異世界召喚
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シナリオを圧縮しました。この話だけ大ボリュームになっています。
分量多すぎて読みづらい場合は感想にでも書いてくだされば助かりまするー。
爽やかな初夏の朝。
いつものように愛用の自転車にまたがり、千蔭高校の通学路を軽快に走る。
オレ――阿久津竜登の人生は平凡でありふれている。偏差値50の高校。成績は中の中。運動も別段苦手でもなければ、得意でもない。全体的に平均のステータス。
それがオレなのだ。
と、こんなモノローグをつけたくなるほど、自分には特徴と呼べるものがない。
かといって不満も無かった。
何かを大きく変えようという強い意志は芽生えそうにないからだ。
物語の主人公じゃあるまいし、頂点を目指すとか正義の味方とか、そんな高尚な欲望は持ち合わせちゃいない。
――そんなわけで何だかんだ、今の生活は性に合っているのだ。
「やっ、おはようさん! リュート!」
急に並走してきた自転車の主が声を上げた。
まぶしい白のセーラー服と、日焼けした褐色の肌のコントラスト。元気な声に似あう黒髪ショートヘア。該当する知り合いは一人しかいない。
「今日は珍しく遅刻じゃないんだな、巻田」
「むぅ。いつもしてないでしょー。ギリギリではあるけども!」
巻田愛弥はクラスメイトだ。
快活な態度で人当りも良く、男女問わず好かれる性格をしている。いわゆるムードメーカーというやつだ。
軽口をたたきあいながら、通学路をカラカラ走る。
【――ソル・スケイン・サナン――】
不意に。
どこか遠くから――あるいは耳元から――声が、聞こえてきた。
何かよくわからないうわ言のようで、それは意味を持つ言葉とも取れる。
そして、ソレから意識を離すことはできそうになかった。
(なん……だ、これは)
目の前の光景が遠く感じる。まるで自分がこの世界から乖離してしまうかのような、錯覚を覚え――
「……うぉーい、聞いてるのかー?」
――……巻田の声で、ハッと我に返る。
「え? あ、ああ」
「いやー。その反応は聞いてなかったでしょー」
一瞬呆れるような態度を見せる巻田だったが、その顔色が変わり、心配そうにこちらをのぞき込む。
「リュート? ……汗すごいけど大丈夫?」
動悸がする。めまいがする。でも声はもう聞こえなかった。一体何だったんだ。
「悪い。心配させちまったな。大丈夫。大丈夫だ」
「本当に? 調子悪いなら帰って休んだほうがいいよ……?」
さっきまでの気持ち悪さはすでに無い。心当たりは無いが疲れがたまっていたのかもしれない。帰ったらゆっくり休もう。
「今日は小テストあるだろ。あの数学教師は容赦ないからな」
「あー……たしかに」
だが学校を休む選択肢はない。原因不明だし、仮病に近いものだ。
「ま、無理はするなよなー」
それからしばらくして、巻田が急にニヤつきはじめた。
「…………お前こそ、大丈夫か?」
「リュート、さては私に欲情でもしたかー?」
本当に大丈夫かコイツは。いきなり女の子が往来で『欲情』とか言い出したら心配でたまらなくなる。
「仕方ないよねー! スカートから覗く健康な脚とか、健全な男子はたまりませんよなー」
「ダ・レ・が・す・る・か!」
巻田の馬鹿に付き合ってたらこっちまで馬鹿になってしまう。
軽口を叩いていると、いつの間にかさっきの出来事が嘘だったかのように不快感は消えていた。心の中で巻田に感謝する。
……口に出すと付け上がって面倒になりそうだからな。
そうこうしているうちに学校についた。駐輪場に自転車を止めて、校舎へと向かう。
