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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十九章 誰もが笑って、幸せになれる世界を
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"私の居場所"

 (コア)とは、天上に還っていく魂の"浄化"を行うために必要となるもの、という認識が私にはあった。

 地上で人生を終えた者の、所謂負の感情を浄化して穢れない魂に戻した後、もう一度この世界に生まれ出でるために天上の世界へ旅立っていく際に必要となる場所だと。


 それを行うのが女神様なのか、それともコアなのか。私には正確な所は分からない。

 先に天上の世界へと魂が向かい、星の中心に負の感情だけが向かうのか、それとも女神エリエスフィーナ様がお力をお貸し下さるのか。もしかしたら、天上の世界に昇っていく状態の中、コアが悪しき感情を取り込んでくれているのかもしれない。

 それすらも判断することは私には難しいし、それを理解することもないだろう。


 ただひとつ確かだと思えることは、眼前に存在するコアは、ただそれを成すためだけにあるのではなく、もっと特別な存在であることは間違いないと私には思えてならなかった。




 とても巨大な光の球体が、何もない空間に浮かんでいるようだ。

 雄大、という言葉が一番しっくりくるだろうか。

 どっしりと身構えているようで、とても繊細な輝きを放っている。


 どことなく巨大な魂にも見えてしまう目の前に存在する球体は、優しく光を放ち、その上部からは漆黒の闇をまるで吐き出すように出現させ続けていた。直径1リロメートラはあろうかという大きさを持つのがこの星の中心、"(コア)"なのだとイリスは確信する。


