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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十九章 誰もが笑って、幸せになれる世界を
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"慈愛の光"

「――"魔力過剰発動(オーヴァ・ドライヴ)"!!」


 発言と同時に強い白銀の光で包み込まれた彼女は、両手でしっかりと持っていた物に想いを込めるように言葉を発していった。

 彼女が大切に持っていた五センルほどの宝玉は、硬質化した種に生命の息吹を吹き込み、高密度のマナを含んだ魔石の結晶体に融合させて創りあげたものだ。


 希望の種となる、未来へ繋ぐための宝玉。

 "浄化の種子(ピュリフィシード)"と名付けているイリスは、その種子にアルエナの(うた)をアデルの唄に乗せて(うた)っていく。

 "魔力限界領域(レッドライン)"を越えて発動されている凄まじい力が、イリスから抑えられることなく溢れ出し、徐々にコアを大きく包み込むほどのマナを発生させていった。



 "想いは力"になる。

 では、"言の葉(ワード)"とは、一体どのようなものなのか。

 それは、とても特別なものでありながら、極々ありふれた力となる。


 言の葉(ワード)とは、想いが込められた"言葉"に過ぎない。

 この力は、世界中の人々が知らず知らずのうちに使っていた、"想いの力"の直線状に存在する末端の力だ。


 誰かを、何かを想う気持ち。

 家族、友人、見知らぬ人、そして物でさえも。

 どんな存在でも想う心を向けた時、その力は発現している。

 それを感じ取ることができないほど微弱なものであることが殆どだが、中にはとても強い想いから、その力とは知らずに感じ取っていることがある。


 自分ではない誰かを想っている人から感じられる温かい気持ち。

 見知らぬ人に手を差し伸べ、助けようとしている者から感じ取れる優しい気持ち。

 楽しげに話をしている人を見て、自分も釣られて微笑んでしまう気持ち。


 その全てが"想い"を感じ取っていることを、世界中の者は知らずに過ごしている。


 そしてそれは、何も温かい気持ちに限ってのことではない。

 誰かを蔑み、疎み、妬み、羨み、嘆き、憤り。所謂悪意と呼ばれる負の感情だ。

 そういったものを向けられた人が感じる気持ちもまた、"想いの力"に他ならない。


 これらの感情は非常に強く、温かい想いよりも力を発現しやすい傾向がある。

 一般的に向ける感情であれば、十分にコアが吸収し、浄化することができるのだが、非常に強い感情となれば浄化されることなく溜まり続けてしまう。


 そうして生まれてしまうのが"魔王"。

 コアが吸収しきれずに、爆発するように負の感情を地上へと吐き出してしまう現象。

 何百年、何千年と溜まりに溜まったものが暴発したと考えられるが、それは詰まるところ、現在のコアではもう対処がしきれずにいるのだとイリスは判断した。


 たとえこのまま魔王を押さえ込んだとしても、何千年と経てば再び顕現するだろう。

 コアはもう、浄化するだけの能力を持っていない可能性が非常に高い。

 そうでなければ、魔王の顕現を二度も許すとは、イリスにはとても思えないからだ。


 であれば、コアを補助するものを、人の手で創り出すしかない。

 それを可能とする力はあるが、それにはまず、膨大なマナを発現させる必要がある。

 そのために"魔力限界領域(レッドライン)"を越えるのに必須となる魔法"魔力過剰発動(オーヴァ・ドライヴ)"と、石碑に埋め込まれている宝玉を使わせてもらう。

 更にはアルエナの想いが込められた詩に、"願いの力"を乗せながら歌っていたアデルの唄を合わせることで、爆発的なマナを生み出すことを可能とする。


 あくまでも理論上での話ではあったが、どうやらそれは間違いではなかったようだ。

 途轍もない力の奔流が自身から止め処なく溢れているのを感じながら、イリスはこれまでにないほどの想いを込めて"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"を、"想いと願いの力ウィシーズ・フィーリングス"として発動させていった。


「――世界改変魔法モディフィケーション・オブ・ザ・ワールド!!」


 "浄化の種子(ピュリフィシード)"を、空へと両手で掲げるようにしながら言葉にするイリス。

 エデルベルグ、アルリオン、ルンドブラード、そしてこの場所から南にある平原。

 世界四箇所の石碑から光の柱が立ち上り、世界に黄蘗色の波紋が広がっていく。

 その光景はまるで、上空で闇のマナを抑え込むかのような光だった。


 空へと向かった力は北の大陸へと集約し、イリスの手の中にある種子へと流れ込む。

 イリスの力と合わさりながら徐々にその姿を変えていく種子は、眩いばかりの白銀の光を放ちながら空へと向かっていった。

 魔王の闇を呑み込みながら立ち昇る白銀の柱は、やがて地上へと到達し、勢いを弱めることなく天を衝く。



 その様子を呆然と見つめる数名は、間近に出現した光の柱を目で追ってしまった。

 同時に何が起きているのかを理解できた彼女達は、その光景を見つめながら涙した。

 白銀の柱が何を意味するのかを理解してしまった彼女達は、ただの一言も言葉にすることができずに、小さく震えながら止まらぬ涙を流し続けた。


 立ち昇る美しい白銀の光。

 漆黒の闇を打ち払う慈愛の光。

 徐々に世界へと広がる、優しさに満ち溢れた温かな光。


 世界で一番近くでそれを見つめる五人は理解する。

 何よりも大切な人が、光に溶け込んでいくのを。


 まるで世界全体を清めていくかのような慈愛の光。

 まるでこの星の悪しき感情を全て浄化するかのような聖なる光。


 美しくて、温かくて、穏やかで。

 これ以上ないほどの優しさに満ち溢れた光に彼らは涙する。

 徐々に、だが確実に、大切な人の生命が失われていることに。

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