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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第一章 優しさに満ちたその世界で
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"優しい"からこそ


「ですが問題が出て来ましたの。いえ、不安要素と言った方が正しいでしょうか」

「ふむ。イリスがもう一度、その力を体現させた場合の事だね」


 リヒュリジエルは顎に手をあて、考えるように言葉を挟む。

 ポワルから返って来たハンカチは、異空間に放り込んだようだ。


「ええ。人の身でもう一度あれ程強い想いを籠めて力を行使すれば、次は助からないですわね。(むし)ろその力に一度耐えただけで、有り得ないほどの奇跡と言えるでしょう。

 "願いを力"にする事も、"想いを力"にする事も、ある世界の大賢者や勇者などと呼ばれる存在が扱ったりする力ですので、人でも体現する事自体は可能でしょうが、それでも心の未成熟なあの年齢で使うにはとても危険な行為です。

 まして強大な力を二つも同時に使うなど、(もっ)ての(ほか)ですわ。

 ……早急に封印するべきかと」


 イリスはその力を使ったという自覚はない。力を持っているとも思っていない。

 ならば封印しておくのが、最も正しい最良の判断と言えるだろう。

 その力は、あまりにも並の人間には扱いきれぬほど強大なものだ。

 自身の崩壊すら招きかねない力を持つこと自体、とても危険な事だ。

 片方の力だけであっても、使い方を誤ればとても悲しい事になるだろう。


 イリスには持っているという自覚もないのだから、いつその力が発動するのかもわからない。そんな不安要素を持たせたまま異世界に送る事など、この場にいる誰もが望まない事だ。

 あの子には幸せになって貰いたいと一同が思う中、ポワルは大丈夫と口にした。


 だが、その言葉を軽々と容認する事は出来ない。

 もし何かあれば、かなりの確立で不幸な事に繋がるからだ。

 そしてその時、ここにいる神々は誰一人としてそこに居る事が出来ない。

 もっと慎重に考えるべき事だと思う一同は、口を(つぐ)んでしまう。


 不安に包まれた室内に、ポワルの声が皆を安心させるように響いていった。


「大丈夫だよ。イリスちゃんなら、きっと使いこなせるようになるよ。あの子は優しいから」


 笑顔で語るポワルに、ジルフォルドグルデが言葉を返していく。

 目つきがとても鋭くきつい顔立ちに、声も低く威圧的な顔で、とても神とは思えないのだが……。


「……優しいからこそ、危険なのではないか?」


 そうだ。あの子は優しい。

 だからこそ、同じような事があれば、再び力を使ってしまうのではないだろうか。

 使い方を誤れば自身の崩壊を招く様な、そんな強大な力を持たせたままでいない方が良いのではと思う事は、とても自然な事だろう。


 神々の想いとは裏腹にポワルは信じていた。イリスがその力を正しく使ってくれる事を。続けて『正しく使ってくれるし、あの子は闇雲に使ったりもしないから大丈夫だよ』と話していき、ポワルがそこまで言うのならばと、一同は次第に納得していった。



 暫く間が空き、赤いショートヘアで目つきが鋭い女神が話しかける。

 見た目18歳前後で目つきは悪く見えるが、とても美しく綺麗な声をしていた。

 ポワルのいる街から北に位置する街を守護する女神、ヴェリルジルディエルだ。


「それで、どうする?」

「どうするも何も、決まっているわ」


 今後の話をしていこうとするが、ポワルはそれに即答する。

 普段の穏やかな表情は見る影もなく鋭くなり、淡々とした言葉を発しながら今後の方針を皆に伝え、同意を求めていった。


「我等の世界の大切な子。それも"祝福された子"に手をあげ、死亡するに至らしめたその罪は計り知れぬ程重く、万死にすら値しません。よって全戦力を投入しこれを殲滅、敵の"完全消滅"を以って処します。異議のある方は発言をお願いします」


 感情を押し殺すも透き通った美しい声、その中に確実に含まれる激しい怒り。

 その方針に他の神々は異論などを唱える筈がない。何故なら――。


「異議などある筈がない。我等の子に手を出したのだ」


 途轍もなく威圧的な顔でジルフォルドグルデは語る。

 いや、この顔は彼にとっては普段と変わらない表情のだが。


「ありがとう、みんな」

「礼を言われる事ではない。これは我等の総意であり、我々も大切な子に手を出され、憤りを覚えている」


 ポワルの言葉に女神レビエグフォレオムが瞳を閉じ腕を組みながら答える。

 短い漆黒の髪で、凛として美しく気高い、男神の様な女神だ。


「……まずはイリスと両親を優先でいい」

「そうだね。その間に策を考えておくから、暫くはそっちに集中するといいよ」


 幼い少女の姿をしたアシュルベルドテジルが、静かに声に出す。

 外見は9歳くらいの少女で無口、腰まである紫がかった白いロングヘアに赤い瞳をしている女神だ。

 そして続ける眠たそうな表情の少年、ディグレムリムリルムである。見た目15歳前後の眠たそうな少年でとても優秀な策士家だ。彼に任せておけば、どんな戦況でも必ず勝てる方法を導き出してくれる事だろう。


「あしゅりん……。でぃぐでぃぐ……」

「……いい加減、そのあだ名やめて」


 あしゅりん、もとい、アシュルベルドテジルが懇願するように言うが、ポワルには全く聞こえていない。ディグレムリムリルムは苦笑いしか出ないようだった。


「それじゃあ、ポワル待ちって事で一時解散を。

 その後、準備が整い次第、敵を殲滅するという事で」


 リヒュリジエルの言葉を最後に、それぞれの場所へ転移していく。

 ひとり円卓に残ったリヒュリジエルは思う。敵は愚かな事をしたと。


「僕たちの子を穢した罪、"死"では無く"滅"で(あがな)って貰うよ」


 そして彼は、恐ろしく冷たい瞳と重く低い声で、敵に告げていく。


「僕たちを敵に回した事を後悔しながら消滅すると良い――」


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