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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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読めない"石碑"

 

 どうやって見ようか思っていたところ、ミレイとロットは一言こう言い合った。


「いい?」

「ああ、いいよ」


 何の事だろうかと二人を見つめる3人は次の瞬間、目を大きく開いてしまった。

 ロットが背中につけていた盾を取り出し胸の高さで斜めに構え、ミレイが盾を足場に飛び上がった。そして優雅に右手を石碑上部に着け、身体を回転されながら石碑上部へと静かに着地をした。

 その動作があまりにも流れるように美しくて、3人も驚きのあまり『おぉー』という歓声と共に拍手してしまう。

 大した事じゃないよと言わんばかりに、苦笑いしながら手をちょいちょいするミレイ。


 拍手が止んだ頃、ミレイは石碑の上部を調べていく。どうやら埃が凄いらしく、かなり上からふわふわと落ちてくるようだった。

 埃を避けるように石碑から少々離れる一行は、ミレイの調査を待っていく。そしてミレイは隅々まで調べた後こう告げた。


「うーん。何も書いてないねー」

「あら、そうなのですか?」

「イリスちゃんの発想は、かなり良いと思ったんだけどね」

「……それらしい手がかり(モノ)が一切ないね。とても綺麗な状態だよ」

「ではこの石碑は何も分からないもの、ということでしょうか?」

「その位置から部屋を見渡すと何か印とか描かれていたりするのかな?」


 そのイリスの発想力に驚かされる一同は、見回すミレイの反応を待っていく。


「残念だけど、あたしには何も見つけられないかも」

「となると、誰かが削り取ってしまった可能性が高いのかな」

「そうですわね。だとするとそこにはかなり重要なことが書かれていたのではないかしら」

「重要なこと、ですか? 姉様」

「ええ。遺跡とは人類の軌跡()の物です。それを削り取るなどと言う行為事態、とても野蛮で卑劣な行為です。それをする理由があると考えるのが妥当でしょうね」

「なるほど。確かにそうだろうね。となると重要な事がどんなものなのか、

 そして何の目的で削り取ったのかが気になってくるね」


 まぁ、これでは読むことは叶いませんわねとシルヴィアが呟き、一同もそれに納得してしまった。

 ミレイは静かにすとんと着地をして、イリスへ話していく。


「イリスの考えはかなり面白かったけど、何にも無くて残念だったね」

「何となく思っただけですからね」


 そう言いながらイリスは笑っていた。


「イリスさんの発想はとても興味深かったですわ」

「そうですね。私も流石にわくわくしてしまいました」

「あはは、思いも寄らないというか、考えもしなかったよね」

「何かしらの意味が必ずあるはずだから、いずれ判明すると良いね」

「そうですよね。きっとこれを残した人は何かを伝えたいはずですよね」

「伝えたい言葉、か。ここはお城だし、こんな場所に設置してるんだから、この国の歴史じゃないかなってあたしは思ってたけど」

「歴史ですか。だとすると重要な資料になりますね」

「そうね。でもそれなら削った者の意図がわからないですわよ?」

「あはは、残されちゃ不味いもの、とか?」


 黙ってしまう一同。残されては都合の悪いもの、その国の歴史の可能性。

 そして削り取られた点を考えると、答えは自おのずと導き出されてくる。

 イリスはその答えには至らない。まだこの世界の歴史については学んでいないからだ。

 その導き出された答えに辿り着いてしまった4人は黙ってしまっていた。


 だがそこへイリスが気になることを話し、それに引き寄せられるかのように話し合っていく一行だった。


「でも、都合の悪いという理由で削り取ったのなら、石碑自体を頑張って壊すんじゃないでしょうか」

「……それもそうですわね。確かこの石碑は頑丈だけど傷つき難いだけで、壊すこと自体は可能なのではなかったかしら?」

「そうですね。母様からそう教わってます」

「ふむ。そうなると、今までの仮説が崩れる事になるね」

「ということは削られた説も崩れちゃうんじゃないのかなー」

「では、何の為にこの石碑は存在するのでしょうか」

「モニュメントとしての物かしら?」

「あはは、あんまり可愛くないモニュメントだけど、そうだとするとそれこそ中庭に置くんじゃないかな」

「それもそうですわね。やはり何故こんな場所に、という事が気になってしまいますわね」

「道楽説かな?」

「なんですの、それ」

「つまりお金いっぱいの王様が、こんなもんを造っちゃった説」


 ミレイのその言葉に半目になりながら呆れてしまうシルヴィア。そんなくだらない理由で国民からの大切なお金をモニュメントなどに使う事があったのだとしたら、度し難いほどの(ろく)でもない王がいたという事になってしまう。正直に言って信じたくもないことであったが、ネヴィアも姉と同じ気持ちのようだ。