「ところで、巻田。テスト勉強大丈夫か?」
「うぅ……うぐぅ」
わかりきっていたことだけど、コイツは数学が苦手だ。
まあ。わかったうえで質問をしたのだが。一応確認のために。
そして予想通りダメだった。
やれやれ、と大げさにため息をついてみる。
「しょうがない。休み時間にでも教えてやるよ」
「う゛え゛!? いいの?」
「女の子が変な声を出すんじゃない!」
今朝の恩をコッソリと恩返しがしたかった。それが本音だ。
言えば付け上がるし、何より照れくさいから絶対に言わないが。
「さ、遅刻する前に教室行こうぜ!」
巻田をうながして教室へ急ぐ。
聞こえてきた変な声はもう、頭の片隅に追いやられていた。
◆
……今日はどうも調子が悪い。朝以外にも変な声が聞こえやがる。
そのせいで散々な一日だ。
休み時間。巻田に数学を教えながら、自身の不調について考えていた。
そのとき不意に。
いかつい顔の教師がガラガラと大きな音を立てて引き戸を開け、クラスに侵入した。それまでワイワイとはしゃいでいた生徒一同が一斉に静まる。
嫌~~~な小テストの時限がやってきてしまったのだ。
巻田も自分の席に帰っていった。その際、小さく親指を立てているのが見えた。
……まあ。アイツは大丈夫だろう。
教えたとおりにやればできるはず。そう信じて、自分のテストに集中することにした。
テスト用紙が配られる。自分のところに回ってきたそれを眺め、解けると確信した。
開始の合図とともにペンを走らせる。
(よし、いける……!)
そう思った瞬間。
【――ァ・ソルァ! スティラ!――】
今までよりも大きな声で、割れそうなほどの音量が脳に響き渡る。
割れそうな頭を押さえ、指先からペンが落ちた。
ハやく――――静まレ――――ッ!
ガチガチ、ガチガチと奥歯が震える。意識がトびそうだ……!
双眼はどこかの草原を映し出す。
知らない原風景だった。
瑞々しい草木の香り。心地よくそよぐ風。
視覚だけでなく、嗅覚・触覚をも支配されていた。
不意に見慣れた教室へと戻された。
「やめ! 後ろから前に答案を回すように!」
数学教師が声を上げる。テストはいつの間にか終了の時間になっていた。
手元にはミミズがのたうち回ったかのような筆跡の答案用紙。せっかく書いていた部分もよくわからない有様になっていて、途中点など期待できそうにない。
最悪な気分のまま、答案用紙を提出した。
ちらり、と巻田を見る。にやけた面をしているのがわかり、調子よく解けたことがうかがえた。
……まあ。アイツがよかったのなら、少しは救われたか。
それにしても、今日はどうにもオカシすぎる。今すぐにでも神社に駆け込みたい気分だ。
聞こえてきた声は、一定の法則があった。どうやら何らかの言語らしい。
板書を移しながら、ノートの端に聞こえていた言葉を思い出しながらメモする。知らない言語のため、カタカナで記述することにした。
うろ覚えで正しくない音写が英語のようにある程度は文法がありそうだ。同じ単語が複数回現れる。
あとでスマホで検索すれば、少しはヒットするかもしれない。
授業中にスマホを操作していることが見つかればただじゃすまない。調べる作業は休み時間に回して、とりあえず授業に集中することにした。
◆
今日のリュートは絶対変だ、と巻田に心配され、一緒に帰ることになった。他人が見れば羨ましいシチュエーションだろうが、あいにくと頭の中は別のことでいっぱいだ。
数学の時間にメモしたワードを検索エンジンでそれぞれ調べてみた結果、いずれもヒットはしなかった。
メジャーな言語ではないことは確実だろう。これは妄想なのか?
