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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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"女王陛下"

 

 彼女の紹介をシルヴィアが話していった。


「こちらは私達の母となります、エリーザベトです。母様、こちらがミレイさんとイリスさんですわ。私もお友達にして頂きましたの」

「そうでしたか。初めまして、(わたくし)はエリーザベト・フェア・フィルベルグと申します。娘達がお世話になっております」


 そう言って少々頭を下げるエリーザベトにとても動揺してしまう二人だった。

 このお方はフィルベルグ王国の女王陛下だ。言うなれば頂点に存在するお方であり、平民のイリスとミレイに頭を下げるなど、二人の常識からするとありえないことだった。


 ミレイとしては違った意味でも驚かされていたので、2重に驚かされているようだ。そんなおろおろする二人を察して、シルヴィアが半目でエリーザベトに話した。


「母様は女王陛下なので頭を下げてしまうと、ふたりは驚くだけではなくて?」

「あらそうだったわね。ごめんなさいね、二人とも。今の私は娘ふたりの母親としてここにいますので、どうかお気になさらず」

「でしたら先にそれを言った方が良かったですわね」


 苦笑いをするシルヴィアにエリーザベトは微笑みで応えていった。ほんわかする空気の中ひとりだけ真面目な顔をしているミレイは、彼女に向かって話し始めた。


「噂には聞いてましたが、まさかこれ程とは思ってませんでした」

「昔は少々遊びが過ぎましたが、今はただの女王ですよ」

「どうしたんですか、ミレイさん」


 イリスはミレイの反応が今までにないほど緊張しているように思えた。上手く表現は出来ないが、それは女王陛下だからというような立場的なものではない気がしているようだ。

 首をかしげている彼女へ応えるようにミレイは話を続けていく。


「女王様、物凄く強いですね」


 その言葉に驚くイリス。ネヴィアとシルヴィアは特に驚いた様子はなく、どちらかといえばきょとんとしながらミレイを見つめていた。

 不思議な空気が漂う中、エリーザベトはその問いにくすくすと笑いながら答えていく。


「昔の話ですよ。シルヴィアを授かってからは鍛錬もほとんどしておりません。いずれ貴女にも追い抜かれる事でしょう」


 ご冗談をと言うミレイにイリスが話しかけた。その質問は至って普通の事だった。


「そんなにお強いんですか?」


 イリスには、いや、エリーザベトを初めて見た人であるならば、その美しさに見惚れるだけで強さと言うものを感じることはないと思う。

 ましてやゴールドランクの上位冒険者の強さを凌駕すると言われているミレイが言うほどの強者という言葉にはどうしても当てはめる事ができないイリスであった。


 だがそれは一般人の発想であり、それなりの武術を心得たものならそれを肌で感じるほど、凄まじい闘志のような物を感じるようだった。そしてそれは達人ですら軽々と越えてしまっているような、別世界の強さをミレイは感じていた。


 そんなミレイはイリスへ静かに答えていく。


「うん。今のあたしじゃ勝てる要素が微塵もないくらい強い」


 その言葉に驚愕するイリス。どう見ても目の前にいる女性は、美しく優しい眼差しの方にしかイリスには見えない。

 ミレイはどうやったらその領域まで辿り着けるのか(はなは)だ疑問に思う中、エリーザベトは言葉を返していった。


「昔はそれなりに強いと自負してましたが、先ほども申しました通り、現在では殆ど鍛錬もしておりません。随分と錆付いてしまったと思いますよ」

「とんでもないです。まさかこれほどまでに強いとは思っていませんでしたよ」


 その会話に割って入るようにネヴィアがミレイへ聞いてきた。


「ミレイ様ほどの強さでもそう思うのですか?」

「だね。たぶんロットでも勝てないと思うよ」


 ミレイの言葉に目を輝かせてシルヴィアが反応した。


「さすが母様です。伝説通りですわね」

「で、伝説、ですか?」


 あまりの驚きに言葉が途切れてしまうイリスはシルヴィアに聞いてしまった。


「ええ。母は若かりし頃作り上げた武勇伝がたくさんあるのです」

「あら姉様、母様からは様々な事を教えて頂いた先生でもあるではありませんか」

「先生、ですか?」


 ええ、そうなのですよとネヴィアはエリーザベトのことを話していく。それは戦う術だけではないらしい。語学や礼法だけでもなく、神学、剣術、格闘術、魔術のみならず、舞踊や絵画など、多岐に渡り教えて貰ったそうだ。

