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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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"知能"がある

 

 一行は隠し部屋を出て、王の寝室まで戻ってきた。

 さてどうしようかと相談していくが、ミレイはシルヴィアの胸に抱えている本に気がついた。


「あはは、持って来ちゃったの?」

「せっかくの成果ですし、王城の専門家に渡そうと思いますわ」


 ついでに母様にも報告出来ますしと、少々にやにやするシルヴィアであった。

 そんな姉に妹は、母様きっと驚くでしょうねと答え、どんな顔をするのか楽しみですわと悪戯っぽい笑顔をしながらうふふと笑う姉だった。


 苦笑いをするミレイとロットは、荷物になるから置いて行けば良いのにといった表情をしていた。楽しそうなシルヴィアをイリスは微笑むように見つめていた。


 イリスにとって、いや、ここにいる初心者3人にとっては、とても有意義な体験ができ、そしてとても楽しめた冒険となったようだった。


 本来の探索であれば、何も見つからない日々が続く事も多いのだが、今回はかなりの成果が得られ、ミレイもロットも満足そうだった。(もっと)もふたりにとっては得られた成果よりも、楽しく冒険をして貰えた事の方がずっと嬉しいようだった。


「でも抱えたままだと大変じゃないの?」

「それもそうですわね」

「私のバッグなら本一冊と鍵くらいは入りますよ?」

「でも重いですわよ?」

「ふふっ、大丈夫ですよ、そのくらい」


 そうイリスに言われ、笑顔でそれではお願いしますわと本と鍵を渡していくシルヴィア。

 それじゃあ街に戻ろうかとのロットの言葉に一同は賛成していった。


 安全とは確認できていても、途中の警戒を怠ることなくゆっくりと歩いていき、謁見の間、石碑のある場所まで戻ってきた。

 石碑を見つめながら結局は読めませんでしたねとネヴィアがどこか寂しそうに言いながら、(いず)れ分かる時が来るよと、ロットは優しくネヴィアに微笑んで答えた。

 赤くなりながらも、そうですねと笑って答えるネヴィアとロットから溢れる幸せな気持ちがこちらにまで伝わり、3人はそれを微笑ましそうに見つめていた。

 出来ればこのままもっと良い感じに発展して欲しいと願う姉も、ここは大人しく見守る事にしたようだ。

 その表情はとても穏やかで優しい、女王陛下のような素敵な眼差しをしていた。


 石碑を通り過ぎた一行は階段を下りていく。

 ちょうど階段を折り始めた時、ふとイリスは石碑の方へ向き直る。

 その様子に気が付くネヴィアは、イリスへ質問した。


「どうしたの、イリスちゃん?」

「いえ、何かこう、声が聞こえた気がしたんです」

「声? んー、誰もいないみたいだよ?」


 ミレイのお耳には何も聞き取れないらしい。どうやら気のせいのようで再び歩き出すイリスであったがどうにも気になり、意識だけは石碑の周辺へと向けていく。集中してみても何も聞こえる様子は無い。石碑の場所には部屋も無かった。

 誰かが居た訳ではないらしい。風の音だろうか、などと考えながら階段を降りていった。

 それでも気になってしまう。あれは人の声の様にイリスには聞こえた気がした。


 やがて一行は1階へと降りて、エントランスの扉を開けて古城を後にする。

 帰り際も扉を閉めておき、なるべく魔物が入らない環境にしておいた。とても感慨深そうに扉を見つめるイリスは、今日あったたくさんの事を思い返しているようだった。

 しばらくの間見つめていたイリスへ、さあ、帰ろうかとミレイが言い、振り向いてそうですねと答えていく。


 警戒を怠らず噴水跡まで戻ってきた時、ミレイが口にした。


「あー。こっち近づいて来てるね」


 その言葉に4人の間に緊張が走る。

 続けてロットがミレイへ答える。


「避けられない?」

「うん。まだ見つかってないけど、この位置はだめっぽいね」

「ちょうど城門を出てすぐか」

「そうだね。スパロホゥク2匹だよ」


 作戦と言うほどの事は特に無く、この陣形のまま城門を出て、ミレイとロットが引き付けながら戦闘をするようだ。何が起こるか分らないから警戒をしながら進もうとのロットの声に賛同し、ゆっくりと城門まで歩いていく。

 わくわくしていたシルヴィアは一気に戦闘用の顔つきになり、いつも輝かせていた瞳は落ち着き、その表情は思わず息を呑む美しさと凛々しさを見せている。

 不安になるイリスとネヴィアに声をかけていくミレイ。

 落ち着いて行動すれば大丈夫だよ、と。


 徐々に近づく城門を前にして、呼吸を整えさせ、落ち着いていこうと声をかけていく。城門を警戒しながら出ると、ミレイが右手で方向を指しながら声を荒げた。


「気づかれた! 来るよ! 右前方、距離120メートラ! 高さ10メートラ! 続いて約15セカルドでもう一体!」

「視認した! 迎え撃つ!」


 木々の隙間から敵を視認したロットが一歩前に出る。

 索敵の早さに驚くシルヴィアだったが、すぐに意識を見えない魔物に向ける。

 次第に大きな羽ばたく音が聞こえてきて、3人も魔物の姿を捉えた。


 急速に近づく敵はロットへ急降下して襲い掛かる。

 ロットは盾で魔物の力を受け流しつつ力を込めて盾で殴りつけ、地面にスパロホゥクを叩き付けた。あまりの出来事に目を丸くする3人が固まってしまう中、ミレイだけがすぐさまそれに反応し、ダガーで追撃に向かっていた。

