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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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"月明かり"に照らされて


 あれから3日が経った頃、いつものようにお昼時に時間を貰って、図書館へ向かうイリスが噴水広場に出ると、ロットとネヴィアが噴水広場のベンチに座って楽しそうに話をしていた。


 とても幸せそうに見えたので、二人の大切な時間を邪魔しないようにイリスはその場を離れていく。図書館への道の途中、ふふっと自然に笑みが零れてしまうほど、ネヴィアは凄く幸せそうに見えた。

 このままもっと二人が幸せになれますようにと思いながら、図書館へと入っていった。


 週末の太陽の日になると、お城での報告会となる。

 ネヴィアは浮いた話に赤くなることも無くなり、代わりにとても幸せそうに微笑むようになった。

 ここ最近は城内だけでなく、噴水広場やカフェや雑貨屋さんなどにも訪れ、ロットとの時間を楽しんでいるらしい。

 イリス達へも自然にロットの話が出来るようになったネヴィアは、とても素敵な笑顔を見せるようになり、まさに愛称通りの"白い妖精"そのものに見えてしまうような、幻想的な美しさに街の多くの人が魅了されているようだ。

 ミレイさんの情報曰く、その大半は同性からの眼差しが多いらしく、ネヴィアは多くの女性の憧れの存在になっているのだとか。男性はそのあまりの美しさに引いてしまうらしく、一人でネヴィアがいる所を見かけても声をかける事はなかった。


 イリスは太陽の日になるとお城でお茶をしたり、古代遺跡へと冒険に出かけたりと、充実した日々を過ごしていった。

 残念な事に、あれから遺跡へ調査に行っても特に得られるものは無く、本当にここは調べつくされてしまった場所なのだと、イリス達初心者3人は改めてそれを知る事となった。

 それでも冒険としては得られるものが多々あったようで、初心者3人は楽しそうに冒険へと出かけていたようだ。


 朝はお店番、昼は少し図書館で勉強して仕事に戻り、終わると調合の手伝い、そして寝る前の魔法の修練。


 いつもと同じ日々が続いていき、次第に暑さが涼しく感じ始めた頃、ロットとネヴィアの周囲に変化が訪れていく。本人達はより一層仲良くなっているというだけだが、その周りにはかなりの変化が起きているようだった。

 街でよく見かけるようになった二人の関係が噂されるようになっていた。その大半はついにネヴィア様にも春が来たという喜びのものであったが、一部ではロットに恋人が出来てしまったという事実に、打ちひしがれるように項垂れた女性が大量に出たそうだ。

 今までロットへめげもせずにアタックし続けていた女性達も、彼のお相手がネヴィアだと知ると、さすがに勝てないと諦めていったようだ。


 その話をミレイから聞いて苦笑いしてしまうイリスであったが、それでも多くの街の人からも祝福されているかのように感じるネヴィアへの想いに、心から嬉しく思うのであった。


「それで、どこまで行ったのかしら?」


 ガゼボで美味しいお茶を飲みながらネヴィアへと質問する姉は、いつも以上に楽しそうに笑っていた。少々含んだ笑いに戸惑うネヴィアは冷静に返していく。


「どこまで、とはどういう意味ですか? 姉様」


 ネヴィアにはそれがどこの店にまで、と言う意味で聞こえていたようだ。

そんないじらしい妹にあらあらと言いながら、シルヴィアは言葉を続けて言った。


「キスくらいしたのかしら?」


 うっと飲みかけた紅茶がむせ返りそうになるネヴィアは一気に顔が紅潮し、盛大にわたわたしていく。その姿にとても懐かしさを覚える3人は、その仕草に癒されるようにほっこりと微笑んでいった。


「ききききすとか何を行き成り言うんですか、ねえさまっ」

「……やっぱりまだなのね」

「あはは。ネヴィアらしいけどねー」

「……」


 イリスは顔を真っ赤にしながらも、成り行きを見守っていた。

 耳まで真っ赤にしたネヴィアは、言葉を返すように反撃していく。


「そういう姉様はどうなのですか? 意中の方とはされたんですか?」

「わわわ私のことはいいのです! それなりに幸せですわ!」

「……こっちもかー」


 ネヴィアの反撃に真っ赤にしながら答える姉は、とても可愛らしく取り乱していった。瞳を閉じてため息をつくミレイにシルヴィアが攻撃していく。


「ミレイさんはどうなのです? 意中の方とかいらっしゃらないのかしら」

「ん? あたし? あたしは恋愛はいいかなー」

「そうなのですか? ミレイ様お綺麗なのに」

「あはは、ありがと。でも今は恋愛よりもイリスの傍にいる方が幸せだからねー」


 イリスを見ながら微笑むミレイに嬉しく思い、えへへっと自然と笑みが出てしまう。


 ミレイにとってイリスは特別な存在だ。こんなに可愛い妹をほったらかして、どこぞの男と付き合うなぞ、ミレイには信じられないことであった。そういった存在がいないという理由もあるのだが、それでもイリスを何よりも優先したいと思っている。そんな彼女は恋人を作ることなど想像もつかないと思っているようだ。


