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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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女王の"命令"

 

 話は尚も進んでいき、その情報を知りえる人物の話へと進んでいった。


「それで、その情報をどなたに伝えたのでしょうか?」

「この方法を知っているのは、今日冒険に行った皆さんと、レスティさんだけです」

「なるほど。シルヴィアとネヴィア、それにロットさんとミレイさんに、"森の泉"のレスティさんですね」


 はいと短く伝えるイリス。そしてそれを笑顔でエリーザベトは答えていく。


「では今後も貴女が信頼する方にのみ、その方法を伝えて下さって構いません」


 その言葉に驚いてしまうイリスは言葉を返してしまった。


「え、でも……。これは王家の秘術ですし、もう誰にも言わない方が良いのでは」

「イリスさんなら安心ですから。信頼している人にしか教えていないようですし」


 微笑むエリーザベトにおろおろしてしまうイリス。

 充填法(チャージ)と呼ばれたこの方法は強力な事がイリスにもはっきりと理解出来るため、無闇に言うつもりなどないのだが、それでも王家の秘術とされている技術に触れてしまったという事そのものに、イリスは罪悪感を持つような感覚でいた。


 本来であればここで口止めするべき様なことであるにも拘らず、エリーザベトはイリスの信頼できる人にのみ教える事を許可してしまった。

 これはイリスの対する信頼の証ではあるのだが、それでも考えずにはいられないイリスであった。


 そんな様子を察したエリーザベトは、くすくすと笑いながらイリスへと言葉を口に出していく。


「貴女なら大丈夫ですよ。あの力の凄まじさに気が付いた貴女なら、必ず正しく使ってくれますから。……ただひとつ気になるのは」


 そう言って口を(つぐ)んでしまう女王に、首を傾げてしまうイリス。

 暫く考え込んでいたエリーザベトは、言葉を選びながらイリスに言った。


「もし、何かそれ以上の強大な力に気が付いたら、必ず私か夫に報告して下さい」

「それ以上の強大な力、ですか?」

「はい。それが何かは言う事は出来ません。もしそれについて知りたいのなら、まずは15歳となってから説明させて頂きます」

「15歳……。それは大人になったら、という事でしょうか?」

「それもありますが――」


 そう言いながらエリーザベトは、出来る範囲説明してくれた。

 それを聞いたイリスは言葉を返してしまう。


「そ、そんなお二人の大切な事を、私に合わせるようにだなんて……」

「問題ありません。元々二人の件はまだずっと先の事になるでしょうし、何よりも今重要視すべきなのはイリスさん、貴女の方です」

「私、ですか? なぜ私なのですか?」


 うまく理解出来ないイリスは再び質問を返してしまっていた。

 それについての説明も話せる範囲で話していくエリーザベト。


「我々が危惧している充填法(チャージ)とは違う力を使えば、貴女は不幸になるからです」

「ふ、不幸、ですか?」


 青ざめながらどもってしまうイリスは、言葉を途切れ途切れにしながらもエリーザベトへ聞き直してしまう。

 冗談で言っている訳ではない事は、女王の目を見れば分る事だ。だが、女王の瞳に揺らぎは無い。真剣に話している。


「今のイリスさんがその力を行使すれば、その強大な力を制御しきれず、身を滅ぼす事になるでしょう。我々はそれを危惧しているのです」


 そして女王は続ける。イリスの疑問に答えていくように。


「何故そんな事になるのか。それがどういった力で、どんな事が出来るのか。どうして我々がそれを知っているのか。聞きたい事は山の様にあるでしょう。

 ですが今現在、我々にはそれを貴女にお教えする事は出来ません。気になる事、知りたい事、聞きたい事が多々あるでしょうが、今はどうか、その力を気にする事無く過ごして欲しいのです。