 凄まじく強い力を放ってはいるが、空へと噴き出し続ける闇のマナを避けるように集中してみると、とても美しいマナの流れを感じ取ることができた。

 純白とは少し違う白色をしたコアを見ていた彼女は、ある推察が頭を過ぎる。

 答えなどでないであろうその考えに、思わず頬を緩めてしまうイリスだった。


 それは流石に自分の勘違いだろうと思えてならなかった。

 コアがイリスの魂と、とても似通った波長を持つ、だなんて。



 尚も移動を続けているイリスに伸びてくる温かな白い光。

 彼女を優しく包み込むと、その場に留まらせる力となったようだ。

 それはさながら、太陽の光のような暖かさを感じる光に抱きしめられているようにも思えるものだと、イリスは感じていた。

 そんな温かくも優しい白光に包まれたイリスは、光に触れるように手を伸ばし、撫でるようにしながら言葉にしていった。


「……やっぱり、あなたが私をこの世界に導いた……ううん、そうじゃないよね。

 ……あなたが私を、この世界の住人のひとりとして、受け入れてくれたんだね」


 優しく微笑みながら言葉にした彼女は瞳を閉じて、これまでの冒険を振り返る。



 優しさに満ちた世界を越え、想いを新たにこの"エリルディール"へとやってきた。

 世界に降り立った初日に姉と出逢い、私を大切に想ってくれる祖母ができた。

 お仕事をしながら、気がつけば私の周りにはたくさんの人で溢れていた。

 とても可愛らしい小さな天使と出逢い、お友達のためにと魔物と対峙し、王国を相手取りながら、兄と友人のために教会で愛を叫んだ。


 天を衝いたと言われる咆哮を魔獣は放ち、討伐は成功されたものの、何よりも大切な姉を失い、自分自身の浅はかさと無力さを噛み締めた。

 自分に何が足りないのか、どうすれば良かったのかを考え、そのために力を付けた。


 世界へと出るために。姉の死因を知るために。

 もう二度と、誰にもこんな想いをさせないために。

 そして、大切なひととの約束を叶えるために。


 その過程でレティシア様に出逢い、大きな目標も決められた。

 石碑を周ることが、自分の求める答えに繋がる気がした。

 大切な人達は、私の大切な仲間となり、共に旅をしてくれると言ってくれた。


 新しい仲間も増え、この世界に降り立って二つ目の街で、フィルベルグ王家が何をしているのか、その一部を知ることができた。

 全く想定もしていなかった料理での勝負には驚いたけれど、それでもあの料理の味は、今も忘れられないほど美味しかったのをはっきりと憶えている。


 でも、私はその日、自分の居場所がどこにあるのか、分からなくなった。

 私が生まれた世界ではないこの場所に、私はいていいのだろうかと考えた。

 その答えとなるものは結局のところ見つからず、先に進むことしかできなかった。

 そうしていれば、いつかはきっと、その理由が分かるかもしれないと思ったからだ。


 次に辿り着いた街では、その先にある未来を託し、その大切なはじまりを、想いを同じくしてくれる多くの人達とそれを成した。子供達の為に、あの街の未来のために。


 二つ目の石碑の中で私は、未来を創る為に行動を起こした彼女達の想いを知ることとなる。八百年にも渡って優しい平穏を創りあげるという偉業を成したことを知った。

 眷属の脅威を知り、自分が成すべきもののためにと行動を起こした彼女達の覚悟も知ることができた。

 

 知識だけでも、技術だけでもなることができない薬師として行動をしながら、人に笑顔になってもらえることの大切さを改めて学ぶことができた。


 新たに大切な仲間と出逢い、困難を乗り越えようと前に進んだ。

 あの時は本当に危なかったけれど、自分の弱さと甘さを痛感させられた。


 一花の街で美しい歌姫と出逢い、とても大切な想いと、薬師として何が一番大切なのかを学ばせてもらえた。

 命を救うことだけが薬師のするべきことではなく、薬を必要としている人のために何ができるのかを真剣に考え、笑顔でいてもらえることの大切さを知ることができた。


 三つ目の石碑で、魔物と呼ばれる存在がどういったものであるのかを知った私は、その命を奪うことでしか救えないことに嘆きながらも、あの子を見送った。

 どうか彼の魂が、迷うことなく女神様の下へと辿り着けますようにと願いを込めて。

 天上へと向かった魂がエリエスフィーナ様とお逢いできたのかは分からないけれど、私は信じていた。あの子はきっと女神様と逢い、その魂を導いてもらえたのだと。


 そして私はあの街で、姉のご両親と出逢った。

 あの時はじめて、姉の死を受け入れられたような気がする。

 これまではずっと、ただただ前へとひたすらに進み続けてきたけれど、ようやく心を落ち着かせることができたような、そんな気がした。

 語ることのできない歴史を語れない語り部と出逢い、そうすることで世界を安寧に導こうとしていた人達の想いを知った。


 野に解き放たれてしまえば、世界を破滅させ得る問題の存在と遭遇し、取り乱しながらも何とか抑えることができた。

 魔石が持つ恐ろしい可能性に驚愕したけれど、これを使うことであること(・・・・)ができるようになると理解し、私は理論を構築しはじめた。


 人の持つ可能性は、世界を破滅させてしまうことにも繋がるのだと知った。

 でも同時に、私はそれ以上に、人の可能性を信じたいと思った。


 この世界にいる人は、善意に溢れていたから。

 この世界に生きる人は、誰もが悪意に満ちているわけではないのだから。


 世界に溢れるのは悪意ではない。

 それよりも遙かに強い善意で世界は溢れている。


 それをこの旅で知ることができた。


 だから私は、その可能性を信じることを決めた。

 そのためにレティシア様達もお力を貸してくださる。


 レティシア様も、アルエナ様も、メルン様も。

 そのお力をお貸しくださるのだから、必ず成功する。



「ありがとう。私を、あなたの世界に受け入れてくれて。

 ここが、あなたの世界"エリルディール"が、私の居場所。

 だから私は、ここまでやってきたよ。あなたを救うために」


 イリスは微笑みながらコアへと話しかける。

 彼女の言葉にコアが応えることはなかったが、その気持ちは伝わってきたような気がした。


 そう思えたのは、優しい光に包まれているからだろうか。

 それとも魂に響く言葉を、知らず知らずのうちに受け取っているからなのだろうか。


 そんなことを考えながら、イリスはくすりと小さく笑いながらコアを見据え、覇気のある言葉を発した。


「――さあ! 唄おう! 私にできる、私だけの最高の唄を!」

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