"良く晴れた朝"に
冬の到来を告げる寒々しくも清々しい朝の風を、誰もが心地良く感じていた。
良く晴れた空は、まるで生きる者に活力を与えるようで、どこまでも透き通るかのような空の下を歩く人々は、笑顔で言葉を交わす。
ニンジン、長ネギ、白菜、レタス、ほうれん草。市場に並ぶ朝採りの瑞々しい秋野菜が人を集め、活気に溢れた街をとても威勢のいい声が高らかに包み込む。
その日もいつもと変わらない、とても穏やかな日だった。
リシルアも、アルリオンも、エークリオも、そしてフィルベルグも。
ノルン、エルマ、ニノン、ツィード、エグランダ、カリサ、レオノル、アルバ、シグル、エーべ、セルナ。大小あれど、朝となる時間帯はどこも賑わいを見せる。
今日の予定を話す冒険者、のんびりと朝食を取る親子、野菜を見ながら何を作ろうかと考える主婦、教会へ礼拝に来た者、それを迎える神父、鍛錬に励む兵士、開店準備をする店主、元気に走る子供達。
その日もいつもと変わらない、極々平凡な一日のはじまりとなる筈だった。
だがその日は、いつもとは明らかに違っていた。
突如激しく揺れる地面に足を取られる人々。
これまで体験したことがないのは勿論、聞いたことすらない激震に戦慄する。
状況把握もできず、ただただ恐怖する人々。
ある者はその場にへたり込みながら呆然とし、ある者は頭を抱えながら泣き叫ぶ。
瞬間、稲妻のように、全身を駆け巡る悪寒。
人々は一斉にある方角へと視線を向ける。
そう行動したのは、本能が成せる技なのか。
それとも魂に刻まれた負の記憶か。
空に昇る漆黒の柱に、誰もがその意味を理解する。
そのあまりにもおぞましい負のマナを感じ取り、誰もが予兆する。
世界の破滅を。
闇の柱は徐々に空を侵蝕しながら広がり続け、まるで全てを喰らい尽くすように世界を覆っていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
全てを飲み込もうと、人々へと向けて襲い掛かるように近付いてくる。
泣き叫ぶ者も、戸惑い混乱する者も、等しく立ち昇る闇を瞬きせずに見つめる。
大人も子供も老人も全て、等しく空を侵食する闇を震えながら見つめ続ける。
「…………"魔王"だ……」
ある街にいる男性が震えながらぽつりと呟く。
そう言葉にしたのは、本能が成せる技なのか。
それとも魂に刻まれた忌まわしき記憶か。
天を襲う破滅の柱に、誰もが手の届く先の未来を確信する。
世界の破滅を――。