表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この青く美しい空の下で  作者: しんた
第三章 小さな天使
61/543

聖域素材の"治療薬"


 3人はそのまま噴水広場を素通りし"森の泉"まで帰ってきた。


 カランカランと扉の鐘の鳴る音がして元気良くただいまとイリスが答え、レスティはすぐに店まで出てきてくれておかえりなさいと笑顔で言ってくれた。


 「2人ともイリスを護ってくれてありがとう」

 「あはは、気にしないで。あたしはあたしがしたい事をしただけだよ」

 「俺の事も気にしないで下さい。こうする事が俺の為でもありますから」


 そんな優しい言葉に心が温かくなるイリスはくすぐったく思いながらも嬉しそうに微笑んでいた。


 「それでルナル草は咲いてたかしら?」

 「うん! 少しだけ早かったみたいだけど、何本か成長したのが咲いてたよ」


 そう言ってイリスは採取したルナル草をレスティへ見せ、真面目な顔で鑑定をした。すぐさま笑顔に戻りこの品質なら問題ないわねと言ってくれて安心するイリスだった。

 それじゃあ早速作りましょうと調合部屋に向かっていく二人。ミレイとロットも見学がてら調合を覗かせてもらう事にして4人で部屋へ入っていく。


 ミレイもロットも調合する部屋と聞いて、初めてこの部屋を訪れたイリスと同じように薬臭いものを想像していたらしく、とても意外そうな表情を浮かべていた。



 「さて、イリス。ヘレル病治療薬の作り方を覚えているかしら」


 調合用テーブルの上にルナル草と泉の水を置いてレスティがイリスへ尋ね、そしてそれにイリスが返していく。ルナル草の加工の仕方や調合薬の作り方を説明し終え、レスティが頷きながら大丈夫そうねと笑顔で応えていった。


 「それじゃあイリス、ヘレル病治療薬を作ってみて」

 「え? 私が作ってもいいの?」

 「もちろんよ」


 目を細め答えてくれたその顔を見てイリスまで釣られて微笑んでしまっていた。できるなら私が作ってあげたいと思っていただけに、とても嬉しそうなイリスだった。


 胸に両手のこぶしをぐっとしてよしっと気合を入れたイリスは早速薬の調合へ入っていく。


 材料はルナル草1本と聖域の水300ミリリットラだ。まずは聖域の水を300ミリリットラに分けてお鍋に入れる。

 まずは下準備をする。薬に使う部分は茎の部分と花の部分だけだ。今回は茎から切り取ってあるが、根っこの部分も使わないらしい。

 そして葉の部分は薬効成分が強すぎて治療は出来るものの、身体がだるくなったり気持ちが悪くなったりするお薬になってしまうそうだ。当然これも使わない。

 茎の部分を細かく刻んでいき、小皿へ分けていき準備完了だ。花の部分はそのまま浮かべるように入れるのでそのままでいい。

 今回は使う材料がとても少ないので材料の下準備がとても楽だった。だがこれは治療薬なのだからと気合を入れなおし、イリスはとても丁寧に準備していく。


 聖域の水をひと煮立ちさせてから火から離し、ひと呼吸置いてから茎の部分を投入する。そのまま放置していると次第に色が出てくるから一旦火にかけぐつぐつさせる前にまた火から離す。

 少しだけ時間を空けて花を入れ、色が出てきたら完成だ。そのお鍋の液体を綺麗な布でこして中に入っている茎と花を取り除く。

 そのままボウルに入れた水で液体だけ取り除いた容器を冷やし、冷めたところで綺麗な空瓶に入れ替える。

 およそ50ミリリットラ入れて栓をすればヘレル病治療の完成だ。


 だがイリスは出来上がった瓶を見つめながら何かを考えているような表情をしていたことにレスティは気づく。

 また何かに気がついたのかしらと思い、イリスから聞いて来るのを待つことにしたレスティは、ふとミレイとロットが静かな事に意識がいってしまう。


 どうやらここまでの工程を見続けていたミレイとロットは目が点になっているようだった。どうやら素人目にはよくわからない部分が多かったようだ。

 初めて薬を作るところを見せてあげると、薬師を目指す子の誰もが大抵はこのような反応を示すのだが、イリスに限ってはそういった事が無かったため、少々その姿が懐かしく思えて微笑んでしまうレスティであった。

 そしてミレイとロットはわからないところをイリスへ質問していった。


 「ねぇ、イリス。お鍋から火を離すタイミングってどうやって計ってるの?」

 「俺も知りたい。それに材料を入れるタイミングも見ててわからなかったよ」

 「えっと……」


 イリスはそのことを説明しかけるが、なんと言って良いのやら悩んでしまい言葉に出ないようだった。こういったことは言葉で説明するのが難しいことだ。どのように説明すれば良いのかと悩んでいるイリスを察したレスティは二人に話していく。


 「そうなのよねぇ。こればかりは経験というくらいしか説明できないのよね。でもイリスは一度見ただけで理解しちゃってたから、きっと得意なお料理の技術が関係しているんじゃないかしらね」


