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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第四章 真実の愛を
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お城への"招待状"

 

「おはよう、おばあちゃん」

「あらイリス、おはよう」


 いつもと同じくらいの時間にイリスは起きてきたようだ。


 さて、何と言って渡せばイリスに影響が少なく渡せるのかしらと思いながら、レスティは考え込んでしまっていた。それとなく告げるべきか、はっきりとした言葉で伝えるべきか。その様子を見たイリスは首をかしげてレスティへ質問していった。


「どうしたの、おばあちゃん。悩み事?」


 その様子にイリスの方へ向き直るレスティは、ごめんなさいねと言いながら例の手紙を引き出しから丁寧に持ち、イリスへと差し出していく。


「イリスへ手紙が届いているわよ」


 何も言葉が出てこないことに悲しくなるが、それでもこの手紙は渡さなければならない。説明してもしなくても、恐らくイリスは驚く事になるわけだから、あえて『王宮からよ』なんて言わない方が良いと判断してしまう。


 手紙を受け取ったイリスはその美しい紙の質感に驚いているようだ。王室が扱う紙は最高級の品質である為、一般には出回らないほど素晴らしい紙だ。その裏側に印璽(いんじ)()され封蝋された封筒を見て更に驚いたようだった。

 これはフィルベルグ王家の紋章なのだが、恐らくイリスにはわからないだろう。どうやらかなりおろおろしていたイリスであったが、とても美しい字で書かれた差出人の名前を見て、ぴたっと止まったようだった。


「あ。ネヴィアさんからだ。びっくりしたぁ」


 心から安堵している様子のイリスだったが、レスティには第二王女と知りながら平然としているイリスに驚いてしまう。昨日イリスとミレイの話からお友達になりたいとネヴィア王女が言ったと聞いていたが、一種の社交辞令のようなものだとレスティは思っていたようだ。

 どうやら本気でお友達になりたいと思って下さっていらっしゃるご様子で、本当にこの子は不思議な魅力があるのねと改めて思ってしまうレスティであった。

 今回はミレイも一緒に友人関係になったそうで、それはイリスにも当てはまる事ではあるのだが、まさか王女殿下とご友人になるとは、さすがのレスティもびっくりしているようだ。


『まぁ、イリスだからね』と言ったミレイの言葉を思い出すレスティはイリスの反応に驚きつつも、彼女にペーパーナイフを渡していく。

 ありがとうとお礼を言ったイリスは丁寧に手紙の上部を上手に切り取っていき、手紙を取り出した。


 ふむふむと読むように見ていたイリスは、急にびたっと止まってしまった。すぐにおろおろしながら震えた声でレスティに助けを求めていく。


「どどどどうしよう、おばあちゃん! お城にご招待されちゃった!」

「あらあら」


 おおよそ見当がついていたレスティはとても冷静に言葉を返していく。


 手紙の内容をイリスは話していくが、それも大体レスティの想像の通りだったようだ。要するに助けていただいたお礼を改めて言いたい事と、ネヴィア王女とお茶をしながらお話しましょう、とのことだった。

 当然それで済まない事になると予想はするレスティであったが、招待されたのはお友達としてのイリスへという意味だったので、特に問題ないだろうと判断したようだ。尚も驚きっぱなしのイリスに落ち着かせながら話を進めていく。


「うふふ、大丈夫よ。せっかくのご招待なんだから、楽しむといいわ」

「だだだだって、これってつまり、お茶会なんじゃ!?」


 瞳をぐるぐるとさせつつ答えるイリスに、微笑ましい表情で目を細めてしまうレスティは、違うわと言いながら話した。


「これはお茶会のお誘いではなくて、お友達とお茶を飲んでお話をしたいって意味だと思うわよ。このお手紙はお茶会の招待状ではなく、お城への招待状よ」


 正式なお茶会であるならドレスを用意しなければならないけれど、これは普通の招待状だから普段着で良いと思うわ、と言ってくれた。


 でもちゃんとしたドレスで行かないとだめなんじゃないのとイリスが聞くと、お友達として招待したのだから気にしなくて良いんじゃないかしらと言ってくれた。


 貴族であるならばそれなりの格好というものが必須となるが、イリスは貴族ではないし、ましてや友人としての招待である。


 話に聞いただけではあるので、それだけで判断するのはあまり良くないのだが、察するにネヴィア王女はそれを望んでいないのではないだろうかとレスティは思う。


 このお方はきっと普通というものに憧れがあるのではないだろうか。王女であるが故に友人を作ることが出来ないという悲しい思いをしているのかもしれない。イリスやミレイとの出会いや会話の内容から判断をすると、普通に接して欲しいとレスティには聞こえてしまった。

