魔法学校
今日から、学校に通うことになった。
レイステン魔法学校。
入学試験とかそういったものはなく、魔法の才があるなら誰でも歓迎らしい。そして、学費が掛からないというのも意外だった。
……それでも、生きていく上で勉強が必須ではないこの国では、学校は金持ちの道楽、といった扱いのようだ。日本は高校まではたいていの人は進学するし、そこらへんの感覚は違う。
煉瓦のアーチをくぐって、学校に入る。
綺麗に整備された芝生や噴水などがあり、かなり豪勢な装いだった。魔法学校は貴族の人が大半らしく、彼らのために居心地のいい環境を作っているのだろう。
「えっ~と……」
入学する手続きをした時にもらった紙を見る。これから所属するクラスについて書かれている。
Eクラス……
クラスはA~Eまで、ランクが決められている。もちろんオレは初心者だ。Eというクラスに不服はない。
Eクラスであることを証明するバッジを胸につけて、校内を歩く。
何だか視線が少し気になるが、怪しい行動をしてしまっていないか不安になる。
……ところで、クラスはどこなんだろう。まあ、歩いていればわかるか?
「あ、あの……っ」
不意に、背後から声を掛けられた。
そこにいたのは、緑のメガネをかけた小動物系のおどおどしたショートヘアの黒髪女子。
ザ・委員長って感じの雰囲気の。
むっ。正しくはジ・委員長か。ってそんなことはどうでもいい。
小柄で、ツーンと指先で突いたら倒れそうな雰囲気がある。
「えっと、その、リュート・アクツさん、で間違いないでしょうかっ」
フルネームで呼ばれたのは久しぶりだ。この世界では第一号。
「ああ。Eクラスに今日から世話になる。もしかして、委員長?」
「な、なんでわかったんですかっ!? もしかして心を読む魔法とか、使えるんですかっ!?」
図星だったのか。逆に困惑する。これは誰が見たってわかるだろう。
「私、ミーシャっていいます。ミーシャ・リンスニッツです」
「よろしく。ミーシャ」
彼女に先導されて、オレはEクラスへ向かう。
◆
このクラスは、魔法をうまく発動できない、言わば落ちこぼれ……の集まりらしい。ビギナーでも最底辺と定評があるらしく、周囲のクラスからは見下されている。
ミーシャに案内されて校舎の廊下を歩いているときにも、そういった様子を感じることが出来た。クラスごとにバッジを胸につけているため、誰がどのクラスの一員かは一目でわかってしまう。
(なんだよそりゃ)
落ちこぼれたくて落ちこぼれているわけじゃないだろう。反旗を翻すつもりもないが、何か少し気に食わない。
話してみると、クラスメイトは気さくな人ばかりで、安心した。
これならやっていけそうだ。
少し経ってから、講師が教室に入ってきた。新入生であるオレの軽い紹介をしたあと、すぐに授業は始まる。
「……魔法というのは、ようするに魔力を変換して出力した結果である。君たちの頭の中で変換は行われているのである。この意味、わかるかね?」
うーむ。なんだか難しい。わかるような……わからないような……
いまいちピンとこない。
「つまり、想像できるものは魔法として発動しやすい、ってことですか?」
ミーシャが手を挙げて補足をした。
「その通り。イマジネーションが大切なのだよ」
なるほど。想像が大事なのか。
「詠唱や魔方陣などはそのための手がかりでしかない。魔力を構成する間であったり、想像にかかる時間を調整するために詠唱をするのである。詠唱は適当でも発動するし、凄腕の魔法使いなら詠唱なしで発動も可能である」
だから、あの夜、オレの魔法が発動したのか。
イメージや魔力の構成がもしかしたら得意なのかもしれない。
……さんざんRPGを遊んできたからなぁ。その影響だろう。
「では、それを踏まえて、これより実技を行う。すみやかに演習場へ集合するように」
はーい、とそれぞれ返事をして、教室を出ていく。
「リュートくん、行こうか」
またもミーシャに案内されて行くことになる。前の集団についていけばたどり着くだろうが、せっかくなので世話になろう。
魔法の知識を得られたことも嬉しいけど……気の合う友人と出逢えたことが、本日一番の収穫だ。