表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/43

禁忌の呪文

 マリナは顔をしかめていた。


「嘘……じゃないのよね。呪いは発動してないし」


「ああ。こんな話、信じてもらえるとは思えないけど」


「信じるわ。それで? どんな世界なの?」


 自分の知識の範疇はんちゅうで、元居た世界のことを伝える。

 魔法の存在しない世界だということ。文明はこちらよりも発展していること。自分は日本という島国に住んでいたということ。

 興味津々に食いついてくれるから、話し甲斐がある。


「文明は発展してるのよね。その技術でこっちに来たわけ?」


「さすがにそれはない。異世界なんて誰も存在してると本気で信じてないよ」


「じゃあ、どうやって来たっていうのよ」


「あの時は……声が聞こえたんだ」


「声……?」


 オレはその謎が知りたくて魔法学校に入学した。未だにその真相には迫れずにいるわけだが。

 あの時の呪文。ハッキリとは覚えてないが、雰囲気は伝えられる。

 その呪文を口にした。

 するとマリナの表情がみるみる変わった。


「――――やめなさい」


 打って変わって強い口調で止められた。


「わかったわ。アンタがどうやってここに来たのかってこと」


「本当に!?」


 彼女は頭を抱えて、深くため息をついていた。


「禁呪、よ」


 マリナが言うには、現在の魔法とは別系統の魔法らしい。そんな魔法があるなんてオレは知らなかった。


「魔法を唱えるとき、アタシたちはよく【○○の精霊に願いたてまつる】って言うわね」


 授業で習ったことを思い出す。


「確か、精霊に力を借りることで魔力を増幅したりできるんだっけ」


「そうね。禁呪はアタシも詳しくは知らないけど、悪い精霊や別の何かから力を借りる魔法だって言われているわ」


 仕組みがわからない魔法を使い続けることは危険だと判断され、安全な魔法を推奨され、今の形に落ち着いたとのことだった。

 マリナは、禁呪について軽く授業で触れた程度しか知らないらしい。さらに、EクラスやDクラスでは禁呪に関する知識は一切得られないという。


「はぁ……聞かなきゃよかった……」


 大きなため息をついてうなだれている。


「そんなに禁呪ってヤバいのか」


「法で禁止されているのもあるけど、何より威力が格段に違うらしいわ。アタシも知識としてしか知らないから見たことはないんだけど」


 謎が一つ解けた。

 オレは、この世界に禁呪でやってきたのだ。

 つまり、その禁呪さえわかれば帰れる可能性がある。


「……アンタは、元の世界に戻りたいの?」


「こっちの世界も悪くない。でもやっぱ帰りたいな」

 ふぅん。と興味なさげにマリナは返事をした。

 少し何かを考え込んだ後、


「なら協力するわ」


「えっ」


「協力するって言ったのよ」


 マリナの口から信じられない一言が出た。協力してもらえるとは思っていなかった。


「それは助かるんだが、どうやって」


「禁呪の書庫に忍び込む」


 情報を手に入れるために、情報のあるところに行く。それは理屈として間違ってはいない。ある点に目をつぶればの話だが。


「…………バレたらどうなる?」


「とーぜん、二人そろって死刑ね」


 む、無茶苦茶だ!

 さすがにそこまでのリスクを冒すのは考えてない。


「そ、乗り気じゃないならいいわ。一生帰れないわよ」


 なぜ死のリスクを冒してまで、オレに協力しようとするのかその意図が不明すぎる。


「……ひとつ、質問させてくれ」


 リスクの話は、実のところ些事さじに過ぎない。それよりも、もっと大事なことがある。


「なんで、オレに決闘を挑んだ?」


 さっき飲んだ丸薬のおかげで、マリナは嘘をつけない。発動すればすぐにわかる。


「気に食わなかった、それが理由よ?」


「違う。聞きたいのはその先だ。なぜ、気に食わなかった?」


 よっぽど追及されたくないのか、うっ、と短くうめいた。


「食い下がるのね……」


「答えなければ呪いが発動するんじゃないか?」


「ああもう、答えるわよ! ……魔法が使えるか使えないか、なんて、そんな小さな小さな理由で虐められているEクラスが気に食わなかったの」


 恥ずかしそうにして顔を赤らめていた。言いたくなかったというのは良く伝わってきた。

 つまり、お節介だったのだ。


「だいたいアンタね、上のクラスに逆らったらどうなるかわかってた? 決闘を挑まれて、無茶な条件を押し付けられてたわよ!?」


「それはマリナもじゃないのか」


「まあ。勝ったらコキ使うくらいはしてたけど、奴隷にしたりはしないし」


 表には出さなかっただけで、本当は優しいんだろう。

 最も大事なことはリスクのデカさじゃない。信頼できるかできないか、それが一番だ。

 オレは手を差し出した。


「協力お願いするよ」


 そして握手を交わす。信頼に足る、そう判断したからだ。


「あともう一つ、質問させてくれ。なぜリスクを冒してまで協力する気になったんだ?」


「禁呪は危険だからよ。異世界の住人を召喚する魔法なんて聞いたことが無い。何をしでかすつもりかわからないけど、放ってはおけない」


 やっぱり、どこまでも世話焼きな気質のようだ。


「それなりに準備がいるから、出来次第教えるわ」


 おやすみ、と言って彼女は部屋から出ようとする。

 あ、聞きたいことがもう一つあった。


「結局、この呪いの効果は何だったんだ?」


「ん? 全身の感覚を鋭敏化させる呪いよ。たぶん20倍くらい? 悶え苦しむアンタを見て遊ぼうかと思ってたんだけどねー」


 そう言い残して部屋から出て行った。

 コ、コノヤロウ……。

 もしかしたら、この家を借りる判断が間違っていたのかもしれない。

 都合のいい玩具オモチャ扱いを受けている気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