 イリスさんが15歳になった時、それでもその力について知りたいと思うのであれば、その時にお話させて頂く事をお約束します」


 とても真っ直ぐ答えるエリーザベトにイリスは疑問に思う。そしてぽつりと独り言を呟くように聞いてしまった。


「どうして私に、そこまで良くして下さるのですか?」


 そして彼女は今まで以上に素敵な笑顔で答えてくれた。


「貴女はシルヴィアとネヴィアの大切なお友達だからですよ」


 溢れ出しそうな涙を堪え、イリスはエリーザベトにお礼を言った。

 このお方はどこぞの娘とも知らない自分を、お姫様達の友人だからという理由で、ここまで大切に想ってくれている。


 イリスは胸に両手を当てながら瞳を閉じた。

 じんわりと、とても温かい気持ちでいっぱいになる。


 イリスが落ち着いた頃、お茶を飲みながら一息を付いたエリーザベトは、話を続けていく。


「さて。大切なお話はもう一つあるのです」


 そう言ってイリスに説明していった――。



 *  *   



「母様っ、イリスさんが戻って来ていると言うのは本当ですか!?」


 勢い良く開かれた扉に驚く事も無く、机で書類整理をしている女王は彼女を見ずに答えていく。


「はしたないですよ、シルヴィア。もう少し慎みを持ちなさい」

「ぅぅ……。気を付けますわ」

「ね、姉様、や、やっと、追いつき、ました……」


 肩から息をしているネヴィアが暫く後から執務室へ入って来た。

 その様子に貴女もですかと言いそうな表情で一言口にしていく。


「ネヴィア。城内で走ってはいけませんよ」

「ごめんなさい、母様。イリスちゃんに会えると思ってつい走ってしまいました」

「それで母様、イリスさんはどちらですの?」

「もう帰られましたよ。そろそろ馬車が"森の泉"に到着する事でしょうかね」

「そうなんですの……」

「もう一度会えると思って急いだのですが、遅かったようですね」


 とても残念そうに話す二人だったが、エリーザベトは書類に目を通しながら話をしていった。


「私から二人に聞きたい事があります」

「聞きたい事ですの?」

「何でしょうか、母様」

「イリスさんの力の事です」


 目を微妙に開いてしまう二人を見逃さないエリーザベトは追求していく。


「貴女達、イリスさんに特別な力がある事を、私に黙っていましたね?」


 おどおどしてしまう二人に、あらあら仕様もない子達ねと心で笑う母。


「何の事か分りませんわ」

「私も何を仰っているのか分りません」

「あら。貴女達、私の言う事が聞けないのかしら」

「知りませんわ」

「私もです」


 ぷいっとそっぽを向くシルヴィアと、目を逸らしてしまうネヴィア。

 本当に可愛い子達だ。可愛くて、愛おしくて、どうしようもなく分りやすい。


 女王は今までの優しい表情を崩し、鋭い顔と低い声で二人に命令した。


「女王命令です。貴女達が知っている事の全てを言いなさい」


 今まで見た事もない獰猛な瞳の母に身震いをしてしまった二人は、震えあがってしまう。だがそれを二人がいう事など出来ない。震える唇で二人はそれを拒んだ。


「……言えませんわ」

「……私も、言えません」

「女王の命令に逆らうと言うのですか?」


 ギロリと鋭く睨み付ける女王に身体はびくっと跳ね上がり、更に強く震えて涙目になりながらも二人は答えていく。はっきりとした口調で。


「それでも言えませんわ!」

「私も言えません! それはお友達を裏切る事になります!」


 暫しの時間を挿みエリーザベトは、そうですかと静かに口に出した。

 獰猛な表情はすっと笑顔に戻り、二人に優しい声で話していく。


「それで良いのです」

「「え?」」


 その母の言葉にきょとんとする二人に、女王は話を続けてた。


「女王の命令如き(・・)で、お友達の秘密をポロっと口に出すような痴れ者であるなら、私は激怒していました。そして貴女達はイリスさんに相応しくないと判断し、分かれさせる事すらも考えていましたよ」


 尚も動けず固まったまま、二人は母の言葉を聞いていた。


「大切なお友達の為に女王の命令に従わなかった貴女達を、私は誇りに思います」

「……母様」

「……かあさま」


 既に泣きそうな二人にあらあらと近寄りながら優しく抱きしめるエリーザベト。


「ごめんなさいね。少々威圧しすぎたかしら」

「「ふぇぇ」」


 安心出来てとうとう泣き出してしまう二人に、少々強めにした威圧が強すぎた事を知るエリーザベトと、机の裏側で泣いている少女が一人。


「もう良いですよ」


 二人はきょとんとしながら、母の机の下から一人の少女が泣きながら出てきた。


「ふぇぇ、しるびあしゃん、ねびあしゃんっ」

「イリスさんっ」

「イリスちゃんっ」


 3人は駆け寄り、ひしっと抱き合い大泣きしてしまう。

 二人は母の威圧の怖さと、大切な友達に会えた事を嬉しく思いながら。

 そして一人は、そんな二人の優しさと、自分の為に女王の命令すら断ってしまった厚い友情に。


 そんな3人をエリーザベトは、とても優しい眼差しで見つめていた。



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