 つまりは同じ王族として恥ずかしいと。


「王族の風上にも置けない存在ですわね」

「王族として流石にそれは私もないと思いたいです」

「俺もそう思うな。それじゃ酷い王様がいたことになる」

「あはは。あたしも無いとは思うけどねー。でもそうでも思わないと、コレの存在意義がわからないよ?」

「……この削られているもの自体が文字なんじゃないですか?」

「「「「え?」」」」


 イリスは最初に質問をした以降話には加わらず、石碑の下部から調べるように手をなぞらせていた。そしてふと思ったことを言ってみた言葉に、一同が呆気に取られたような顔をしながら、少女の言葉の意味を考え込むように固まってしまった。

 暫く固まる一同を総意を代弁するかのように、いち早く抜け出したロットが、尚も削られた場所をなぞって徐々に中部へと向かっているイリスに質問をした。


「……これ自体が文字ってどういう意味なの、イリスちゃん」

「えっとですね。下から削られた部分をなぞってみたんですけど、どこも同じ深さの()になっているんですよ。削るならもっと適当と言うか、乱暴にすると思うんです。そうではなく一定の削られ方、それも丁寧に削っているように思えるんですよね」


 そう言われて全員イリスが溝だという場所をさわってみた。

 どうやらイリスの言う通りのようで、興奮気味にシルヴィアが答えていく。


「ほ、ほんとですわ! 同じ深さで綺麗に溝になってますわ!」

「ほんとだ……。良く気がついたね、イリスちゃん」

「すごいよイリス。あたしも気がつかなかった」

「イリスちゃんすごい! 私も全く気が付きませんでした!」


 全員から褒められてイリスが喜ぶかと思ったミレイとロットは、尚も何かを考えながら調べているイリスに疑問を持ってしまう。


「他にも何か見つけたの? イリス」

「いえ、そういう訳ではないんです」

「でも何か気になることでもあるのかしら?」

「はい。何となくなんですけど、これを残した人の気持ちを考えていました」

「石碑を残した人の気持ち?」


 首を傾げてしまうネヴィアに、イリスは石碑の上部を見ながら話を続けていく。


「はい。こんな石碑を残すのは、やっぱり何かを伝えるためだと思うんです。そこにはきっと、とても重要で大切なことが書かれていると思えて、昔は確かに王国がこの場所に存在していて、今ではもう存在していない。人がいなくなってもなお、何かを伝えるために存在する石碑に、なんだか切なく思えてしまうんです」

「石碑に切なく、ですの?」


 シルヴィアもイリスの言葉に疑問に思ってしまった。

 切なく、とはどういう意味だろうかと。そもそも石碑自体は何かを残すための物ではあるが、そこに感情が含まれるという考え自体に辿り着くことはない。

 石碑は石碑であって、そこに意思など存在しない。書かれていること自体に意味があると普通は思うはずだ。

 だがイリスは石碑自体に切ないと言っている。どうやら訂正はしないようなので、そのままの意味で捉えるならば、やはり石碑自体にそう言ったのだろう。不思議な言い方をする子だとシルヴィアは思っていた。

 いや、ここにいる全員がそう思っていたようだ。


 石碑を愛おしく触れているイリスは話を続けていった。


「もしかしたら、ここに書かれている内容を知ることが、今を生きる私達がするべき義務なのかもしれませんね」

「……今を生きる、か」


 ロットは呟くように言葉にする。その言葉は不思議と重く感じられた。この遺跡はいつ頃から存在しているのかもまだ判明していない。状態から察するに相当古い、という程度でしかロットたちも分からずにいる。

 彼は以前、この遺跡について図書館で調べたことがあるが、成果は得られなかった。文献が一切残っていないのだ。あるにはあるが、それは調査報告を纏められた文書のみで、遺跡自体を書かれた文献や書物が存在しなかった。それ故に調べようにも調べられない物として扱われているようだ。


 だがイリスの言葉でもう一度図書館へ行こうとロットは思っていた。イリスの言葉曰く、それが今を生きる自分達の義務なのかもしれないからだ。

 もしかしたらまだ読んでいない書物があるかもしれない。見落としてしまった事もあるかもしれない。そしてそれがこの石碑の解明に少しでも貢献できるならば、何かとても大きい事が分かるのではないだろうかと、そうロットは思っていた。


 そんな中、シルヴィアが(もっと)もな事を言い出した。


「この石碑に関する書物が、このお城のどこかにあるかもしれませんわね」


 イリスを含めた全員がシルヴィアを見てしまった。

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