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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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"古代遺跡"

 

 扉を潜った先には大きな広い場所になっているようで、そのずっと先には中央になにか噴水のようなものが見えた。そしてその更に先にとても大きな遺跡があり、本当にこの場所はただの入り口なんだねとイリスは思っていた。

 一行は歩きながら周囲を見ていくが、イリスはこの建築物の造りに疑問を持ち、独り言のように呟いた。


「……まるでお城みたい」


 その言葉にシルヴィアとネヴィアもはっと気がついたように目を見開いた。

 イリスの問いに答えるようにロットが話を始める。


「ここは大昔にあったとされる古城らしいよ。何のために建てて、ここがどんな国で、いつ頃滅びて、かつて誰がここにいたのかも、現在の資料では分らないんだ」

「文献が残っていない、という事でしょうか」


 ロットの言葉にネヴィアが質問をしていく。


「そうだね。現在分かっているのは、ここがかつて城だった、という程度だね」

「私達は母からここが遺跡だったとしか習いませんしたが、まさか古城だとは」

「母様もご存じないのでしょうか?」

「どうかしらね。流石に母様が知らないという事は無いのではないかしら」


 ミレイとロットはこの遺跡に何度も来たことがあるが、初めて来る3人にはとても珍しく見えるようで、周りをきょろきょろと見渡すように見ていた。しばらく歩いて行くとシルヴィアが話していった。


「百聞は一見に()かずとは良く言ったものですが、本当にその通りですわね」

「そうですね、姉様。やはり見てみると全く違う印象を受けますね」

「あ。噴水が近くに見えてきましたよ」


 どうやら朽ちてしまった噴水跡のようだった。どれだけ長い月日を越えれば、このように朽ちてしまうのだろうかとイリスは思っていた。

 一行はそのまま真っ直ぐ古城と思われる場所まで進んでいく。そこはとても見通しが良い場所で、魔物の姿が見えずにホッとする二人と、ちょっと残念そうなひとりがそこにはいたようだ。