「なぁー」
巻田が心配そうに顔をのぞき込む。
「リュート、大丈夫か?」
いつもの軽口をたたく調子ではなく、本当に心配している様子だった。それだけに、こちらも返答に詰まる。どんなテンションで返せばいいのかわからなくなってしまう。
「うぅむ、なんて答えたらいいのか」
内容が内容なだけに話しづらい。冗談のようにも聞こえてしまう非虚構だからなあ。
はぐらかしてしまおう、と思ったが、真剣な目で射貫かれてはそれも失礼だ。
意を決して、正直に言うことにした。
「声が聞こえるんだ」
「……声?」
「ああ。今日一日だけだ。ときどき変な声が聞こえてきて、自分が自分でなくなるような、そんな感じになるんだ」
顔色をうかがう。正気じゃない発言なのは承知の上だ。
巻田は深く考えて、
「……ねぇ。それってもしかして今朝の通学してるときにもあった?」
気づかれていたようだ。おっちょこちょいなようで妙に勘がいいというか。
「ああ」
「じゃあ、順当に考えてお医者さんに行こう」
出てくる結論はオレの考えと似たようなもの。というか、突拍子もない答えをされても困る。だからこの後押しは心強かった。
「あの……ね、もしもだよ? 頭に異常があったとして、それが今朝からだったら、一刻を争うかもしれないと思う」
「だよな。すぐ医者に行ってくる」
巻田の言うとおりだった。悠長にしていたら取り返しのつかないことになるかも。
急いで病院に向かおうとすると、巻田に止められた。
「はい、これ」
手に何か布で包まれたものを渡された。
これは……おまもり?
「うちね、これでも社家なんだ」
シャケ?
心当たりのない単語に戸惑っていると、
「神社の家系ってこと」
なるほど、鮭ではなく社家か。
「……ありがとう。受け取っておく」
「うん! きっとご利益あるよ」
ズボンのポケットに突っ込んで、巻田に別れを告げた。そして急いで自転車を走らせる。
目的地は病院だ。
これで何事もなければ良いが……。
◆
自転車を走らせる――走らせる――走らせる――。
病院に急いでいた。
【――タ・ヴァ・グランド・ゴルィン……――】
ハンドルを握る手が、急速に力を失った。自転車はバランスを崩し、ブロック塀にぶつかって倒れた。
(が、ァ…………)
全身が熱い。痛い。熱い。痛い。熱い痛い痛い痛い痛い痛いい痛いイいたイ、ィ、痛イ。
地面に激突した衝撃だけではない。
足のつま先から頭のてっぺんまで、全身を支える筋肉全てが断裂するような痛みに襲われた。
汚れるのも気にせずのたうち回る。地べたを這いずるミミズのように。
【――ゴレナム・ラウーキ――!】
声は一層大きく聞こえる。呼び寄せられている。
何に? 誰に?
わからなイ、オレがオレではなくなっテいク……!!
明滅する視界。白。黒。の閃光。徐々に強くなる黒色。
アスファルトの灰色はもう映らない。代わりに、どこか知らない石畳の灰色が見えた気がした。
車のエンジン音、ではなく、ガラガラと馬車の走る音。
フッ――――と。
痛覚が、嘘のように消えた。
そして……自分はどこか知らない土地に立っていた。
「……は?」
赤茶色で統一された屋根。煉瓦造りの建物。舗装されている道路は石畳。
チリンチリンとベルを鳴らしながら、客引きをする露店の店主。
立派な燕尾服に身を包む紳士は、馬車の上から街並みを眺めている。
――ここは、どこだ?
まるで過去の西洋にタイムスリップしたかのような光景だ。
ただ一つ違うのは、
「……エルフ?」
指輪物語に登場するような、耳が長い金髪で白い肌の麗人。
他にも、ワーキャットやオークなど、こちらの世界では空想上の生き物とされている者が町中を闊歩している。
これらの情報を総合して考える。
「ここは、異世界か……?」
それ以外の結論を導き出せない。なぜなら、あり得ないからだ。
自転車から打ち付けられた衝撃であちこちがズキズキ痛むが、歩けないほどではなかった。これといった異常は見つからない。
全身が疼く。
正常な判断を失っているのかもしれない。それでも、唐突に飛び込んできた非日常はワクワクさせるのに十分だった。
ただ、よくわからないことだらけというのが現状だ。
この町のことも。この世界のことも。
そして、
誰が何の目的でオレをこの世界に召喚したのかということも。
まずは行動あるのみだ。元の世界に戻る手がかりを探そう。
……夢ならさっさと覚めてくれ。