 いやいや、お薬とお料理は違うでしょと半目になりながらもつっこむミレイであったが、どこか冷静なロットは納得できたようだった。

 その様子を見たミレイはあれで納得出来ちゃうんだという半分呆れた顔になっていた。


 製薬とはいえ、その技術は料理に通ずるものがあると言う薬師も多い。ただそれは一般家庭の技術であって、料理人から薬師に転職した例はレスティも聞いたことが無い。

 つまりは検証されているわけではない事なので一概には何とも言えないことではあるのだが、そうとしか説明できない子がいま目の前で微笑んでいる。


 最近イリスのことで驚くのも慣れてきた3人は、あえてここはもうイリスだから(・・・・・・)という魔法の言葉を作り上げつつあるようだ。要するに思考の放棄である。


 既にミレイとレスティは知っている。この子が規格外である事を。そしてロットも気づきつつある。その事実に。正直なところロットからすれば、盾の一件で予想はしていたことのようであった。


 この先どれほどこの子に驚かされる事になるのか、少し怖いものの楽しみではある3人は微笑むように可愛い少女を見つめていた。


 「さあ、これでお薬は完成ね。品質を調べてみたけれど高品質と出たわ。本当にすごいわイリス。おばあちゃんまたお鼻が高くなっちゃいそうだわ」


 えへへと笑う可愛い孫を誇らしげに褒めながら、レスティはヘレル病治療薬の服用方法を説明していった。このお薬は一度飲むだけである程度の毒を打ち消す効果がある。

 だが再発するとも限らないために、服用した翌月とその更に翌月に飲む必要があるとのことだ。


 まず一度目の効果は体内にある毒をほぼ除去する効果がある。これにより1週間ほどで視力がゆっくりと戻っていくようだ。翌月服用する効果は完全に毒を消し去る効果があり、最後の翌々月の服用で身体に毒の耐性をつけて再発させないようにする効果があるそうだ。

 これで服用した者のヘレル病対策が完全に取れるようになるそうだ。しっかりと3ヶ月分飲むことが出来れば、再発した例は確認されていないのだとか。


 それを聞いて安心した3人は早速アンジェリカに持って行こうと誰からともなく言い出し、それに全員が賛同していった。

 説明するのはイリスよりもレスティの方がいいと判断し、4人で向かうつもりだったのだがロットだけはそれを断った。

 その真意が理解できない3人はロットへ疑問を投げかけるが、納得してしまう言葉を彼は答えていく。


 「俺はこんな鎧を着ているからね、小さな子はびっくりすると思うんだ。それに初めて会うからね。だから俺はここで失礼させてもらうよ」

 「あはは、確かに驚いちゃうかもねー」

 「私はカッコイイと思うんですけどね」

 「うふふ、アンジェリカちゃんにはちょっと刺激的かもしれないわね」


 俺の事は気にしないで届けてあげてと笑顔で応えられ、それじゃあアンジェリカちゃんのところに言ってきますねとイリスが返していった。


 「当分ギルド依頼は受ける事はないと思うから、また何かあれば気軽に誘ってね。噴水広場か図書館かギルドにいると思うから」

 「はい! ありがとうございます! また何かあればぜひお願いしますね」

 「あはは、ロットもそうして貰えるとあたしも助かるよ」

 「私もロット君に護って貰えるならとっても安心だわ」


 そうしてロットはギルドの訓練場へ向かって行った。このまま訓練するのだとか。自己鍛錬を欠かさないこともロットの強さのひとつでもある。彼は冒険者のランクで満足など決してしない。以前の彼なら仕事終わりの食事でもとってのんびり過ごしてたであろうが、今現在ではそんな気は全く起きなかった。

 彼にはもう護るべき者が存在するからだ。ミレイばかりに任せるわけにはいかない。もっと強くなり自分もイリスを護らねばならない。そんな気持ちが彼を前に進ませていた。


 ロットを見つめるミレイにはその後姿が遠い存在に見えてしまった。彼に追いつくならそれ以上に努力しなければいけない。そして無理はしてはいけない。怪我をしてしまったら元も子もないからだ。ゆっくりと着実に前に進まねば届かない高みに彼はいる。


 だけど必ず追いついてみせる。そう心に誓うミレイであった。



 「それじゃあアンジェリカちゃんの所へいきましょうか」


 レスティが話し出し、それに二人も賛同していく。さすがにミレイの鎧と武器もここで外して脱いだようだ。あの子に妙な威圧感を与えないようにしなくてはいけない。


 一向はアンジェリカちゃんのところへ向かって行った。ここからだとギルド手前にある抜け道から行った方が近いのだとかで、それにイリスはついていく形で歩いていく。

 この道も初めてだなぁときらきら目を輝かせながら歩いていた様子を、二人は微笑みながら見つめているようだった。


 次第に大きな通りへ出て行く。ここはもうフィルベルグ東側の住宅街になっているようだ。そのまま狭い初めて来た道とは違う路地を3人は入っていく。

 こんなところから入ってもアンジェリカちゃんのおうちまで行けるのかと思いながらイリスは歩いていった。


 次第にあの開けた場所に辿り着きアンジェリカの家が見えてきた。今日はどうやら庭で遊んでいないようで家の方へ向かっていく3人。


 レスティは扉の前まで来ると扉にノックをして返事を待つ。しばらくすると、はーいと可愛らしい声が聞こえ、扉がゆっくりと開いていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