「ここが古城の入り口なのかな」

「そうだよ。ここから先は建物の中になるから注意が必要になるんだよ」

「つまり部屋の中に魔物が潜んでいる可能性がある、という事かしら」

「そうだね。奇襲のようにいきなり襲ってくる場合もあるからね」

「ちょっと待ってね」


 ミレイが一行を止め、扉の方へひとりで静かに近づいていく。

 朽ちて穴が開いてしまっている扉に耳を傾け、中の様子を探っていった。

 しばらくするとミレイは振り向きながら大丈夫だよと話していく。


「特に魔物もいないよ。まぁ扉の先に入る魔物ってのはいないだろうけどね」

「それじゃあ安心ではあるけど、一応注意しながら進もうね」


 こくんと頷く4人は扉を開けていく。重々しい音と軋む音がイリスとネヴィアに緊張感を与えていく。

 シルヴィアはそんな気持ちにはならず、わくわくと瞳を輝かせていた。


 扉の奥はやはり城のような造りとなっているエントランスのようだった。

 かつてはとても豪華で立派な造りであったであろう事がわかるその室内に、3人は感嘆するように息を吐き、昔の姿を想像していく。


 念の為、魔物が入ってこないように扉を閉めておき、警戒をしながら先へと進んでいく一行が歩いていく中、そういえばと思い出したようにネヴィアが話し出した。


「ここにあるという石碑は、どこにあるのでしょうか」

「そういえば見かけませんわね。地下にあるのかしら」

「ああ、それなら真っ直ぐ進んだ先にある階段から2階へ上がった奥にあるよ」


 ロットの答えに疑問に思う3人。石碑とはそのような場所に置くものだろうかとイリスが考える中、ネヴィアがその質問を口に出していった。


「珍しい場所に置かれているのですね」

「あはは、どうせなら庭にぼんと置けば良いのにねー」

「何か意味があるのかなぁ」

「どうだろうね。俺もそう思った事があるけど、石碑に書かれているかもね」

「あの読めないという石碑に、でしょうか?」

「そういえば2人も見たことないんだよね? とりあえず行ってみようか」


 はて、と何かに引っかかるイリスに一行はどうしたのと足を止めて聞いてきた。そうだと思い出したようにイリスが話を切り出していく。


 「そういえばおばあちゃんは、石碑は最奥にあるって言ってたんですけど、この先にあるものとは別にあるんですか?」


 その問いにロットとミレイが答えてくれた。


 「いや、石碑はひとつだけのはずだよ。最奥は確か倉庫のような場所になっていると記憶しているけど」

 「あたしも知らないなぁ。あたしが知ってるのもこの先の石碑だけだよ?」

 「そうですか。おばあちゃんも行った事がなくて、ちょこっと聞いただけって言ってたので、間違った情報だったのかな」

 「あはは、良くある事だよ。探検や調査目的の冒険者は、そういった様々な情報を集め、あらゆる可能性を考慮した上で探索していくものなんだよ。きっとそのうちのひとつがレスティさんの聞いた情報なんじゃないかな」

 「そうだろうね。特にこの古代遺跡の時代背景は、全くと言って良いほど解明されていないからね。様々な憶測が飛び交う場所でもあるんだよ。ここに限らず遺跡や廃墟は人が作り上げた物だから、ただその場所に行くだけじゃわからない事もたくさんあるんだよ」


 説明をしてくれるミレイとロットの言葉に聞き入ってしまう3人であった。これは現場を知らない者では口に出来ない、言うなれば冒険者の知識だ。もしひとりでここに来たとしても、ただ噂の情報に流され、その先にあるものを見つけることが出来ないかもしれない。

 今回の話を例に挙げて言うと、『最奥に石碑がある』という情報を信じ、そのまま最奥でありもしない石碑を探し続ける可能性もあった。もちろん逆に石碑がある可能性を棄てきれない事もある。例えば最奥に隠し扉があり、その先に石碑があるという場合だ。

 今回の場合に限って言うのであれば、人から聞いただけの知識という曖昧な情報である事と、ここは既に調べ尽くされてしまったと言われる場所である事を考慮すると、レスティが聞いたという情報は間違いである、という可能性が高くなる。

 もし本当に最奥に隠し部屋があり、その先にある石碑が確認されたのであれば、冒険者であるロットとミレイがふたりともそれを知らないという事は無いだろう。



 一行は2階にあるという石碑を目指し、周囲に注意を払いつつ進んでいった。


 読めないと言う石碑にはイリスも興味があった。以前レスティに聞いた時は、聖域の方に興味が行ってしまったが、今は問題も無事に解決したために余裕ができ、興味を持つまでになったようだ。

 それでも自分から行こうと思うほどではなかったが、こうやって皆で来ることができて内心ではかなり楽しんでいた。

 魔物に対しては、やはり恐怖心が拭いきれていないので不安でもあるのだが、ミレイもロットもいてくれるし、何より頼もしい友人二人も一緒に行動をしているので、かなり恐怖心は落ち着いているようだった。


 念の為、陣形を組んだまま進んでいく一行。ロットに付いて行く形を取りつつ、魔物に備えて警戒もしていく。

 今回はミレイがいるので安全の確保は容易であるが、本来であればここまで優秀な斥候(スカウト)は存在しない。

 それこそ兎人(うさぎひと)で冒険者経験のある者の力を借りなければ、ここまでの安全性は持つことが出来ないだろう。まさしくミレイ頼みとも言える安全なパーティーではあるものの、まるで訓練をしているかのように警戒をしていく5人であった。


 ロットは普段通りの警戒を、ミレイは聴覚を研ぎ澄ませながら進みイリスへ不安を与えさせないように注意を、シルヴィアはまるで冒険者の気分を楽しんでいるように、ネヴィアとイリスは恐怖心から来る不安を押さえ込むように警戒をしているようだ。


