"美しく、理不尽なこの世界で"
彼女は言った。
私は、私にできることをするだけですからと。
これは、私が成すべき、この世界でも私にしかできないことだとも言っていた。
そして彼女は笑顔で感謝を言葉にしていた。
支えてくれて、傍にいてくれてありがとうございますと。
皆さんがいて下さったから成し得たことで、想いを分かち合ったからこそ、この場に立つことができている、とも言っていた。
……本当にそうなのだろうか。
結局、自分達には何もできなかったのではないだろうか。
自分達はただ、彼女の傍にいることしかできなかったのではないだろうか。
そう思えてならないからこそ、彼女達は涙が止まらずにいるのではないだろうか。
ありとあらゆる方法を考えるも、そのどれもが彼女を悲しませる答えに繋がる。
共に行くことも傍にいることもできず、それを言葉にすることは、ただの我侭にしかならない。
ただ彼女を困らせるだけにしかならない。
いつかヴァンが話した理想と現実の差が、全く違った意味を持ちながら彼らに襲い掛かる。
あぁ、なんと理不尽なのだろうか、この世界は。
涙が止まらない彼らには、そう思えてならなかった。
彼女は言っていた。
この世界は辛く、厳しく、残酷で、無慈悲だと。
だからこそ変えたい、とも言葉にしていた。
今にして思えば、あの時にはもう、覚悟を決めていたようにも思える。
本当に今更になって思い知らされる。
自分自身が持つ考えの甘さと浅はかさを。
きっと彼女も、こんな気持ちだったのではないだろうか。
大切な姉を失い、自分に何ができたのかを考え続け、それでも出ない答えに手を伸ばしながらも毅然と立ち上がった。
それのなんと凄いことかと、今更ながらにシルヴィア達は思い知らされた。
自分達には、それを簡単に成せるほど強くはないのだと、改めて思い知らされた。
立ち上がることすらできないのではないだろうかという、とても深い悲しみの底に突き落とされてしまったような気持ちを感じる。
それでも彼女達は、行動を起こさねばならない。
彼女達は大切な人から手紙を託されてしまったのだから。
雲ひとつない晴天が広がる空の下に、尚も佇むシルヴィア達。
彼女のいない現実が、鉛のように足を重くしていた。
呆然と立ち竦みながら言葉すら出ずに、どうすればいいのかを考え続けるシルヴィア達がこの場を離れることができたのは、夕方となり、夜となり、朝日が昇った頃となった。