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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十九章 誰もが笑って、幸せになれる世界を
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"ある冬の旅路にて"

 広い、とても広い草原を進む一台の馬車。

 がたごとと音を立てながら、ゆっくりと目的地へと向かう。


 穏やかな草原に魔物の姿はないが、たとえ見つけたとしても戦いとはならないだろうと、手綱を握る者は考える。


 時折軽く跳ねるように、馬車はひたすらに進む。

 貿易都市エークリオを出立して随分と経つ。


 そろそろだろうかと手綱を握る男性は話す。

 そうですねと真横に座る男性は答えた。


 十ミィルほど進んでいくと、遠くに大きな街が見えてきた。

 様々な感慨にふける馬車に乗る者達は、それぞれの想いを胸に抱きながら、徐々に近付いてくる王国を見つめていた。


 この街を守護する街門は開いたままのようだ。

 思えばこの周辺はとても穏やかで、魔物の脅威と言えば、森の奥にいるエーランドとホルス、ベアくらいなものだろう。

 たとえベアが数頭襲いかかろうとも、馬車に乗る者達であれば問題なく退けることができる。

 襲ってくれば(・・・・・・)、ではあるのだが。



 街門をくぐり、街を進む一行。

 馬車は厩舎ではなく、先にある場所まで向かうことを彼らは決めていた。

 多少進んだ場所で馬車を止め、彼らはその場に降りていく。


 辺りはすっかり冬支度を済ませている者達が、とても暖かそうな服を着て歩いていた。南に位置するこの国は他所に比べればそれほど寒さを感じないが、道行く人の格好に時間の流れを否応なく感じてしまう冒険者達だった。



 五人の冒険者の後に続いたのは、男性と女性がひとりずつ。

 長い耳を頭に乗せた美しい女性と、とても優しげな男性だった。

 ふたりは馬車を降りると、ここまで護衛してくれた冒険者達にお礼を言葉にした。


「皆さん、ここまで本当にありがとうございました」

「ここからは、私達ふたりで歩いていきます」


 笑顔で言葉にした二人に、男性冒険者は尋ねる。

 帰りはどうするのかと。


 どうやら護衛対象の二人は、しばらくこの国に滞在するつもりらしい。

 そのための準備もしているし、何よりも娘の傍に居たいのだと笑顔で答えた。

 長期滞在をするには、大きな国であるここでは都合がいい。

 仕事も見つけやすいし、かなりの安価で家を借りることもできる。

 大人ふたりが生きていくには問題ないだろうと判断する冒険者達だった。


 何かあれば連絡をと女性冒険者は答え、笑顔でお礼を言葉にした長い耳の男女は、その場で冒険者達と別れていった。

 後姿が見えなくなるまで二人を見送っていた冒険者達は、ある店に入っていく。

 形容し難い道具が並ぶ、世界でも類を見ない奇抜な商品を横目に、カウンターへとやって来た冒険者達。


 しばらくすると、店主と思われる女性がやって来たようだ。

 冒険者達の姿を見た店主は瞳を大きくしながらも、誰かを探すように視線を左右に動かしていた。


 そんな彼女に冒険者達は、とても大切そうに持っていたあるものと、宛名が違う二通の手紙を渡し、店主を凍りつかせた。

 強く震える両手を伸ばし、女性冒険者が持っていた人形を手に取った店主は、続けて受け取った手紙の中身を確認していった。


「……ぁ……ぁあ……」


 膝が崩れ、食い入るように読み進める彼女は、大粒の涙を零しながら泣き叫ぶように言葉にした。


「――アデルちゃん!! イリスちゃん!!」


 手紙を抱きしめながら、声をあげて慟哭した。

 言葉にならない冒険者達は、悲痛な面持ちで彼女を見つめ続けた。

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