 徐々に階段が見えてきたが、魔物の姿はなくホッとするふたり。

 そんな微笑ましい様子を耳で聞き取りながら、ミレイが話を始める。


「この先が石碑のある2階になっているよ」

「ここも立派な造りになっている階段ですね」

「そうですね。さぞ立派なお城だったのでしょうに」


 階段を上り2階へと行ってみると、周りにはいくつもの部屋があるようで、とても広い城だったことが伺えた。

 そして正面には少々先に行った所に円形の開けた場所があるようで、そこの中央に石碑らしきものがぽつんと置かれてあるのが見えた。

 一行はそれに向かい進んでいくも、イリスには何故か石碑よりも建物自体が気になっているようだった。


 その様子に気がついたロットはイリスを呼ぶも、気づかずに壁を見つめていた。

 ネヴィアが心配するように声をかけると今度は気がついたようで、少々驚いたようにネヴィアの方を見ていた。


「大丈夫? イリスちゃん」

「あ、ごめんなさい。ちょっと気になった事があって」

「気になったこと、ですの?」

「はい。何でこんなにお城傷んでるのかなって」

「それは古いからではないかしら?」

「いえ、そう思ってたんですけど、損傷っていうんでしょうか、それが激しく見えるような気がするんです」

「魔物に壊されたんじゃないかな、と俺は思ってたよ」

「そうだねー、割と冒険者も良く来る場所だから今では駆逐されて魔物は殆どいないけど、その前は結構魔物がいたらしいよ」

「母様が15年以上前に討伐隊を編成して、騎士の育成と併せて魔物を狩り尽くしたって仰ってましたね」

「そういえばそうだったわね。母様も指揮官として参加したらしいけど、その時は騎士達に任せて退屈だったって言ってたわね」

「退屈って……。いや、あれだけの強さと性格だから分かるんだけどね」

「はは、女王陛下らしいお言葉だね」


 一行は話しながらも進んでいき、徐々に石碑の間近にまで来たようだ。


 その石碑は白に青がほんの少し溶け込んだような不思議な光沢のある素材で出来たもので、まるで凍りついた湖のような色をしており、とても幻想的な姿に見えた。

 縦2メートラ、横150センル、奥行き1メートラほどだろうか。長方形の形をした大きな物だった。地面に突き刺さるようにも見える大きな人工物と思われるものではあるのだが、その違和感に3人は気がつき、ぐるりと石碑と回るように見ていく。


 そしてその違和感に3人が答えていった。


「……なんですの、これ?」

「……本当に読めないですね」

「読めないといいますか、文字が書いてないように私には思えるのですが」


 目が点になる様子を見る先輩達二人は、その姿に最初の頃に来た自分を重ね合わせ微笑んでしまっていた。


 そう思うのも仕方の無い事だ。その石碑には文字など書いていないのだから。

 石碑には確かに文字らしきものが書かれていたと思われるのだが、その文字の部分に加工がされていたようだ。

 そこは削り取った様に(えぐ)られ、黒い長方形の穴が刻まれていた。

 それはまるで単語毎に削り取った上に、何かで塗り潰したかのように。


「これでは読める読めない以前の問題ではなくて?」

「そうですね。流石にこれは読むどころじゃ無いですよね」

「どなたかが削り取ってしまったのでしょうか」


 不思議に思うイリスは、もう一度石碑をぐるっと回りながらじっくり調べてみるも、やはりどこにも文字は書かれていない。暗号のような物も刻まれてはいないようで、これでは何の用途に建てられたのか全く分からない。


 だが何となく思ったイリスの一言に、新たな可能性が見えてきた。


「もしかして、石碑の上部に何か書かれているんでしょうか?」


 その言葉に4人はおおっと声を出し、上部を見てみようとした。



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