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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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"それが仲間なんだ"と

 

 しばし時間を挿み、暗い表情でシルヴィアが話した。


「私の失態でネヴィアに危ない思いをさせてしまいました」

「あはは、失態でもないんだけどね」


 ミレイは詳しく説明していった。

 パーティーで戦うのが初めてのシルヴィアの反応も十分凄いことだった。初心者であの動きは中々出来るものではない。大抵の初心者は動けずに、何をすれば良いのか理解する事も出来ずに戦闘が終わる。これが殆どだ。


 その言葉に驚くシルヴィアは、理解が追いついていない表情をしていた。

 シルヴィアは攻撃をしたものの避けられ、本来前衛として護るべき後衛のネヴィアを、魔物に襲わせる結果となってしまっている。


 どう考えても自分の失態だと思っているようで、ミレイとロットがそれに答えてくれた。


「シルヴィアはしっかり役割を果たしているんだよ」

「俺の指示に従い、後ろから襲う魔物に対して勇敢に立ち向かった。咄嗟の機転も出来ていたし、それだけでも初心者パーティーとしては十分な活躍だと俺は思うよ。そしてそれはイリスちゃんとネヴィアも同じだ。あの状況下で焦らずに敵と向かい合うことができた」

「で、ですが、私は何も……。姉様にもイリスちゃんにも護って貰っただけで、何も……」

「そんなことない。ネヴィアもイリスちゃんもしっかり俺の指示に従い、行動を起こしてくれていた。『何が出来たか』ではなく、『何をしようとしたか』という事が重要なんだよ」

「それでも私は、前衛としてお役に立てなかったのが情けないですわ」

「あはは、そうじゃないんだよ、シルヴィア」


 きょとんとしてしまうシルヴィアにミレイが話していく。

 あの状況下で必要なのは戦う意思と信頼なのだと。


「シルヴィアはロットの指示に従い、後衛を護るために後ろへ回って前衛となり、魔物に立ち塞がった。言葉にすればたったこれだけのことだけど、そうじゃないんだよ。そこには仲間を信頼し、敵に立ち向かい、仲間を護ろうとした明確な意思があったんだ。それだけで、初心者パーティーとしては十分なんだよ」

「それでも、敵を通してしまったのでは……」

「それは結果論だよ。そしてネヴィアも結果として無事だった。それで十分なんだよ」

「そうだね。大切な事はしっかり出来ていたし、同じ事のないよう、次に気をつけていけば良いんだよ」


 大切な事? 首を傾げるシルヴィアにロットは話していく。

 それは仲間を信頼することだと。


 大切な事は仲間を信頼してその場を預ける事だ。人には出来る事と出来ない事がある。信頼をせず一人で突っ込む行為は、却って仲間を危険に晒してしまう。

 初心者なら尚の事だ。独断をせず経験者の指示に従い、しっかりとそれを守ったシルヴィアは、それで十分に役目を果たしているんだよと。


 そうなのでしょうかと、まだ納得のいかない彼女へミレイも続けていく。


「あはは、そういうものだよ。それにシルヴィアの行動で、あたしたちは信頼することが出来た。結果として敵を通してしまったけれど、それならば他の仲間がシルヴィアをサポートしてくれるから」


 そう言ってミレイはイリスの肩に優しく触れた。


「今回はイリスのお蔭で助かったけど、普通のパーティーなら割とある事なんだよ。自分が出来ない事を無理にしようとしてはいけない。自分が完璧に何かをしようとしてはいけない。自分が出来る事を、精一杯すればいいんだ。そして自分に足りないものを補いながら冒険を共にしていくのが"仲間"なんだとあたしは思うよ」

「そうだね。初心者が何でも出来る、何でもしなければと思う事の方が危ないと俺も思うよ。自分に出来ない事を無理にしようとして、逆に仲間へ被害を与えてしまう場合の方が多いからね」


 これはミレイとロットの経験則から言える事だ。そして先程のは独断専行にも繋がる事になるだろう。そうなれば必要の無い犠牲が増える可能性が高くなる。

 もしそんなことをする輩がいれば、それはパーティー全体を危険に晒していると言う行為である事を、しっかりと伝えなくては命がいくつあっても足りない。

 護るべきものを護れなかった冒険者を、ミレイとロットは見てきているから言えることだ。

 だからこそ冒険者には何よりも信頼関係が必要なのだと二人は思っていた。


 ここまで話すとシルヴィアはどこか納得した表情をしていた。

 何か胸にすとんと落ちたようだった。


「魔物の件はギルドに報告するとして、とりあえずは捌いて素材を集めよう」

「あはは、そうだね」

「どうされます? 一旦古城に戻って捌くのかしら?」

「うん、そうだね。それが安全そうだ」

「では私が2匹持っていきますわ」


 俺がやるよとロットは言うが、せめてこれ位はさせて下さいと言われてしまう。

 それにこういった場合、熟練者であるお二人が持つのは控えた方が良いのではないかしらと正論を言われてしまい、お言葉に甘えて2匹分を持って貰う事にした。

 イリスとネヴィアも手伝おうとしてくれたが、後はロットで問題なく持てるため、気にしなくて良いよと伝えていく。


「ネヴィアも力が余りありませんから、気にしないで下さいね」

「すみません、姉様」


 申し訳なさそうに言うネヴィアに笑顔で構いませんわと答えていく姉。

 普段の元気なシルヴィアに戻ってくれたようだ。


 城門を抜けて左隅の場所まで運び、そこで捌いていくミレイとロット。この技術も3人は持ち合わせていないので、流石に手伝いも出来ないようだ。

 そんな中、イリスの魔法についての話になっていった。


「それにしても、先ほどのイリスさんの魔法は凄かったですわね」

「本当に助かりました。ありがとう、イリスちゃん」

「い、いえ、本当にたまたま上手く発動しただけですから」

「あはは、いい機転だったね。援護としては最高だったよ」

「そうだね。ああいった機転が出来る出来ないで、大分パーティーの安定性が変わってくるんだよ」


 前衛は勿論中衛であっても、後衛に魔物を通さないのが必須ではあるが、それはあくまでも理想論だ。現実の戦いとなればそうは行かない事も多々ある。先程のスパロホゥクもそうだが、同時のタイミングで挟撃されてしまう事も割とある。

