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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十九章 誰もが笑って、幸せになれる世界を
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"現実的な言葉"

 あれから一日半が過ぎ、最後の野営地で休息を取っていたイリス達。

 ここから先はもう奈落しか存在せず、その先へ行く方法は八百年前から現在に至るまで判明していないらしい。

 それを納得してしまうほどの地形が、あと数百メートラといった先に広がっている。


 その光景を魔法の効果で知ってしまった半日ほど前、一同はその場に立ち止まり、頭では理解できている大穴とも呼べないほどの凄まじい場所に圧倒されていた。

 ロットが聞いたという話はどうやら本当のことのようで、そしてメルンが言葉にしたように、これはとても人がどうこうできるようなものではないのがよく理解できた。

 明らかに人ならざるものが関わらなければ、こうはならないだろうと断言できてしまう場所に、思わず息を呑むシルヴィア達だった。


 "真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"で強化された"周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"の効果であっても、そこと思われる場所の判断は全くできず、一体どこまで空洞となっているのかも分からない彼女達だった。


 だが、大凡の推察はできるイリスは話した。

 恐らくは星の中心部まで空洞になっているはずだと。


 太古とも思える文献どころか言い伝えすらもない遙か昔、女神エリエスフィーナは星の中心部にあるとイリスやメルン達が推察している(コア)から吸収しきれずに溢れ出した黒いマナを抑えるために神の力を発現させた。

 それが今現在も魔法の効果でそれを確認できる、"奈落"と呼ばれた場所となる。


 "周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"の効果は凡そ徒歩で一日分。

 これは発現者を中心として広がる円形の効果範囲を持つ。

 つまりは前後だけでなく、上空や地下も把握できる魔法となっている。

 現在の位置は奈落まで凡そ九百メートラ。今から向かうこともできるが、夜になってしまったために安全を考慮して一泊することを決めたイリス達だった。


 幸運なことに、この一帯にも魔物が存在していないように思えた。

 それも恐らくはマナがあまり存在しない所であるが故に、魔物自体が存在していないのかもとも思えてしまうとイリスは考える。


 焚き火を囲いながら食事をしていると、妙にそわそわとした様子のシルヴィアに、ネヴィアは笑顔で話した。


「お気持ちは分からなくはないのですが、そわそわし過ぎですよ、姉様」

「魔法の効果ではっきりと知覚しているもどかしさを感じてしまうのです」

「あー、分かるよ、その気持ち。見えてるのに手が届かない感じでしょ?」


 同じ感覚を感じていたファルの問いに、シルヴィアは肯定する。

 とはいえ、明日出立してすぐに辿り着けるだろう位置にまで来てしまっているので、言いようのないもやもやとした感覚がシルヴィアを襲っているようだ。


 そんな彼女の気持ちも分からなくはない一同。

 これまでの旅で随分と想定外の場所を通ってきたが、やはり奈落とは全く異質なものだと思い知らされていた。


 そう思える理由のひとつが、イリスの魔法により既に判明している。

 奈落と地上を隔てる大地がほぼ円状に削り取られている点だ。

 こんなこと人には絶対にできないと言える巨大さ。

 それもどうやら一度だけ力を発現させたことによる影響だと、イリスは推察する。


 加減ができなかったと石版に残した彼女の言葉から察すると、かなりの力を込めて放ったと推察できるが、これと同じだけの力を発動できなければ、"魔王の顕現"は止めることなどできないのだろうとイリスは感じていた。


