act2-
透明マントの中に二人で入り身を隠す。
そして、異界となった見慣れた校内へ一歩、足を踏み入れる。
ドックン、ドックンと心音が激しい。うるさい。止めたくても止められない。
周囲を彷徨う影の住人。彼らに気付かれたら一巻の終わりだとマリナは言った。
息が上がりそうになる。
それでも何とか必死に呼吸を整えて、校舎までたどり着くことが出来た。
奴らに見つからないよう、裏口から校舎に入り込む。
「ふぅ。潜入成功ね」
どうやら、校舎の中にまでは影の住人のいないらしい。
マントから出て一息ついていたら、顔を赤らめたマリナが不満げにこちらを見ていた。
「アンタ、アタシの背中とかお尻触ってたでしょ」
あらぬ容疑をかけられてしまった。やましいことは一切してない。それは誓う。
「い、いや当たってただけっていうか」
「当たってたも触ってたも同じよ!」
あとで覚えておきなさい、とプリプリしながら言った。帰るのが少し怖い。
それはそうと、一つ気になることがあった。
「マリナ。鍵は……どうやって手に入れたんだ?」
裏口は当然、施錠が掛かっていた。
「普通に複製しただけよ。施錠は当直の教師がやるから、その人の部屋に行って鍵の型を取ってきたの」
「すごいな……」
「当然よ。秀才を装ってるから、お茶の子さいさいってね」
悪いのは口だけじゃなくて手癖もだった。
普段の行いが良く教師に気に入られてるのなら、不審に思われることもなかったのだろう。
禁呪の書庫は一般の魔法書籍と違い、地下に置かれている。階段を一段降りるごとに、足から冷たい空気が上ってくる。
「ここから先が鬼門ね」
「何か、あるのか」
マリナはやけに険しい顔をしていた。
「禁呪ってのは簡単に手に入れていい代物じゃない。だから、その扉は厳重な魔法障壁が掛かってるのよ」
扉を見れば錠前はなく、取っ手すらない。どうやって開けるのか考えていると、
「こうやんのよ」
マリナが扉に手を当てる。すると、青白く発光する幾何学模様が浮かび上がってきた。彼女が扉から手を離すと、その模様は消えていった。
「このパズルを解くと扉が開くのよ」
「へぇ。できるのか?」
聞くと、ちょっとだけ苦しそうな顔をした。
「わかんない、ここは五分五分。できなかったら日を改めるしかないわね」
ちょっと集中するから、と会話が切られ、そして再び魔力を扉に通した。
……静かにその様子を見ていると、額に汗を滲ませていた。相当難しいようだ。
五分ほど経過したところで、
「よっし!」
とマリナが声を上げた。
同時に扉がズズ……と、重たい音を立てながらゆっくり沈んでいった。
「ようやく禁書とご対面ね。さ、行くわよ」