 話を聞いていくと、ネヴィアはまだロットと手を繋いだ事もないらしい。エスコートする事はあっても、そういった感情を込めて手に触れることはお互いにしないそうだ。

 純愛を楽しんでいるようで何よりではあるが、少々不安要素が残る可愛らしいお付き合い(・・・・・)にシルヴィアは心配になってしまうも、心から楽しそうに過ごしている妹を見て、優しく微笑んでしまっていた。


 今日も笑顔と笑い声が絶えない、楽しいお茶が飲めた4人であった――。



 季節は移り変わり、涼しげな秋の午後の空はどこまでも高く、澄み渡った美しい色を表し、緩やかな水面のような雲を見つめながら、少女は空を見上げていた。

 そのどこか儚げにも見える美しげな秋の空は、遠方より暗く重苦しい雲を徐々に連れて来ており、久々にこの国を荒れた天気が襲いつつあるようだ。


 それはまるで何かが起こる予兆の様なものに、少女には思えてならなかった。

不安気な気持ちに包まれていくように少女は口を紡ぎ、胸に当てた手のひらを握り締めてしまう。


 全てが順風満帆に思えた。自分自身の事も、ロットとネヴィアの事も。

 仕事も勉強も友人関係も、全てが上手くいっている。毎日が充実した日々を送る事ができ、とても幸せだった。

 ……なのに、この不安な気持ちは何だろうか。言いようのない不安。考えれば考えるほど暗い気持ちに覆われていく。

 少女はそんな気持ちを振り払うように首を振り、足早に家へ帰っていった。


 イリスが思う不安な気持ちは、レスティの顔を見たらどこかへと行ってしまったようだ。気にし過ぎだったのかもしれないと思いながら、いつものように仕事へと戻っていく。


 今日は随分と人が少ないと思え、仕事終わりにレスティへその事を聞いてみると、もしかしたら激しい雨が降るのかもしれないわねと言っていた。


 雨の日に出かけようという冒険者は少ないらしい。

 依頼内容次第で予定通りに進むために出発する人もいるが、わざわざ視界が悪くなっている所を冒険も何もないよねと、イリスは思っていた。


 イリスがお風呂から上がる頃には本降りとなり、雷も強く鳴っているようだった。かなりの近くで雷が落ちたような音に、ひゃっと声をあげてしまうイリス。

お茶を淹れてくれたレスティはカップをイリスの前に置きながら、大丈夫よと話していく。


「イリスは雷は苦手かしら?」

「ううん。そんな事もないけど、さすがにびっくりしちゃうよ」

「これだけ近いと、また教会やお城の塔に雷が落ちるかもしれないわね」

「教会やお城に落ちちゃうの?」

「ええ。雷はどうも高い場所に落ちる習性があるみたいよ」

「そっか。空に近いからかもしれないね」

「そうね。でも、街中に落ちないとも限らないから気を付けないとね」


 窓に叩きつけるように当たる雨を見ながら、イリスはぽつりと呟く。


「……明日晴れるかなぁ」

「晴れると良いわねぇ」


 温かいお茶を飲みながらしばし話を続ける二人。

 激しい雨が降っているので鐘の音があまり聞き取りにくくなるらしく、頃合を見計らってイリスを休ませるレスティ。

 さすがに雷が鳴っている時に魔法の修練を集中してする事が出来ないので、そのままベッドで眠りについていくイリスだったが、強烈が音が鳴る度に目が覚めてしまうという悪循環が続いて、この日は中々眠る事が出来なかった。


 明け方頃になると雷雨が一旦は落ち着いては来たものの、朝の鐘がなってしばらくすると、また強い雷雨となってしまった。


「これじゃあさすがにお客さん来ないわねぇ」


 残念そうに頬に手を当てながら話すレスティは、独り言のように呟いていく。

 それなら今日はお薬いっぱい作ろうかとのイリスの提案に乗り、今日一日はお薬を作り続けていった。


 ひたすらお薬を作る時間に辛くないかイリスに尋ねてみるも、たまにはこういった日があっても楽しいねと笑顔で返されてしまった。


 この日は夜遅くまで振ったり止んだりを繰り返していった。

 雷も一時は止んだり、また鳴ったりと不安定な天気が続く一日だった。


 夜の鐘が鳴る頃には雨も収まり、美しい月が雲から顔を出したようだ。




 *  *   




「な、何だと!? いま、何と言ったのだ!?」


 はっきりと聞こえた筈の言葉を聞き直してしまう王は、妻にそのあまりにも理解出来ない言葉を信じきれずにいた。

 ここは王城の執務室。王と女王以外に人はいない。人払いを済ませてあるからだ。そんな中聞こえて来た、到底理解出来ないエリーザベト言葉に、ロードグランツは驚愕をしていた。

 無表情に淡々と語る妻が何を言っているのか、まるで分からない。

 そして女王は繰り返していく。


「ネヴィア・フェア・フィルベルグを嫁がせる、と言ったのです」


 聞き間違いではなかったようだ。可愛い可愛い愛娘が嫁になどとっ!

 ……いや、確かに問題ではあるが、もう一つの方が遥かに理解出来ない。

 突然の事に王は驚きを隠せず、王妃に再び聞き直してしまう。


「そ、そうではない! 相手は誰だと聞いている!」

「ですから――」


 唖然とするロードグランツ。扇で隠すエリーザベトの口元には三日月のような笑みが、雲が晴れて現れた月明かりに照らされて浮かんでいた。



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