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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十八章 役目は達せられたと
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"役目は達せられたと"

「……使う、ですか?」


 首を傾げるイリスにメルンの真意は伝わっていない。

 知恵を借りるという意味だろうかと考えているようだ。

 そんな疑問符の抜けない彼女にメルンは話した。


「アタシ達の石碑を、イリスのために使って欲しい」

「……石碑を、私のために?」


 そう尋ね返したイリスは、ようやく彼女の言葉にした意味を理解する。

 彼女の驚愕した表情にメルンは、本当に生きている時に逢いたかったよと、とても優しい眼差しと声色でありながらもどこか寂しげに話した。

 そんな彼女にレティシアは続く。


「この石碑は、イリスさんが作ったという宝玉と同じ物が内部に埋め込まれています。

 文字のように刻んである溝のようなものは、あくまでも何かしらの意図を後世に残したのだろうと思わせるためのもの。

 しっかりとした文章で書いてしまえば、そこで存在意義を終えてしまいますが、こうしておけば必ず後世へと大切に伝えてくれると確信していました」


 元々あの石碑は、それ自体に意味があるのではなく、内部にある宝玉さえ残っていれば、適格者をこの精神世界とも言い換えられるような場所へと一時的に入ることができるように創ったものだとレティシアは話した。

 外見はなるべく柔らかい造りにしておけば、逆に大切に扱って貰えると彼女は考えたが、その内部に含まれた宝玉は全くの別物だと彼女は話す。

 

 以前イリスも試しで結晶化させた白緑の宝玉。

 原理は同じものだが、レティシアは最高の結晶体を世界にある石碑に埋め込んであるらしく、彼女の限界ぎりぎりの力を込めてある"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"で作られた宝玉が、壊されることは絶対にないと彼女は教えてくれた。

 そしてそれはある条件を満たすと、魔石と同じように使えるのだと話した。


「この石碑は、世界にあるそれらを統括しています。

 元々は他の石碑に埋め込んだ宝玉が暴発しないように安定させる役割を持ちますが、これを媒介にすることでそれぞれの石碑を力として発現させることもできるはずです。

 石碑の情報についても先ほどの知識に含ませてありますので、イリスさんであればそれを引き出すことができるでしょう」


 それは、かつての英雄達が放った力と同じような効果を持つと彼女は言う。

 点在した石碑の場所と数を考えれば、それほど大きな効果はみられないだろう。

 しかし、"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"を限界点の手前まで発現させた宝玉が四箇所も存在するのであれば、かなりの効果を見せるはずだとレティシアは断言した。

 それだけの強大な力を込めてある、文字通りの魔石となっている宝玉であれば、イリスの成そうとしていることの助けくらいにはなるはずだと彼女は続けた。


 だが、その意味を理解しているイリスは戸惑ってしまう。

 そんな彼女にアルエナはとても優しい表情で答えた。


「私達にもイリスさんのお手伝いをさせて下さい。

 ずっと考えていました。私にもできることを。女神を僭称することしかできなかった私は、石碑の中でも私が体験した歴史を語ることくらいしかできませんでした。

 世界を救うだなんて、こんなにも素晴らしいことのお手伝いができることに、私は心から誇らしく思います。

 どうか、私達にもイリスさんのお力になるべく、ご協力をさせて下さいませんか?」


 まるで先ほどのイリス達とは、真逆になってしまったようにも思える中、イリスが疑問に思っているだろうことをレティシアとメルンは話していった。


「これでいいのです。

 世界は安定し、争いのない平和な世界へと変わりつつあります。

 ならばもう、この石碑の役目は達せられたと、私達には思えます」

「アタシ達にもできることをするだけだ。

 それにはイリスの協力が必要不可欠にはなるが。

 これは、何もできないアタシ達ができる唯一の方法なんだ。

 なら、アタシ達にもイリスの手助けをさせて欲しい。

 この世界のためではなく、"人の可能性"を信じるイリスのために」


 三人の温かい言葉に、イリスの頬を一滴の涙が伝う。

 彼女達は強い意志の上で言葉にしている。

 ならばもうイリスには、それを反論する資格などない。

 これは三人が出した、覚悟の答えなのだから。




 イリス達は、彼女の考えについて議論していくも、ほぼ完成された案と理論に唸るばかりのレティシアとメルンだった。


「こうも短期間でこれだけのことを練られると、流石のレティシアも形無しだな」

「確かにそうね。まさかこれほどまでに研究者気質だとは思っていませんでした」

「あら、私はレティに似ていると思っていたわ。私には分からない僅かな情報でレティの考えに至っていましたし、考え込むイリスさんの姿は貴女にそっくりだったわよ」

「イリスの性格はアルエナ寄りだよ。……まぁ、強さで言ったらお前よりもあったが」

「どうせ私は、へぼ自由冒険者(フリーランス)ですよ」


 拗ねたようにそっぽを向くアルエナに笑い合う四人の楽しげな声が、穏やかな光の世界に優しく響いた。

 それはとても嬉しそうな声色で、それはとても幸せそうな表情で。

 彼女達もその時がもうすぐ訪れることに、どこか寂しさを感じているのだろう。

 だからこそ楽しげに、何よりも幸せそうに、話に花が咲いていた。


 レティシアの話、アルエナの話、メルンの話。

 エデルベルグのこと、フィルベルグのこと、アルリオンのこと、リシルアのこと、彼女達の大切な仲間のこと、これまでの旅でイリスが体験してきたことなど。

 ありとあらゆる話をお茶をいただきながら、時にはお菓子を摘みながら話していき、とても楽しくも幸せな時間を過ごすイリス達だった。


 理論も整った今、イリスが最終調整を石碑の外でするだけとなる。

 自分だけではとてもこうはならなかったと、イリスは考える。

 彼女達がいてくれたお蔭で完成させられた。


 レティシアから知識の欠片を託されたことが、理論を確立させるために必要だったと思っていたイリスだったが、それは違ったようだ。

 彼女達に逢うことそのものが、この理論を完成させるのに必須だった。

 彼女達のうち誰が欠けても、世界を救うことはできなかっただろう。


 これも思し召しなのだろう。

 きっと彼女達とは出逢うべくして出逢い、力を手にし、イリスは今に至るのだろう。

 女神エリエスフィーナではない別の存在の意思によって、彼女はこの美しい空と大地の世界"エリルディール"に招かれた。


 まるでイリスに、この世界を救って欲しいと手を差し伸べるように。




   *  *   




 楽しいお茶会のような話も終わり、そろそろかとメルンは言葉にする。

 席を立つイリス達を確認して、レティシアはティーセットやお茶菓子が載ったテーブルと椅子を消していった。

 それぞれが覚悟の顔になっていく中、イリスはとても優しく微笑みながら話した。


「レティシア様。フェルディナン様から、大切なお言葉をお預かりしています」


 イリスの言葉に目を丸くするメルンとアルエナはレティシアへと視線を向けるも、彼女は軽い驚きの表情のまま凍り付いていた。

 思いも寄らなかったことに、イリスが何を言っているのか理解ができなかったレティシアは、尚も固まったままで彼女の言葉が何を意味するのかを考えているようだ。


 そんな彼女に、とても珍しいものを見るような視線を向けるアルエナとメルン。

 レティシアがこれほどまでに思考が停止している姿を見るのは初めてで、とても貴重なものを見られているような気持ちにさせられているようだ。


 とても大切な想いを伝えるため、イリスはレティシアがいつも通りに戻るのを静かに待っていった。

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