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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十七章 光に満ちた言葉
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"曖昧で不確かな確信"

 女神エリエスフィーナはこの星を創造した女神ではなく、この世界を新たに創り変えた女神なのだろうと思われた。


 その推察から導き出される答えはもうひとつある。

 それは、考えるのも悲しくなってしまうものとなる。

 この世界を捨て去った神々がいたという事実だ。

 これについても大凡の推察は立てられるだろう。


 この世界は、魔法が発達し過ぎた世界だったことだ。

 正確には人がその高みにまで登り詰めてしまった。


 これは非常に厄介かつ重大なことだとイリスには思えてならない。

 非常に多くの悲しみがこの世界に溢れてしまうことになるのだから。


 人がいる以上、悲しみはなくならない。

 世界のどこかで泣いている人がいるだろう。


 貧困、飢餓、病苦。

 そういったものだけでも何十人どころか、何百人と苦しみの中に生きている人がいるかもしれない。もしかしたらそれ以上いることだって、あり得るのではないだろうか。


 そういった人達の想いでさえも、この星には浄化しきれるだけの余裕が最早ないのではとも思えてしまう。


 人の悲しみは、決して尽きることがない。

 それこそイリスが十三年過ごしてきた"楽園"のように、多くの神々が見守って下さるような世界でなければ、そんなことは不可能なのではないだろうか。


 こことは違う世界では、より多くの悲しみの中で暮らす人々もいるかもしれない。

 そういったことを考えれば、この世界はまだエリエスフィーナ様のお蔭で現状を保ち続けているのではとも、イリスには思えてならなかった。


 

 彼女の推察を仲間達にしていいものかと悩んでしまうイリス。

 当然これらは推察の域を超えることはない。その確証を得られることもないだろう。

 確かめようのないことだし、何よりもまだレティシアに逢って直接尋ねていない。

 だが同時に、彼女に尋ねたところで得られる答えは、恐らくイリスの考えているものとあまり変わらないと思われた。


 レティシアの成したことの大凡が見え始めているイリスにとって、"真実を知る"ではなく、そのことを確認するという意味合いに変わりつつある以上、自分の推察に従って行動する方が今はいいとしか思えなかった。


 それが正しいかは分からない。

 レティシアに尋ねても、それ以上の答えを聞けるかも分からない。

 ならば今出来ることは、口を噤むだけなのかもしれない。


 大切な仲間達のために。



 シルヴィア達に限ってその力を悪用することはないし、しないと断言できる。


 だが問題はそこではない。

 レティシアの時代とはまるで違うと言える魔法が衰退した世界で、もし"想いの力"を発現させ、更には今までイリスが使ってきた"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"をも使おうとした場合、どうなるかの見当がイリスには全く付かない。

 実際に問題が起こらないことも十分に考えられるが、確証など持てない。

 強大な力に目覚めるように覚醒した彼女達は力を持て余し、暴発させてしまうことだってあり得るのだ。


 更には扱い切れずに、身体的な影響を受けてしまうことだってゼロではない。

 それをアデルは証明するかのように、身体に変調を来たしていた。


 当然彼女は魔法を扱えなかったし、イリスの見立てでは"想いの力"ではなく"願いの力"だったという違いはあるが、強大な力が急激に目覚め、身体的な影響が出てしまったことはまず間違いないと感じていた。


 彼女は手足を動かせず、声すらも失いかけていた。

 そして何よりも、短い命を更に縮めてしまった。


 それが仲間達の身に起こらないと、誰が断言できるというのだろうか。

 そんなことは起こらないと確証が持てない以上、影響を与えかねない言葉を口にすることは、大切な仲間達を危険に晒すことと同義となる。

 ならば口を噤むことしか、イリスには許されないのではないだろうか。


 イリスの推察通り、もし本当に"想いの力"がありふれたもので、誰でも扱える魔法と同じように人の想いによって覚醒するのであれば、ちょっとした刺激でそれを目覚めさせる切欠を与えてしまうことになりかねないのではないだろうか。

