魔法
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夜。部屋で本を読んでいたら、眠気に襲われて大あくびが出た。毎晩こうして読書をしてこの国の言葉を覚えている。前よりもかなり流暢に喋れるようになったはずだ。
「……魔法か」
強力すぎる風の魔法が、頭から離れない。
しかし、魔法という異能が普遍的なものであることには驚かされる。……オレにも使えるのだろうか。
【風の精に願い奉る――――】
キウスという貴族の唱えた一節を思い出しながら、詠唱の真似事をやってみる。
【――――この場に風を起こせ】
……。
…………何も起こらない?
魔法が起こったらどうしよう、と後先考えず興味本位での行いだったが、逆に何も起こらなくてよかった。
まあ。当然だよな。
そう簡単に使えたら大変な能力だ。
パラ……
本のページが、風に煽られてめくられる。窓を閉め忘れたかな、と思って見やるが閉まっていた。
パラパラパラパラ……!
風がさらに強くなる。本は机から投げ出され地面に落ちた。
「ッ……!?」
まさか本当に魔法が発動したのか!? マズい……!
本だけではなく、棚の上の花瓶まで落ちて、ガシャンと大きな音を立てて割れた。
「わあああ!? と、止まれ!」
吹き荒れていた風は徐々に弱まって、そして収まった。
部屋は大惨事だ。
「ハァ……ハァ……っ」
魔法、安易に使えすぎだろ。間違って発動したらとんでもないことになる。
というか、今の状況がまさにそれか。こんなつもりじゃなかった。
「リュート、すごい物音がしたんだけど何かあった?」
部屋にソフィアが入ってくる。そしてこの惨状を見て、目をパチパチ。
借した一室を、まるで強盗が入ったかのような見るも無残な状態にされたのだ。ブチ切れて当然。最悪追い出されても文句は言えない……
「ごめんなさい!」
「リュート、それよりも怪我はなかった?」
「あ、ああ……」
部屋の文句よりも、オレの心配を彼女はした。ここは怒ってもいいところだぞ、と逆に怒られることを望みたくなる。
「そうか。ならよかった」
オレが無事であったことを、安堵して胸をなでおろす。どこまで優しいんだ。
「それにしても、キミは魔法が使えるんだね」
「……いま初めて知ったよ。使えるとは思ってなかった」
本当に魔法が出るとは思ってなかった。この大惨事はわざとじゃない。
もしかして、オレって魔法適正があるのか?
「キミが良ければなのだが、魔法学校に入ってみないか?」
魔法……学校……?
いやいや、学費とかもあるだろうし、何より魔法が学びたいわけでは……。
そう思ったが、少しひっかかることがあった。
≪――この世界にはおそらく魔法でやってきた――≫
つまり、魔法を知ることで帰る手立てを発見できるかもしれない。
オレは行くことを決意した。少しワクワクドキドキ。
「ま。それはそれとして! ……片付けはお願いするよ?」
……ひと通り話し終えたソフィアは、ニッコリとオレを叱った。
散らかった部屋を片付けて、一日が終わる。