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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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"恐ろしい"推察

 

 言葉に詰まるネヴィアを真剣な眼差しで見つめながら話すシルヴィア。


「貴女の思った通りとなるでしょうね」

「どういうことですか?」


 話について行けないイリスへ、どう説明して良いのかと悩むミレイとロット。

 シルヴィアとネヴィアはなんと言ってよいのやらと口を濁らせていた。そもそも子供に話すことでもないし、ましてやイリスはとても澄んだ心の持ち主だ。刺激的過ぎるのではないだろうかと王女たちは思っていた。

 ミレイとロットはイリスの出生から察して、その言葉を知らないのではないかと思ったようだ。


「つまりね、イリスちゃん。もし、この国にある石碑の秘密をフィルベルグ王国の王位継承者が知っていたとして、それを王位継承時に教えて下さるのだとすると、それはこの国の生き残った方たちがフィルベルグを作った可能性が出て来るの」

「そしてそれは、この国が滅ぼされた事にも繋がってしまうのですわ」

「滅ぼされたって、魔物にですか?」

「可能性としてはあるね。でもあたしは、もうひとつの可能性の方が高いと思う」

「もうひとつの可能性、ですか?」

「そうだよ、イリスちゃん。つまり人同士の"戦争"で滅んだのかもしれないんだ」

「センソウ? ですか?」


 イリスには聞き覚えの無い言葉だった。それはミレイとロットもおおよそ予想していた。この子は平和な世界の出身者で、争いもなく幸せに暮らしていたのだから、戦争という言葉を知らなくてもそれは仕方の無い事だ。

 やはりその言葉では伝わらないかとロットは思いながら、代わりにミレイが教えてくれた。


「戦争っていうのはね、たくさんの人同士が争って、もっとたくさんの人が亡くなってしまう、とても恐ろしい戦いのことだよ」

「ひ、人同士が争うって、どうしてそんなことに?」


 あまりの衝撃的な言葉に、イリスは言葉がどもってしまった。

 重々しい空気の中、王女二人も補足してくれた。


「人同士が争う理由は様々あると思います。それこそ争いの火種は星の数ほどに」

「例えば、そうですわね。ある男性を好きな女性がいました。ですがその男性を好きな女性は他にもいます。私の方が彼を愛してますわ、いいえ私の方が彼を愛してますわ。この時点で争いとなり、酷い場合は傷つけ合ってしまうこともあります。ここに利権や私欲といった物が入ってきた場合、物事はとても大きな争いを生み出す事となります。この大きな争いの事を戦争と呼び、数百人どころではない死者を出す結果にも繋がります」


 青ざめるイリスにネヴィアが安心させるように話を続けていく。


「可能性の話ですので、そうと決まったわけではありませんよ」

「ですわね。確かにこの説だと全てが繋がってしまいますが、あくまで憶測です」

「あはは、そもそも戦争なんて本でしか書かれていない事だからね」

「そうだね。誰も経験した事が無いほど大昔にあった、とだけ書かれているよ」


 不安に思うイリスを落ち着かせるように話していく4人。

 今まで話していたことは、全て可能性があるという曖昧なものであり、全ては憶測に過ぎないことだ。

 石碑の内容が分かったわけではないのだから、確証など得られるものではない。

 だが、間違っているという確証も得られたわけではない事も事実だ。

 あくまでも可能性。でも、もし本当に合っていたとしたら? 

 そう思えば思うほど、重苦しい空気に包まれてしまう5人であった。


「それじゃあ、隠されているかもしれない場所を探してみようか」


 意識をそちらに向けさせようと発したロットの言葉に、一同は従うように部屋を隅々まで探していく。どこにどんな些細なものが隠されているか分からないのだから、慎重にじっくりと調査をしていった。机や椅子の裏や、敷き詰められた絨毯の下、本棚が動かせるか、壁、窓枠、カーテン、ベッド、天井など隅々まで。


 イリスは小さな机についている引き出しを取り出し、振るような仕草をしてみた。4人はその姿をきょとんと見つめながら、イリスのしている行為を王女達は聞いてみたようだ。


「何をしているんですの?」

「引き出しを振って何か分かるの? イリスちゃん」

「いえ、なんとなく思い出したことがありまして」

「思い出したこと、ですか?」


 首を傾げるネヴィアはイリスへ問うが、イリスは昔聞いた話にこんな事があったと4人へ教えていく。


「昔あるひとに謎解きの物語を聞かせて戴いた事がありまして、その時の謎のひとつに引き出しの中が2重になっているというものがあったんです。もしかしたら何か入ってないかな、と思いまして」