 その鮮やかで流れるような動きに驚く3人。ぽつりとシルヴィアの声が、浅い森の中へ響いていった。


「たった、一撃で……」


 すぐさまダガーについた血を振り払い、ミレイは次の一体へと向き直る。だが――。


「――!? 右後方! スパロホゥク2! 急速接近中! 距離110メートラ! 高さ13メートラ! 不味い! ほぼ同時!」

「「「!?」」」


 警告と同時に後方へ移動するミレイはダガーを構え、襲撃に備える。

 ちょうど構え終えた時に、ロットの檄が飛んでいく。


「落ち着いて! こっちは任せて、シルヴィアも後方をお願いするよ!」

「わ、わかりましたわ!」

「イリスちゃん達もこちらはいいから、向こうに集中して!」

「は、はい!」

「わ、わかりました!」


 陣形を組み直すとほぼ同時に2方向からスパロホゥクが3体現れた。

 すぐさまミレイが本気で迎撃に移る。その凄まじい速度は、とても目で追いきれるものではなかった。あっという間に跳んでくるスパロホゥクの横から(・・・)一撃を当て、一体を倒してしまう。

 だが、もう一体の方は流石にミレイだけでは抑えきれない。シルヴィアが前衛に出て直線上に滑空するスパロホゥクを鋭い突きで迎撃する。


 だが当たらなかった。

 急降下してシルヴィアに襲い掛かるスパロホゥクは、翼を使い強引に方向を変え、シルヴィアの鋭い突きをぎりぎりですり抜けてネヴィアへと襲い掛かった。


「――!? ネヴィア!!」


 すり抜けられて叫ぶシルヴィア。体勢を立て直したミレイと、反対側のスパロホゥクを倒して合流しようとするロット。

 だが一歩間に合わない。ネヴィアに直撃する瞬間、白緑の盾がそれを許さなかった!


「盾となれ!!」


 瞬時に展開される魔法盾。ガツンと重々しい音が鳴り響き、盾に叩き落されるように落ちていくスパロホゥクが地面に触れると同時に、ミレイが目にも留まらない速さで急所を突いて倒した。


 静寂に包まれる光溢れる森。

 もう大丈夫だよとミレイの言葉に、誰からとも無くため息が漏れ、その場にへたり込むネヴィアとイリス。


「良く頑張ったね、みんな」

「あはは、流石に焦ったけど、みんな凄かったねー」


 苦笑いする3人へ向けて褒める二人であったが、色々と考えてしまう内容だったようだ。その顔色を伺うようにミレイがシルヴィアを見つめる中、ネヴィアがイリスへお礼を言った。


「ありがとう、イリスちゃん。助けれくれて」

「本当にありがとうございます。イリスさんがいてくれなかったらと思うと、恐ろしく思いますわ」

「い、いえ、無我夢中でしたので、無事に発動出来て良かったです」


 お礼を言うシルヴィアは次第に暗い顔になっていった。どうやら先ほどの戦闘で、敵を抑えきれずに通してしまった事にショックを受けたようだ。

 ぽつりと呟くシルヴィアにそれぞれ話していく。


「私の攻撃をあの体勢で避けられるだなんて、想像だにしませんでしたわ」

「あれには俺も驚いたよ。まさか翼を使って直線上から移動するなんてね」

「あたしもあれは見たことがない。あんな動きをするなんて」

「ネヴィアを危険に晒してしまうだなんて、情けないですわ」

「そ、そんなことありません。姉様の攻撃はとても鋭かったです」

「私もそう思います。凄い攻撃だったのに、まさか避けるだなんて」


 しかもかなりの高速移動中に、翼で方向を変えること自体ありえないのではないだろうかとイリスは思っていた。


「あの巨体、あの速度で翼を使って強引に目標を変えるだなんて、下手をすれば翼が折れてしまうんじゃ」

「俺もそう思うよ。あんな事をするだなんて、かなり危険だと思うよ」

「でもそれって、つまり最後の奴は知能があったって事じゃないの?」

「魔物に知能、ですの? そんな事ありえるのかしら」


 魔物に知能があるとは思えない3人だが、ロットとミレイは別のようだった。

 難しい顔になりながらもそれに答えていく。


「いや、ある特定の魔物に関して、知能がある事が推測されているんだ」

「それってどういう事なんですの?」

「――ギルド討伐指定危険種」


 ミレイの答えに一同は言葉を失う中、ロットが話を進めていく。

 ギルド討伐指定危険種に認定される程の魔物は、知性があると思える行動を起こすと言われているそうだ。今現在は確証を得られないほど曖昧なものではあるものの、そうとしか考えられないような動きを見せる事があるという。

 それは現場で戦っていた熟練冒険者でないとわからないような些細な事ではあるが、本能という言葉では説明が付かない動きをするのをロットも、また同じ場所にいたヴァンもそれを感じていた。


 魔物とは、言うなれば恐怖心の無い獣と言えるような、本能で動く存在だ。

 それが常識とさえ言われるほどの事ではあったのだが、近年報告されているギルド討伐指定危険種と相対した熟練冒険者は、その異質な動きを感じていた。

 ――まるで意思を持った行動をしている、と。


 重くなる空気の中、まぁ今話しても仕方の無い事なんだけどねとロットが続けていった。




 1メートラは1メートル、

 1セカルドは1秒の事です。


 ただしセカルドについては、この世界に時計は常用されておりませんので、正確な時間の事ではありません。心の中で大凡(おおよそ)カウントする程度のものになります。

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