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猫チップな俺 サイドストーリー:ナンプラー姫

作者: STY

ナンプラー姫


2023年7月17日(月/海の日)12:30


 今日は祝日なので大学は閑散としていた。俺はその方が研究に集中できるので好都合である。明日の実験の準備を高校からの悪友、加藤轟に手伝って貰いその代わり昼飯を近くの食堂で奢ったところだ。


 腹一杯になって二人で寛いでいると、また轟が訳の解らないことを言ってきた。

「なぁ哉、グリーンカレーのナンプラー、苦手だよな。」

「苦手だ。」

「もし、ナンプラー入りのグリーンカレー以外食うものがなかったら、どうするよ。」

「米だけ食べる。」

「じゃあ、全部の飯にルーがさいしょからめちゃんこかけてあって飯が分けられなかったらどうするよ。」

「そんな店、無いだろ。」と俺。

「だから、もしっちゅー仮定だがや。」

 轟は高1まで名古屋に住んでいたので、言葉が独特だ。

「水で洗ってから、具と米を食べる。」

「洗ったら、カレーじゃねぇだが。」

「カレーを食うという仮定じゃないだろ。」

「まぁ、そぅだな。つまり哉はそんくらい、ナンプラーは苦手っちゅうこった。」

「あぁ。」

「そこでだ。」と轟が濃い顔をぐいと近づけた。暑苦しいことこの上ない。「もしよ、ナンプラー星からナンプラー姫がやってきてだな。」

「なんだって?」

「そのナンプラー姫は、ナンプラー王の一人娘でよ、めちゃんこ別嬪さんで気立てが良くて、しかも哉にぞっこん惚れとる訳よ。」

「何の話だ?」

「もしっちゅー仮定の話よ。」

「・・・・・。 ナンプラー星ってなんだ。」

「宇宙のどっかにあるどえりゃあリッチな星で、気候温暖な桃源郷よ。但し主食はナンプラー入りのグリーンカレー。」

「うっ、じゃ駄目だな。あと、轟のボキャは相変わらず古臭いな。」

「おいらはおばあちゃん子だかんな。でよ、そこのお姫さんが、哉に求婚するわけよ。『私と結婚してナンプラー星で暮らしましょう。』ってな。」

「いきなり過ぎだろ。」

「なら、背景をちいっと言うとだな、ナンプラー星のお姫さんがお忍びで来ててよ、良く見かけちゃいるがまだ知り合いではないと言うときによ、お姫さんが困っとるところに通りかかった哉がちょこっとかまったとしよみゃ。 哉ならそうすったろ?」

「そうだな。」

「哉はその気がなかったとしても姫さんからすっと、困ってドキドキした生理的覚醒時に近接してる異性と相互作用して、しかもそれがうぶなお姫さんには初期経験だったもんで、哉に急速に愛着の形成による固着、つまり一目惚れしたっちゅー訳だ。」

 轟の心理学用語を散りばめた妙なことば説明で、大学祭のミスコンで下着姿の女の子との第三種接近遭遇を思い出した。 あの件は誰にも言っていない。一時期大学内で話題になった「落ち葉の王子様」の正体が実はオレだと轟が知るはずが無い。

「という仮定の話だな。」と内心ヒヤッとしながらとぼけた。

「おみゃー、急にマジ面だがや。心当たりでもあるんかい。」

「ない。」こういう時の轟はずぼらな外見に似合わず鋭いので要注意だ。

「まー、そんで、お前にプロポーズして、ナンプラー星に来て結婚して欲しいちゅー訳だ。姫さんは男を知らない初心な生娘で、しかも床上手。」

「そっち方面は苦手だからあえて突っ込まないよ。 それより別の星の人なら轟の専門の遺伝子不適合とかで無理だろ。」

「それは、パンスペルミア説と収斂進化で驚異の遺伝子適合度99.9999%で問題なし。もんだで、哉がナンプラーさえ愛の力で克服すりゃあ将来安泰。」

 想像してみた。うん、無理。

「毎日、ナンプラー入りのグリーンカレーは無理っぽい。」

「もし断ったら、ナンプラー星の進んだ科学力で、地球をこわけて、人類殲滅。地球の全生命抹消。地球の未来はいまや哉がナンプラーを食べるか否かにかかっている。」

「めちゃくちゃな条件だな。解ったよ、否も応もない。食うよ。」

 轟は天を仰いで吼えた。

「よっしゃ。 よく言った。さすが哉、オレが見込んだ男だがや。」


 轟が右手でグーを作って突き出してきたので、いつものノリで俺たちは拳固をゴツンとぶつけた。

「轟、で、結局お前はこの仮定の話で何が言いたかったんだ。」

「おぅ、オレにはかわいい妹がいる。」

「利恵奈ちゃんだろ。わざわざ言わなくても知ってるよ。」

 轟の家はうちの近所で昔からしょっちゅう遊びに行っていた。そしてなんとお互いの妹は同じ高校に通っているクラスメートなので、家族ぐるみで付き合っている。

「哉、オレは妹に幸せになってもらいたい。」

「それで?」

「利恵奈はナンプラー入りのグリーンカレーが大好きだ。」

「そうか。」轟の家は味噌カツカレーとか、カレーうどんとかカレー好きだ。

「利恵奈はおみゃーのことも大好きだ。」

 はぁ? でも心当たりがないこともない。

「何を根拠に言ってるんだ。これも仮定の話か。」

「直接聞いた。『お前、哉に惚れとるんか?』」

 直球過ぎだろと、内心呻いた。轟はアホだがただのアホではなく無神経かつ行動力のある最悪のカテゴリーのアホだ。

「そしたら利恵奈に『たーけっ、なことあらすか。ちゃっと去ね。』とマジ切れて、それっからガン無視でな。」

 轟はごつい顔に哀愁を浮かべた。そのアンバランス加減は醤油+牛乳のように気持ちが悪い。

「そいで、念のため今朝の朝食のとき、おかんに『利恵奈は哉に惚れとるがや』と言うた。

したら利恵奈が『こんの、最悪、最低、無神経馬鹿ー。』と、朝飯も食わんと家を出て行きよった。」

 轟の悪気は無いが傍迷惑な行動にはもう馴れっこだ。「うん、それは大変だったな。」無論、利恵奈ちゃんが、だけどな。

「そだろ、何で妹思いの兄貴を怒るんかは解らんが。」内心、解んないのかよーと、突っ込みを入れてから「それで。」と聞くと、

「おかんから、『利恵奈は哉ちゃん好きやが、夫婦にのったら好物のグリーンカレーが食えんと、おそがちょるだがね。もんだで、これ哉ちゃんにはだましてしてちょう。』と言っとった。」

 轟の性格はやっぱあの母親譲りだよな。 そして加藤のおばさんは轟の行動パターンを読んでワザと情報をリークしてるよな。


 これ以上の深入りはまずい。俺は轟に言った。

「おい、そろそろ研究室に戻るぞ、午後もしっかり手伝ってくれたら約束通り夕食も奢るから頼むぜ。」

「おっしゃ、いこみゃぁ。」と轟。


 二人は同時に席を立って食堂から出た。

                                    ―おわり

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