 たとえばそれは、ほんの少しの情報だけで手に入れてしまうことも考えられるのではとも思えてしまう。


 それだけの知識を、これまでの旅で仲間達は手にしてしまっている。

 隠すことなくイリスが正直に石碑での話をほぼ全て伝えていたことが、力を目覚めさせる大きな引き金になりかねないと彼女には思えてならない。


 レティシアは言っていた。

 精神的に未熟な状態でそれを使った場合、限度を知らずに己の持つ限界能力以上を引き出して使ってしまう可能性が高いのだと。


 そして彼女は続けた。

 十五歳以上であっても精神が未熟なままだと、そうなる危険性が非常に高いと予想していたと。


 果たしてそうなのだろうかと、今のイリスなら疑問に思う。

 これは、魔法が栄えた時代(・・・・・・・・)での検証に基づくものだ。

 それも数少ない実例から導き出された、検証結果として発表できないような曖昧さを残している。


 物心付いた時から魔法に触れている世界とは違い、今は魔法が衰退した世界となる。

 そこに大きな違いが生まれると、彼女は推察していた。

 そしてそれは間違いではないはずだと、イリスには思えてならなかった。


 昨日今日ではないにしても、チャージですら覚えたのはごく最近と言える。

 更には言の葉(ワード)を学んだのも、まだまだ日が浅いと言えるような経験しか積んでない。


 そんな彼女達に触発させるような言葉を口にすることで、もし"想いの力"を発現させてしまうことになれば、予想の付かないことが起こりかねない。

 恐らくはアルトから言の葉(ワード)と覇闘術の知識を託されているファル以外、力を抑えることができずに暴発させてしまうのではないだろうか。


 特に危険だと思えるのは、魔法が苦手だと思えるシルヴィアとヴァンだ。

 もし二人に何かあれば、イリスは生涯悔やんでも悔やみきれない。


 そしてその触発させる言葉が何かも正確には分からない以上、下手なことを口にすれば危険なことになってしまう。そう思えてならないイリスだった。

 少ない言葉の中で特に危険だと思われるものは、"想いの力"が誰にでも発現させ得る可能性を秘めている、ということを口にした時だろう。


 これをレティシアが彼女の仲間達に黙っていることに意味はない。

 きっと彼女の仲間達は、人の可能性を懸念していたレティシアの想いを知ることなく、言の葉(ワード)の制限を実行したのではないだろうか。

 それとも、彼らもレティシアの想いを察していたのだろうか。


 今となってはそれを知ることなど不可能ではあるが、彼女の成したことが見えてきたイリスには、もうそれを尋ねることはできないだろう。

 彼女が何を成そうとし、彼女の仲間達が何を成したのかを深く理解してしまった今のイリスには、それを尋ねることなどもうできない。


 しかし、やるべきことは変わらない。

 レティシアに逢うこともそうだが、その理由もイリスにはある。

 大切な想いを伝える為にも逢わなければならないし、これからのことを話す必要もある。彼女達が遺したものについても尋ね、どうすればいいのかと助言を求めたいし、手に入れたいものもある。このまま踵を返すことなど絶対にできない。


 イリスの推察通りであれば、本当にもう時間がない。

 目的地となる石碑に近付けば近付くほど、それを強く感じている。


 恐らくは、石碑の先に"奈落"も広がっているのだろう。

 それをイリスは肌で感じ取っている。

 確証など一切ない、曖昧で不確かなものに確信を持っていた。

 そうさせるのはイリスの直感というべきものなのだろうか。

 それとも本能的な何かと言えるようなものなのだろうか。


 ただひとつ言えるのは、その漠然としたものは確実に、そしてすぐ目の前にまで迫ってきているということだ。




 街の中央部と思われる場所に立ち止まっていたイリスは、瞳を閉じながら空へと顔を向け、深呼吸をして心を落ち着かせていく。


 ゆっくりと瞳を開けたイリスは思う。

 あぁ、なんて美しい世界なのだろうかと。


 美しくて、厳しくて、穏やかで、理不尽で、優しくて、残酷で、静かで、不安定だ。


 愛おしい。

 ただ、愛おしい。


 大切な人達がいる。

 大好きな人達がいる。

 大事にしてくれる家族がいる。


 この美しい世界は、もうイリスにとって二つ目の故郷であることは間違いない。


 ならば、自分にできることを精一杯しよう。

 私を迎え入れてくれた美しくも優しいこの世界に、私の想いと願いを伝えよう。



 静かに、強く、強く決意をするイリス。

 それはまるで祈りを捧げているようだと自ら感じ、思わずくすりと微笑んでしまう。

 首を傾げながらイリスへと視線を向ける大切な仲間達へ、はっきりとした声で言葉にしていった。


「そろそろ行きましょうか」


 いつもと同じ笑顔、いつもと同じ声色で言葉にしたイリスに僅かな違和感を感じたのはネヴィアだけだった。

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