 この場合の普通とはきっと華やかなドレスに身を纏いながらお茶を楽しむような、そういった世界を望んではいない気がしてしまう。


「イリスは気負わずに楽しむことをネヴィア様は望んでいるんじゃないかしら」


 あくまでもそんな気がするだけではあるが、恐らくは問題ないだろう。


「そっか。ネヴィアさんはお友達として私とお話がしたいんだね」

「きっとそうだと私は思うわ。だからイリスも気楽に行ってらっしゃいな」

「うん。そうだね。一度は行ってみたいなとは思ってたからお城に行ってみるね」


 平常心を取り戻したイリスはレスティにそう答えていった。


 どうやら次の太陽の日にお呼ばれされたようなので、ネヴィアさんは私に気を使ってくれたようだ。 確かに普段はお仕事があり平日だと少々困ってしまうので、この配慮はとてもありがたかった。

 

 その後、私達は太陽の日に着て行く服とか、お城での礼儀作法なんかのお話をしながらご飯を食べていった。




 *  *   




「それじゃあ、行ってくるね」

「うふふ、いってらっしゃい」


 イリスはレスティに挨拶をして城へと向かって行った。


 そろそろ日差しが強くなりつつある朝の道を一旦ギルド側から噴水広場に出て、右に伸びているお城への道を真っ直ぐ進んでいく。


 次第にお城への入り口が見えてきて、そこには兵士さんがふたり立っているようだった。


 おばあちゃんによると、ここにいる兵士さんは案内係さんなのだろうだ。迷ったときや探しているお店なんかを教えてくださるらしい。

 フィルベルグは王都なので、様々な方がこの国を訪れるのだとか。そういった人たちのために案内所として設けられている場所なので、困ったときはここで聞いてみるといいらしい。


 一応私はお城へと向かいたいので、ご挨拶を含めて兵士さんにお話してみた。


「こんにちは」

「やぁ、こんにちは」

「何かお困りかい?」


 笑顔で答えてくれる兵士達に安心するイリスは、小さめのバッグから手紙を取り出し、お城へ招待されている旨を伝えていった。その様子に驚く兵士たちであったが、その手紙に捺された印璽を見て更に驚いたようだ。そんな中、右側にいた兵士がイリスへ納得したように話しかけていく。


「そうか、君がイリスさんだね。今日訪れる事は伝わっているよ」


 今馬車を呼ぶからそれに乗って行くと良いよと優しく話しかけられたが、ゆっくり歩いてみたいので大丈夫ですとやんわりとお断りした。だが兵士達は少々困ったような表情になりながら答えていく。


「でもね、イリスさん。王城まではかなりあるんだよ?」

「そうですよ。思った以上に歩く事になるから馬車で行った方が良いと思います」

「そうなんですか?」


 ふたりは頷きながら教えてくれた。


「でもせっかく綺麗なお庭だし、ゆっくり行ってみたいです」


 そう笑顔で答えるイリスに、兵士達もそれならばと納得してくれたようだ。


「王城の入り口まで行くと兵士がいますので、その者に扉を開けて貰って下さい」

「はい。ありがとうございました」


 お辞儀をしながらお礼を言うイリスに少々驚いてしまう兵士達だった。仕事上、感謝をされる事は割と多いのだが、ここまで丁寧にお礼を言われた事がなく、さすがにびっくりしているようだ。

 そんな事とは知らないイリスは、それではと挨拶をしながら王城への道を歩いていった。


 残された兵士ふたりはイリスを遠くから眺めながら、徐々に遠ざかる少女の話をしていく。その内容はとても高評価で、"ネヴィア様のご友人"という事に納得していた。

 ご友人が来るからと上司から伺ってはいたのだが、どんな人物か想像もつかなかった為に、どんな人が来るか事前から話をしていたそうだ。


 そしてその人物を見て、全てを納得してしまうほどの器量好しの上、性格まで表情に表れているかのような笑顔と礼儀正しさで驚くも、王女の友人という言葉に納得してしまうような子であった。



 そんな少女は本当に楽しそうな様子で下の中庭を進んでいった。



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