決闘
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レイステン魔法学校では、AクラスとEクラスが決闘をする話で持ち切りになっていた。教師に見つからないよう、裏では賭け事も行われているらしい。
その決闘の日がついにやってきた。
魔法を使用するときに使う演習場。そこが決闘の舞台となる。
演習場に入ると、ざざっ、と足元の砂を蹴る音が響く。
土のグラウンドは円形で、演習を見下ろせるような観客席が周囲にある。普段の使われ方は元居た世界の体育館と大差ない。しかし、これは闘技場と呼ぶに相応しい。
「怖気づいて来ないかと思っていたわ」
マリナが対峙する。相変わらずの安い挑発だ。
「そっちこそ。Eクラスに挑んで敗北なんかしないよう気を付けたほうがいい」
聞きたいことは山ほどある。
――だって、明らかに不自然じゃないか。
なぜオレに目を付けた? なぜオレに決闘を挑む?
互いに面識もなければ、メリットもない。つまり意味が解らない。まあ、それを引き受けたオレも大概だけれども。
「そっ、それでは、決闘のルールを説明させていただきます」
審判にはミーシャが名乗り出た。マリナもそれを承諾したため、こうして彼女が務めることになったのだ。
「まずはお二方、このオーブに魔力を込めてください」
受け取った球状の硬質な石。言われた通り、それに魔力を込めると淡く緑色の光を放ち始めた。そして、オレの周囲にふわふわと浮いて漂っている。マリナのほうも同様だ。
「そのオーブは魔法で壊すことが出来ます。ただし、所有者の魔力では破壊することはできません。自身以外の魔法によってのみ破壊されます」
つまり、マリナの攻撃でオーブを壊されたらゲームオーバーってことだ。ルールが単純明快で助かる。
「相手を思いやれば、怪我しないように戦うことだって出来るんだな」
「……はい。本来ならそうです」
そう言ってマリナを見る。
「期待しても無駄よ。残念だけど、Eクラス相手じゃ非力すぎて怪我させないなんて無理だろうし」
その言い回し一つ一つが嫌みったらしい。絶対に一泡吹かせてやる。
心配そうな面持ちでミーシャがオレを見ていた。少しの間、緊張を緩ませて彼女に微笑む。
「リュートくん……」
「大丈夫だよ、ミーシャ。オレは負けない」
「へぇ、ずいぶん強気じゃない」
オレは負けない。
それは自分へ言い聞かせる言葉でもあった。魔法では勝ち目がない。だからこその体術だ。
「……ところで、それで戦うのかしら?」
マリナが指をさす。オレの手には木刀が握られている。
「ああ。問題はないだろ」
「そうね、好きに使うといいわ」
口上は済んだ。お互いに距離を取って、審判の合図を待つ。
「それでは、はじめっ!」
さて、それじゃあ勝負といこうか……!
魔力を木刀に込めて、魔法戦に耐えうる力を与えた。
「それじゃ、まずは小手調べね」
【炎の精よ――目の前の障害を打ち滅ぼせ!】
詠唱が終わると、彼女の後方にバスケットボールくらいの火球が出現した。それがこちらに向けて放たれる。
(これならまだ秘策を使うまでもない、か)
対象を目で補足しながら、体術で回避する。
「やるじゃない。じゃあもう一発!」
その後も二発三発と同じ火球が放たれるが難なくかわすことが出来た。
なんだ。Aクラスの力量はこの程度なのか。
拍子抜けするくらい、あまり脅威を感じない。自分が強くなった錯覚に陥るが、おそらく手加減されているのだ。手加減されれば、逆に勝ちは遠のく。自分のプランを崩されるわけにはいかない。
「どうした。その程度か?」
「――――ふぅ。じゃあそろそろ本気で行くわね」
マリナはまた懲りずに火球を生成する。
が、すぐに先ほどまでとは違うことに気づく。
「“五倍”よ」
五つの火球が、同時にこちらに射出される。
マズい。これはさすがに体術ではよけられない……ッ!
「リュートくん!!」
ミーシャの叫ぶ声が聞こえる。この場にいた誰もが、オレの敗北を確信しただろう。
足を動かして、どうにか逃れようとするも火球の一つが目の前に迫り――そして、逃げられないことを自身が最も痛感した。
逃げられない。
逃げられない。
逃げられない。
――だから、奥の手を使うことにした。
足先に魔法を発動させる。イメージするのは強い風だ。
それを“詠唱無し”で発動させた。
風の勢いで吹き飛ばされ、火球の爆撃を回避した。
ただの体術では力量を覆すに至らない。
生半可な魔法では太刀打ちできない。
では、体術と魔法を組み合わせたら? それは攻防一体の強力な武器となる。