 レティシア達は奈落の巨大さを知っていたはず。

 それでも不可能だと言葉にしなかったのは、理論上はそれだけの力を人でも発動させられると結論付けたのだろう。

 所謂合成魔法であれば、人でも体現できてしまうかもしれない。

 尤もそれには相当の人数と、かなりの力の発動が必要となる。

 理論上でも厳しい合成魔法では、まだまだ研究しなければ実現は不可能なのだが。


 そんなことを考えていたイリスの耳に、仲間達の楽しそうな話が聞こえてきた。

 少々考え込んでしまっていたが、どうやらそれに気付かれることがなかったようだ。


「星の中心にはコアがあるのですわよね? では、その先(・・・)には何があるのかしら」


 不思議なことを言葉にする姉に、首を傾げてしまうネヴィア。

 コアの先には、抉られていない大地となっているのではとネヴィアは答えた。

 そんな現実的な言葉を話す彼女に、ファルとシルヴィアは瞳をきゅっと閉じながら返した。


「それじゃ夢がないよネヴィアっ」

「そうですわよっ」


 そう言葉にしたふたりは、とても楽しそうな笑顔で答えていった。


「あたしはきっと、別の世界が広がってるんじゃないかなって思えるんだっ」

「あら、全く別の世界ですの? それとも地底に存在する世界ですの?」

「お、いいね、地下王国かー。なんだかどきどきしてきたっ」


 盛り上がるふたりの話を真面目に聞いていたネヴィア。

 まるで小説を読み聞かせられている気持ちになる彼女は、とても興味深く食い入るようにシルヴィアとファルの話に耳を傾けていた。

 そんなふたりの話を何とも言えない表情で見つめる男性達は、何と答えていいのやらと思いながらも話した。


「まぁ、地下王国があるのかは俺には分からないが、興味は尽きないな。

 ……俺としては、ネヴィアの考えが一番しっくり来るんだが……」

「それじゃあ面白くないよっ」

「それでは面白くないですわっ」


 同時にヴァンへと答えられてしまい、戸惑いながらも小さく『むぅ』と言葉にした。

 そんなやり取りを冷静に聞いていたロットは、イリスへと尋ねた。


「もしかしたら、イリスなら何か知っているかい?」

「え……と……。何と言いますか……」


 ロットの問いに思わず目を逸らしてしまうイリス。

 急に話を振られるとは思っていなかったようで、少々戸惑ってしまったようだ。


「……おふたりの夢を壊して申し訳ありませんが、星は四角い大地となっていて、地上からコアへと抜けて更にその先へと行くと、何も存在しない虚無の空間に出てしまうと伺ったことがあります。

 それは"世界の果て"と呼ばれた東西南北の突き当たりにも言えるそうですが、どれほどの大きさなのかは世界をお創りになられた神様がお決めになるのだとか」


 実際に球体で創るよりも世界を平らに創造する方が遙かに労力なく創ることができて、世界の維持も非常に楽になるらしいと彼女は話した。


 イリスの話に目を白黒としてしまうシルヴィアとファル。

 どうやらその言葉は残りの三人にも中々に衝撃的だったようで、目を丸くしていた。

 そんな仲間達にイリスは話を続けた。


「私の生まれた世界は、ある世界をモチーフに創られたそうで、その世界は球体をしているのだそうですよ。つまりは地下へ地下へと掘り進めて行けば、理論上は反対の地表へと出ることができるのだとか。

 それでも人が越えられるような場所ではないそうなので、現実的にはとても難しいらしいのですが」


 イリスの生まれた世界"リヒュジエール"も、四角い形をしているそうだ。

 球体で世界を創ると管理が非常に難しくなるらしく、とても十三柱では管理できないとあのひとは笑いながら話していたとイリスは語る。


「実際に放任主義の神様が見守られている世界では、たったひとりで世界を創るのが神様の間では普通のことなのだとか。

 "リヒュジエール"や"エリルディール"にも反映されている基となった世界を管理されている神様は、完全な放任主義のお方だそうで、世界にどんなことが起きてもお手をお貸し下さらないのだと伺ったことがあります。

 何でもその世界では、神様が多数存在すると人々から言われているそうですが、そのどれもが偶像で、創造神とは全く違う、人が作った神様なのだそうですよ」


 何とも凄過ぎる話に驚愕を通り越して、感情すら思うように出てこない仲間達。

 天地開闢(かいびゃく)とも言える話や別世界の神の話など、普通に暮らしている人には決して知ることはできない話となるだろう。寧ろ、そんな話を街中でしてしまえば、何を言っているんだといった疑問の表情を向けられることは間違いない。

 この世界は、アルウェナという存在しない女神によって護られていると信じられている。それこそがレティシアやアルルの望んだ未来ではあるのだが、世界の為にと行動を取った本物の女神エリエスフィーナが言い伝えられていないことに、悲しみが溢れてしまうイリスだった。


 とても貴重な話を聞いているのに、どこか絵空事に思えてしまう仲間達には、あまりに壮大過ぎてとても理解が追いつかないといった表情を浮かべている。

 そう簡単に『そうなのか』と言葉にできる方がどうかとも思えるシルヴィア達だったが、そういった話を寝物語として聞いていたイリスにどこか羨ましさを感じていた。


 決して普通の人では知ることのできない話。

 いや、イリスでなければ、幼い頃に聴いたものを覚えているかは分からない。

 それだけの記憶力が昔からあるイリスだからこそ、こうやって今も覚えているのかもしれないと何となく思いながら、妙な説得力に納得するシルヴィア達だった。

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