 今回は戦闘開始までミレイの索敵に入らなかったが、これは彼女だからこうなっただけだ。並の冒険者であれば、行き成り目の前に飛び出てくる事も考えられる。


 つまりミレイがいなければ、不意にネヴィアの背中へ攻撃されていた可能性も考えられた。たったの一撃でパーティーが総崩れになる可能性だって冒険者にはある事なのだから、強襲に対しての冷静な判断と対応が必要となってくる。


 気配を探るなどという事が出来る冒険者など、獣人でなければ不可能だし、獣人であったとしてもミレイのような優秀な斥候(スカウト)は殆どいないだろう。

 今回は後ろからの襲撃に対応は出来たが、今後冒険に出るのならそういった事もしっかりと勉強していかないと危ないという事を、改めて学んだ3人であった。


「それで。先ほどの魔法は何かしらね、イリスさん」

「ね、姉様っ」


 悪戯っぽい顔を浮かべながら冗談交じりにシルヴィアが聞いてきた。

 はて、とイリスはまた首を傾げるが、今度はすぐに察したらしく、あははと苦笑いをしてしまった。どう説明しようかと思っていると、ミレイとロットはまだ時間かかるからゆっくり休んでると良いよと言ってくれた。

 それならばと話し始めるイリスに、その内容を目を丸くして聞き入っていた王女様達だった。

 ひとしきり話し終えると、質問攻めになってしまうイリス。ロットは話に聞いていたが、やはり実際聞いてみると驚くべき魔法であるのだが、ここは口を挟まずに魔物を捌き続けていった。


「……な、なるほど。流石にかなり驚きましたが、イリスさんの出生を先に聞いていたのが緩衝材となったようで、そそそこそこの衝撃で済みましたわね」

「……姉様。とても驚いたのですね。確かにとても驚きでいっぱいですが」


 どもるシルヴィアに苦笑いをしてしまうネヴィア。

 それも仕方の無い事だろう。母にも聞いたことが無い魔法の使い方なのだから。これを図書館で発想したと言うのだから、二人は更に驚いてしまう。


 何故思いついたのか、そしてどういう発想が出来たのかを3人は楽しそうに話し合っていた。途中からシルヴィアもネヴィアも、イリスの発想に真剣な表情で聞き入り、質問していく。

 それはまるで魔法の研究をしている3人の熱心な魔法学者のように見えてしまい、ミレイとロットは魔物を捌きながらくすりと笑ってしまった。


 次第に話はどうやったらそれが使えるのかの話になっていったが、これを教えて良いものかとイリスが考えていた所、捌き終えた二人は3人の元へ戻ってきた。

 そしてそれを近くで聞いていた二人はイリスにこう話していった。


「むやみやたらには教えない方が良いけど、二人はイリスちゃんの友達なんだから大丈夫じゃないかな」

「あはは、そうだねー。二人なら大丈夫じゃないかな。それに何か凄い魔法が使えるようになれば、安全に出かけることも出来るんじゃない?」

「確かにあの時のような魔物に襲われた時、強力な盾が使えたらとも思ってしまいます」

「そうですわね。知らずに倒されるなんてまっぴらですものね。早速帰ったら練習してみますわ!」

「でもお姫様って、どこかに誰か大体いるんじゃないの?」


 ミレイの一言に固まる姉妹。その姿はとてもユニークではあるが、多くの者に広まってしまうと、イリスの立場があまり良いとは言えなくなる可能性がある。

 その事にもしっかりと気づいてくれた姫様達は、イリスを見ながらしょぼくれた顔で話していく。


「無理ですわね。残念ですが、私達には練習できる場所がなさそうですわ」

「そうですね。大抵ひとりは必ず居りますものね」


 はぁっとため息を吐きながら諦める二人。

 こればかりはイリスを優先したいミレイとロットは黙るしかなかったようだ。扱いを誤れば大変な事にもなってしまうような技術だと4人は思っている。

 恐らくこの技術を両親や貴族が知ってしまったら、イリスはもう普通の生活が出来なくなってしまうかもしれない。父と母なら何とかしてくれるが、貴族の中では放っておかない者も出てくる可能性がある。

 そんな事とは知らずイリスは、やはりどこか本質を捉えきれていない様子のようで、きょとんとしていた。その様子に4人はイリスを微笑みながら見つめて、更にイリスは呆気に取られてしまっている。


 そしてネヴィアは話を続けていき、姉はその言葉に目を輝かせながら答えた。


「この件は母様にも言えませんね」

「女王陛下にも内密のお話だなんて、何だかどきどきしますわねっ」

「ね、姉様ってば、お友達との秘密事なのですからね?」

「だからですわ! 女王よりもお友達を優先だなんて素敵じゃありませんか!」


 これぞ友人関係ですわ! と、謎の言葉を発しながら瞳を輝かせる少女に、3人は何だか違うような気がすると言うような表情をしていた。

 イリスはと言うと、女王様よりも自分を優先してくれるという言葉に、嬉しさのあまり思わず抱きついてしまいそうになっていた。


 そんなうずうずとした様子を察したシルヴィアはイリスに両手を広げ、イリスも目を輝かせながら抱きついていく。

 とても微笑ましい光景に、一同はほんわかしてしまった。



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