「私も聞いた事がありますわ。二重底になっている謎解きのお話を」

「そういえば母様が昔読み聞かせて下さいましたね」

「ふふっ、あの時のネヴィアはあまり興味なさそうに欠伸(あくび)をしてましたわね」

「あれはとても夜が遅かったので仕方なかったのですよ」

「はいはい、わかってますわ」

「もう、姉様ったら」


 仲の良い姉妹に微笑みながらも4人は引き出しを見つめていく。

 引き出しは5つ。うちひとつはイリスが持っているので、全員でそれぞれ調べて見る事にした。正直イリスには結構重い引き出しだったらしく、大変そうに持っていたからだ。


「では、私は2段目を調べますわ」

「それでは私は3段目を」

「じゃあ、あたしは4段目を調べるね」

「俺は一番下の引き出しだね」


 それぞれ引き出しを引き抜いて調べてみた。どうやら中身は何も入っていないようだ。


「ないですわね」

「こっちもないねー」

「俺の方も何も入ってないみたいだ」

「あら?」

「ネヴィア? どうかしましたの?」

「いえ、何か音が」


 からんと何も入っていない引き出しの中で音が鳴った。

 どうやら何かありますわねとシルヴィアは呟き、ネヴィアの持っている引き出し以外を戻し、残された引き出しを見つめる4人。少し傾けるとからんと音がするようだ。


「何か入ってそうだ」

「あはは、イリスの読みが当たったねー」

「ふふっ、たまたまですよ」


 そんな事を話していると、引き出しを調べていたネヴィアとシルヴィアが話し出した。


「でも、これどうやって開けるのでしょうか」

「底を剥がせないようですわね」


 ひっくり返したり、振ってみたりするシルヴィアは、もどかしいような表情をしながら悪戦苦闘していた。からんからんと音だけがむなしく響く中、苛立ちを覚えてきたようだった。見せてとミレイがその引き出しを手渡して貰い、調べていく。

 じっと見つめるミレイは底板の端にほんの小さな隙間がある事に気が付いた。ちょうど小さなナイフが入り込めるような、とても小さな窪みだった。

 ミレイは採取用の短剣を取り出し、底板の隅にある隙間に軽く合わせ、底板を左右の方向に軽く力を込めていく。すぐに軽い木材がはまるような、カコっという音がして、底板を取り外す事が出来たようだ。おぉーっと感心する3人。ロットは何か見つかったかいと、冷静にミレイへ尋ねていった。


「これが入ってた」


 ミレイは隠されていたものを手に取り、みんなに見えるように持ち上げていく。


「鍵、ですの?」

「わぁ、綺麗な鍵ですね」


 それは金の細工が上品に施され、緑の美しい宝石を付けた立派な白銀の鍵だった。とても豪華に作られたもので、どうやら現在とはかなり違う時代の物かもしれないとロットは言っていた。

 それに同調するようにイリス以外の者達が、ここの装飾はあの時代の物に似ている、鍵に付いた宝石の加工はこの時代でも使われている、などの話をしていった。

 イリスにとってはどれも聞いたことの無い真新しい話ばかりで、目を輝かせながら皆の話に聞き入っていた。


 一頻(ひとしき)り鍵を調べた後、他に手がかりが無いかをロットがミレイに聞いていく。


「他には何かあったかい?」

「んー、特に鍵以外はなさそうだね。何かの印もないみたい」


 引き出しや取り出した底板をくるくると回すように見ているミレイは、何もなさそうで残念という表情を浮かべながらロットへ答えていった。


「新発見ですわねっ!」

「ふふっ、そうですね、姉様」

「まさか調査隊が気づかない事を見つけちゃうなんてね」

「あはは、これだから調査系の冒険は楽しいんだよ」

「私、今すごくどきどきしてますっ」

「ふふっ、そうですね、イリスちゃん。私も凄くどきどきしてます」

「これぞ冒険ですわ! ……でもまだ半分ですわね」

「半分、ですか? シルヴィアさん。……あ、そうか」

「あはは、そうだね。ここまで来たら、それを使ってみたいよね」

「となると、問題はどこの鍵かってことだね」


 顎に手を置きながら考えるロット。そして呟くように可能性を見出していく。


「可能性としては、この部屋のどこかで使うものか、それとも違う場所か」

「あはは、王様が所有していた鍵だよね、これは」

「でしたらこの部屋のどこかで使うのではなくて?」

「ですがもう粗方調べてしまったのでは?」

「そうですよねぇ。あとは……」


 イリスは部屋を見渡してみる。とても広くて立派な部屋だ。

 王様はこういったすごいお部屋に住んでるんだねと思いながら、何か手がかりがありそうな場所を探してみる。


「あとは扉と、ベッドの天蓋(てんがい)と、暖炉。あ。あと、ベッドの下でしょうか」

「ベッドの下ですか? 先ほど覗いてみましたが、何もありませんでしたわよ?」

「いえ、あれだけ大きなベッドですし、下に通路とか無いかなと思ったんですよ」

「あはは、その発想力には驚かされてばかりだねー」

「ほんとだね。じゃあミレイ、ベッドをどかせてみようか」


 そだねと軽く言いながら二人で軽く持ち上げ、静かに移動させていく。この部屋はとても広いので、こういった時にはやり易いようだ。

 ベッドをどかせた二人はその場所を調べてみた。こんこんと足で叩くように歩いてみるも空洞にはなっていないようだった。

 ミレイはじっくり床を調べていくが、印などの物も無いみたいだ。


「特に無いみたいだねー」

「ごめんなさい、わざわざ重いものを持たせてしまって」

「あはは、それは違うよ、イリス」

「俺達も楽しみながら調査しているんだよ」

「だからイリスが謝る事なんて無いんだよ」


 そう言いながら微笑む二人にありがとうと表情で返すイリス。

 微笑ましそうに見つめていた姉妹たちもとても楽しそうだった。


「さあ、調査再開ですわ!」

「ふふっ、そうですね」

「んー、後は……」

「天蓋と扉でしたね」



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