決着
ソフィアに体術を習ったおかげで、移動の風魔法と組み合わせることができた。
しかし魔法は移動の補助に過ぎない。そのため、移動と移動の間隙を狙われたときが弱点となってしまう。その隙を悟られてはいけない。
そのための体術だ。
必殺のつもりで放った火球の魔法を躱されて、マリナは驚いているようだった。
「ずいぶんと身軽なのねアンタ」
「そりゃどうも」
驚きはしたようだが、状況に変わりはない。制御できる速度では、懐に入るまでに火球に撃ち落される。
だから、このまま必殺の魔法を放ち続けてもらう必要がある。
オレの狙いは持久戦だ。マリナのガス欠を狙う。
こちらも風魔法を使えば当然魔力は減るのだが、消費量はあちらが圧倒的に多い。湯水のように魔力を使用するからには、おそらく魔力量にも自信はあるだろう。
それでも必ず底はつくに決まっている。
「なら根競べと行きましょうか!」
マリナの背後の無数の火球が生成され一斉に射出される。
二十……いや、三十はあるか。
絶大な魔力がなせる力業としか言いようがない。
足元に風を吹かせる。
「逃がさないわよ――――ッ!!」
後方に逃げながら、ギリギリのところで回避し続ける。
(よし。これなら、何とか見える!)
しかし、何か違和感を覚えた。
数を増やしたところで、火球は直線的な動きをしているため、見切るのが容易だ。
あまりの衝撃で、土埃が舞い、視界は悪くなっていた。
そこで、致命的な失態に気づく。
「目がいいのなら、潰すまでよ」
土煙のカーテン。その奥から突如現れる火球。それを間一髪で避けた。紙一重だったため、ジッ、嫌な音がして服の焦げる匂いが漂った。
――どうする!?
この土煙の中を逃げ続けるのは困難を極める。ここから逃れようと姿を見せればそこを狙われて詰みだ。
……使うしかないか。
周囲の土煙を払うために魔法で突風を起こした。魔法は範囲が広ければ広いほど、イメージも難しくなり、魔力の消費も激しくなる。
持久戦狙いの行動に反する悪手だ。
「そんなに魔力を使っていいのかしら?」
また、大量の火球をマリナは生成した。完全に弄ばれている。
その火球の群れが一斉に射出された。後方に回避すれば先ほどの二の舞となる。
だから、前に出ることにした。
低く屈んで一気に駆ける。
「そっちも想定済みよッ!」
火球の雨の中を必死になって回避する。一発でも当たれば無事では済まない。その瞬間に敗北が確定してしまう。
土煙が舞う。
回避し続けるには困難な条件だ。
だから、さらに前へ出る。
マリナの周囲を高速で走りながら避ける。避け続ける。
「くっ! ちょこまかと……!」
彼女の声には苛立ちの色が見えていた。
……よし。策は整った。
「おい。周りをよく見てみろよ」
「――――え?」
そこでマリナは嵌められたのだと気づいた。
視界は最悪。どこからでも奇襲をされかねない状況に追いやられているのだと。
さあ、これでチェックメイトだ。
魔力を込めた木刀を振るう。背後からマリナのオーブを割ろうと――
【爆発を起こせ】
マリナの口から小さく呟かれたその一言。それは魔法の引金。
直後、彼女を中心に周囲が爆発した。
その爆発に巻き込まて、オレは吹き飛ばされた。
「ぐあッ……!!」
爆発の衝撃で飛ばされて、地面を転がった。
最後の最後で、詰めを誤った……!
所持していたオーブを確認すると、見事に割れていた。
「これでアタシの勝ち、ね」
マリナがオレを見下ろしている。
「……そうだな。約束は守ろう。敗者は何でも一つ言うことを聞く、だったよな」
「ええ。でも残念」
勝者の口から洩れる言葉にしては、少し奇妙なことを言う。
残念? それはどういう――
マリナが懐からオーブを取り出した。
「アタシのも、割れてるのよね」
「は?」
オーブは自分の魔法では割れない。つまり、オレの木刀が届いていたということだ。
オレとマリナは審判に視線を向けた。
「え、えーっと……」
あたふたしながら、返答に窮している。ダメだこりゃ。
「アタシの負け」
マリナは自らの敗北を宣言した。
「待った。どうして?」
「だって、魔法でアンタは吹き飛ばされた。その前に木刀が届いていたとしか考えられないでしょ」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。
だが、正直すぎないか? だって負けたら何をされるかわからないんだぞ。
「さ! 煮るなり焼くなり、好きにするといいわ」
どうやら覚悟は決まっているらしかった。
……まあ、いいか。貰えるなら勝利を貰っておこう。
「オレは君に何でも命令できるんだよな?」
「……そうね」
既知の事実を確認して、言い逃れできない状況を作る。
そして、
「宿を貸してください」
オレはマリナに頼み込んだ。
予想外すぎる一言だったらしく、マリナもミーシャも目をパチパチさせていた。
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泣いて喜びます。




