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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十九章 誰もが笑って、幸せになれる世界を
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"成すべきこと"

 漆黒の闇を真下に進みながら、この星の中心部へと向かうイリス。


 "さよなら"ではなく、"いってきます"と前向きな言葉が自然と出てしまったことに自分らしさを感じてしまう彼女は、思わずくすりと笑ってしまった。


 噴き出す黒いマナの凄まじい奔流に押し戻されることなく、イリスは降りていく。

 ゆっくりと、だが少しずつ確実に、世界の中心へと向かって。

 "想いと願いの力ウィシーズ・フィーリングス"で強力に身体を保護しているため、黒いマナの影響は全くないようだ。


 だが、そうでなければ、もうどうしようもなかった。

 この強い力に負けるようでは、話にすらならない。


 全ての想いは(つい)え、残るものは最悪の結末。

 イリスがこの世界を消失させる怪物へと変貌し、女神がそれを鎮める。

 言葉にすれば単純なものだが、当然それだけで済むわけがない。済むはずがない。

 世界は消失の危機に陥り、女神エリエスフィーナの顕現と同時に消滅してしまう可能性も高い。それほどまでに切羽詰った状況であることは、何百年前から変わらない。

 下手をすれば何千年も、限界点の狭間で(コア)が耐え続けてくれていたのかもしれない。


 それが意味するところはひとつだろう。

 魔王が顕現したことが何よりの証拠だろう。


 この世界は、非常に危険な状態であり続けていた。

 何千年も溜めに溜めたものが吸収されるどころかそれが噴き出すことなど、そもそも現実的にありえないことだとイリスには思えてならなかった。


 コアはもう限界だったのだと、闇を切り裂くように進むイリスは考える。

 このままではそう遠くないうちどころか、明日にでもコアがその意味をなさないかもしれない。

 本来の役目を果たせないどころか、人が無意識のうちに作り出してしまった"過ぎた負の感情"の一切を、コアは浄化できなくなってしまうかもしれない。


 それが導き出してしまう未来は、文字通りの最悪と呼べるものとなる。

 危険種以上の存在が世界に溢れ、そう遠くないうちに人々に襲いかかるだろう。

 濃密なマナに触れた魔物は凶種に、人は眷属に変貌を遂げて全てを滅ぼすだろう。


 その最悪の事態を収束させられるであろう唯一の存在である、女神エリエスフィーナが対処できるかと言えば、それは否定をせざるを得ないだろう。

 そんなことができていれば、魔王の顕現などそもそも発生していないのだから。


 それでは石版の意味もなくなる。

 それではエリエスフィーナが嘆いていたことが、線で繋がらなくなってしまう。

 最悪だと言えてしまうこの推察が当たっているようにしか、今のイリスにはもう思えなくなっている。


 別世界の女神が大地に顕現すれば数々の不具合を出すだろうことは、生まれた世界を管理していた女神のひと柱であるレテュレジウェリルが言葉にしていた。

『別世界の神が力を極限まで抑えた状態で地上に降りた場合でも、その世界に多大な影響を与えてしまう』と。


 そんな不安定な世界に、どうしてイリスを導いたのだろうか。

 そんな世界に魂を送り出すことしかできなかったのではないかと、彼女には思えた。


 この世界を管理する女神エリエスフィーナでさえも、魔王が顕現する正確な時間を計れないと石版に刻んでいた。

 もしそれを知っていたのだとすれば、たとえ予測であっても石版に記載するはずだ。


 そして別世界の女神であるレテュレジウェリルがこの事態を予測できなかったとしても、それは仕方のないことだと思えてならない。

 世界を管理している女神が分からないのだから、それを知る方法も時間もなかったのではないかと考えるイリスだった。

 死が目前に差し迫る中、転生先と思われる魂の定着場所を見つけられたことそのものが、本来はありえないほどのとても凄いことなのではないだろうか。


 この推察が正しいのであれば、導き出される結論はひとつしか思い当たらない。

 あくまでも可能性に過ぎないものではあるが、それが答えだと思えてならなかった。

 イリスの魂が、この世界と非常に良く定着した可能性が高い、という答えに。



 別世界に魂が定着しない理由も、正直なところひとつしか考え付かない。

 魂と世界に繋がりはなく、どんな世界にでも旅立つことができるのであれば、元の世界から離れる必要などなかったはずだ。

 そうせざるを得ない理由があったと考えるのが自然だろう。


 女神レテュレジウェリルは、こうも話していた。

『この方法で魂を転移させる事が出来れば、記憶は勿論、イリスさんの身体をほぼ同じ姿で作り変え、別の世界に転移させる事が出来ます』と。


 彼女は、させる事が出来れば(・・・・・・・・・)と言葉にした。

 つまり本来は、魂を別の世界に送り出すことそのものがあり得ないということだ。

 強引とも言える方法でしかイリスを救うことができなかった、と考えるのが妥当なのだろうと、今更ながらその答えに辿り着いた。


 "魂が消滅するということは個の消滅と同義"なのだから、生まれ変わることもなく、ただ無に帰すだけを良しと思わなかったあの世界の神々は、必死の想いでイリスを送り出せる世界を探してくださったのだろう。

 魂を別世界に送ることなど初めてであろう異例中の異例となる事態の中、自分のために動いて下さったことに、本当に今更ながら感謝をするイリスだった。



 だが何故、イリスがこの世界"エリルディール"に受け入れられたのか。

 本来魂を別世界に送るなどできないと思える異例を、どうやって可能としたのか。


 恐らくはその理由も、女神エリエスフィーナではなくコアが関係しているのだろう。

 いや、コアはイリスに助けを求め、手を差し伸べてきたのだ。


 彼女にこの世界を救ってもらうために。


 その力をイリスは有している。

 "願いの力"という、神にも届き得ると言えるほどの凄まじい力を。

 願えば叶う(・・・・・)という途轍もない力であるこの能力は、"想いの力"などとはまるで違う。

 これは、人を超える力となるのは間違いない。

 これを持つイリスをコアは、いや、"エリルディール"は待っていたのだろう。


 だからこそイリスの言葉に反応したかのように、漆黒の柱を放出した。

 逆に言えば、今のイリスであれば、それを解決させ得る力があると判断したのかもしれない。


 これはイリスにしかできないことで、イリスが成すべきこと。

 それも間違いではないと改めて感じる彼女は、おぞましい闇の感情に眉を顰めることなく進んでいった。

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