 本来であれば専門に教えて貰える方を呼んだり、学校に行って勉強したりするのが当たり前であるのだが、基本的に先に学ばせてしまうエリーザベトだったので、学校とは社交の場と復習する場所というところと王女達は認識しているようだ。

 やはりそこでも貴族や商人の子供達と友人関係は構築できなかったらしい。


 そしてネヴィアは話を続けていった。


「それだけではなく私達が生まれてからの育児も、乳母を使わず全て母様がおひとりで育てて下さったのですよ」


 本来これは王族ではありえないと言うほど珍しい事であった。フィルベルグ史上で考えても恐らくそれをなした人はエリーザベトともう一人だけである。


「エリーザベト様、すごい……」


 驚きと尊敬の眼差しで見つめるイリスに、微笑みながら彼女は答えていく。


「ふふっ、多芸ではありますが、然程特出している訳では御座いませんよ。あくまで嗜み(・・)程度です。育児に関しては母として当然の義務ですね。いえ、可愛い我が子の成長を一番近くで見たかっただけなのですが。強さ、という意味でしたら、相当の自負はありましたが、それも昔の話です」


 昔がどれだけ凄かったのか想像もつかなく、言葉を失ってしまうイリス。


 その様子を見たシルヴィアがその伝説を説明していく。


 曰く、冒険者であった現国王であるロードグランツ()森で助けた。

 曰く、少々お転婆(・・・)だった彼女は"狩り"と称し魔物を狩っていた。

 曰く、当時の王宮兵士達が腑抜けていたので、全員をひとりで叩きのめした。

 曰く、当時プラチナランクだった王を重症させた凶悪な魔物を単独で撃破した。


 彼女の功績(・・)を挙げていけば(きり)が無いほどの武勇伝を持っており、女性冒険者からは崇拝する者も多いほどの豪傑なのだそうだ。


 そんな母の話を聞いたシルヴィアは、彼女に憧れと尊敬の念を抱き、同じ道を進もうとしたのだが、どうやらそうはならなかったようで。


「私はそんな母様に憧れて強くなりたかったのですが、父様から涙ながらに懇願されてしまい諦めたのですわ」


 大切な娘を危険な目に遭わせたくない王は、シルヴィアが若かりし頃のエリーザベトの真似事を始めたのを聞きつけ、懇願して止めさせたらしい。それも涙目でされてはさすがにシルヴィアも止めざるをえなかったのだとか。

 どうもそれ以来ストレスが溜まり続けているようで、何か気分転換が欲しかったようだ。それが冒険に行きたいという事の本音ではあるようだが、一国の王女ともあろう者が、それを許されるとはとても思えないイリスとミレイだった。


「それで母様、ご相談があるのですが」


 まるで反対される事を考えてもいないように流暢に語るシルヴィアであった。

 ネヴィアとしては公務も勉強もある為、反対されても納得なのだが、どうも姉の方は行く気満々のようだった。


 話をし終えると、静かに聴いていたエリーザベトが口に出していく。


「つまり貴女達は冒険に行きたいと?」


 少々目が細くなったエリーザベトにミレイは、ほらねという顔と声で話した。


「あはは、さすがに無理ですよねー。ほら、ふたりとも諦めよう?」

「構いませんよ」


 へ? という呆けた顔になってしまうイリスとミレイ。今の言葉を聞き間違えたのだろうかと思い返しているようだ。

 ネヴィアは少々驚くも、やはり母様は了承なさるのですねと口を出し、シルヴィアに限っては当然ですわといった顔をしていた。


 そんなエリーザベトへミレイは若干引きつった声で問い返してしまった。


「よ、よろしいのですか?」

「えぇ、構いません」

「ですがお姫様を二人も同時に冒険に行くは、あまり良くないと思うのですが」


 イリスとしてはそう思っているようだが、エリーザベトは違う考えのようだった。


「ご心配には及びません。この子達もそれなりに強いですから」


 いやいやいやと半目で口に出てしまうミレイ。イリスはもはや言葉が出ない。



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