特訓
「剣術を教えてほしい? それはまたどうして……」
一瞬、ソフィアの目が鋭くなったように思えた。
きっと変に誤魔化したら付き合ってはくれない。だから正直に話すことにした。
「魔法学校で決闘の約束をしてしまった。一週間以内に強くなる必要がある」
「ふむ。それで剣術か」
断られる、そう思ったが、
「わかった。さっそく明日から教えよう」
「いいのか」
アッサリと承諾されてしまって逆に拍子抜けた。決闘の理由も聞かずに引き受けて良かったのか?
「譲れない何かがあったんだろう? だから、私は引き受けるんだ」
ソフィアは笑って言った。そんな考えは見透かされていたらしい。
――そして次の日。
早朝から庭に出て、特訓が始まる。
「剣術、といったけれど――剣のことを私は教えない」
「え……?」
ソフィアからいきなりの宣言。どういう意味なのか考えていると、彼女が寄ってきた。
そして、
ドンッ!
と強く肩を押されて、オレは尻餅をついてしまった。
「……つまり、こういうこと。基本的な体術から指導が必要だと思ったんだ。それに、剣と剣で戦うわけじゃない。魔法の決闘ならなおさら剣の重要性は下がる」
なるほど。
ソフィアの考えはもっともらしい。確かに教わるべきは剣術ではないのかも。
それから重心や基本的な身のこなしを教わった。
ある程度の基礎を覚えたところで、いきなりソフィアから木刀を渡された。
「ん? 剣術は教えないんじゃ」
「うん。だから剣術は教えないよ」
ソフィアは木刀を構える。……素人と騎士団長じゃ、力量に差がありすぎるように思うのだが。
「ここからは実践。学んだ体術を活かして、追い詰められないように立ちまわってくれ」
ぶぉん、と大きく振られる剣。それを、木刀で弾くが、あまりの重さに一歩退いてしまった。
一、二、三、と隙の無い連撃を繰り出される。
徐々に後退させられて、ついに背中が家の壁にくっついてしまった。最後にトドメとばかりに、木刀が喉元に突き立てられる。
「これで詰みだ」
「……参りました」
まったく勝ちのビジョンが見えない。というか、攻めに転じる隙を一切与えられなかった。
「当たり前だろうけど、強いな」
「ふふっ。これでも騎士団長だからね」
おそらく、魔法の決闘でも同じことが起こる。歴然たる実力差を覆す何かが無ければ、オレは負ける……。
「オレはどうすればいい?」
「格上と戦う時、成功法で挑めば敗北は必至だ。故に、奇策は有効なのだが、それも生半可な奇策では逆にこちらの敗因となってしまう。そんな小技以上に、逃げの一手は有効だ。勝負が長引けば、それだけ相手の隙を探す時間を稼げるわけだからね」
つまりこれは生存の手で、勝つための手ではない、ということか。
わかっている。これが正しい勝利への道だ。いきなり勝てるようになるなら誰も苦労はしない。
「まあ私の攻撃を一分以上凌げたら、次の訓練に移ろうか。さ、剣を構えて」
「はい! よろしくお願いします!」
そしてまた木刀を打ち鳴らす――
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