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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十七章 光に満ちた言葉
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"豊かな浅い林で"

「こんなにいっぱいありましたわっ」

「どれも熟していてとても美味しそうですね、イリスちゃんっ」


 楽しそうに両手いっぱいの果物を抱えながら、シルヴィアとネヴィアが戻ってきた。

 しばらくするとファルも抱えるように沢山持って帰って来るが、何やら口いっぱいに詰め込んでもぐもぐしながら瞳をこれでもかと輝かせていた。

 とても幸せそうなその表情に、何も言えなくなってしまう一同だった。



 あれから荒野を真っ直ぐ進み、目と鼻の先にある浅い林へとやって来たイリス達。

 当然ここを通り抜けることが目的ではあるのだが、セルナを旅立ってからここまで甘味を取ることなくやってきてしまったので、果物を求めて周囲を探索していたようだ。

 林や森ともなれば、たとえ浅くとも果実のひとつやふたつくらいはあるだろうと推察した彼女達は割と本気で辺りを探索しつつ、食せる実のなる木を探して彷徨っていた。


 戻ってきた彼女達が持っていた果物の数々。

 ユリエ、クヴェタ、アーロ、イェッセ、リュリュ、ヴィサ。

 大きさも色も香りまでも様々な果実だが、そのどれもが味わい深いものになる。

 西と東になる果物がそれぞれ集まっていることに驚きを隠せないイリス達だが、この豊かと思える大地ではそういったことも可能としてしまうのかもしれない。

 そんなことを考えながらイリスは、仲間達が見つけてきた果物のひとつを手に取り話していった。


「皆さん随分と沢山見つけられたんですね。それもおいしい果物ばかり。

 これだけあると流石に食べきれないので、余った分は乾燥させちゃいましょう」


 イリスの言葉に喜ぶ女性達三人。

 どうやら彼女が加工すれば相当美味しくなると思っているようだが、残念ながら乾燥させただけでは期待するほどのお味は出ませんよと前もって伝えるイリスだった。

 確かに果物を乾燥させれば味は凝縮して甘みも増すとは思えるが、ただそれだけですからねとイリスが念を押してしまうほど、シルヴィア達三人の期待は非常に大きかったように思えたようだ。


 しかし、いくら手付かずの林とはいえ、これほど多くの果実がなっていることに驚きを隠せないヴァンとロット。ここは人の踏み入らない未開の地だとは頭で分かっていても、これほど多くの果物があるとは流石に思っていなかったようだ。

 そんな気持ちを察したイリスは持論を話していった。


「ここは原生林ですし、魔物は果物を食べないと思いますから、多くの果実が長い時をかけて群生していったんでしょうね。まるで"果実の森"のようですね。懐かしいです」

「果実の森、ですの?」


 一箇所に集めた果物を種類ごとに分けていたシルヴィアが尋ねていく。

 "果実の森"とは、その名の通り果実がなる木で埋め尽くされた場所だと答えた。

 そこにはありとあらゆる果物が実るらしく、腐り落ちることもないという夢のような森なのだそうだが、実際にそういった場所があるわけではなく、作り話だと思いますよとイリスは笑いながら話した。

 その話を聞いたのも、あのひとから寝る前に話してくれたもので、イリスが読むことのできない文字で書かれたとても分厚い本を持ちながら読み聞かせてくれたそうだ。


「今にして思えば、この世界で使われている言葉でも、エデルベルグで使われているものでもありませんでした。あの本は異世界の本だったのかもしれませんね」

「何とも凄い話ではあるが、実際にあるかもしれないぞ。女神様が読み聞かせてくれたのだから、信憑性はかなり高いのではないだろうか。

 まぁ、その場所に行けるかと言われても、難しいだろうと答えるしかないんだが」


 夢のある話だと、ファルは口いっぱいに詰め込んでいた果物を飲み込んで答える。

 もしそんな場所があれば是が非でも行ってみたいと、彼女は楽しそうに話した。

 

「あら、この世界にだって、まだそういった場所がないとは言い切れないのでは?」

「姉様の言う通りかもしれませんね。私達は世界を全て踏破したわけでもありませんし、本当にそういった場所があってもおかしくはないのではと思えてしまいます」

「……世界中の果物がある森とか、なんて素敵な場所なんだろうか……」


 うっとりとしながら答えるファルは、夢のような場所に思いを馳せる。

 本当にあるかそれとも存在しないのかは、世界を隈なく歩いてみないと分からない。

 だからこそ夢があるんじゃないかなとロットは続け、ヴァン達も納得するように頷いていった。


「世界は広い。数年では調べ尽くせないほどに。そういった場所があるのか、それとも作り話なのかは俺には分からないが、北であればその可能性もあるかもしれないな」

「北、ですか。……それはやはり、"奈落"の先、ということですね」


 ヴァンとイリスが言葉にしたように、奈落の先となる場所はこの世界にいる誰もが辿り着いたことのない秘境とも言えるような世界となる。

 それは奈落周辺の魔物が非常に強いことや、大陸最北にある街から離れ過ぎているということでもあるのだが、今現在、北へ辿り着いたという記述の文献は存在しない。

 当然最北端など誰もが知らないことではあるし、その途中でさえ人類は到達していないのではないかと言われているほどだ。


 レティシア達であれば、その先も知っているのかもしれない。しかし、今それを知ることはできないし、気温が低いと思われる場所で果物が成長するとも思えないのだが。

 厳しい環境とも言える北に果実だけでなく、植物が育つのだろうかという話になっていくが、それも例外があるかもしれませんねとイリスは考えながら話していった。


「考えられるのは地熱、でしょうか」


 彼女の言葉に、なるほどと頷きながらロットは続けた。

 そういった土地であれば、作物が育たない環境でもなくなるのではと彼は答える。


「条件的には厳しいだろうけど、奈落の遙か彼方には山々が見えるらしいからね。

 大陸が続いていることは間違いないと思えるし、それこそ海の先にだって別の島や大陸があるかもしれない。一概にないと断定することはできないんじゃないかな」

「別の大陸、ですの? それはとても興味深いですが……。

 ……いえ、そうですわね……。それこそ私達のような人達が、この大陸が存在することに思いを馳せているかもしれませんわね」

「俺達と同じような者達が、同じように思いを馳せる、か。

 ……そうだな。いないと言葉にすることは、傲慢なことなのかもしれないな」


 そう言葉にしてしまうことは、とても身勝手なこととも言えるのではないだろうかとヴァンは考えていた。

 大陸の先に別の大陸があるかもしれないと思ってはいても、それを確かめた者などこの世界にはいない。いや、もしかしたら、そういった文献が残っていないだけで、レティシアの時代では大陸を渡る手段があったのかもとも思えてしまう。

 彼女達がいた遙か以前には、別大陸と交易があったかもしれない。

 現在では大陸を渡る方法など伝わってはいないが、もしそれを可能とする時代があったのならば、そういったことも十分に考えられるのではないだろうか。

 別大陸に果実の森があるとは断言できないが、もしかしたらという期待が膨らんでしまうイリス達は、ここよりも遙か彼方の、更に海の先へと想いを馳せながら、見たこともない景色が広がっているのを想像していた。



 浅い森へと入っていくイリス達。

 林で休憩をしながら美味しく果物をいただき、食べきれないものは全て乾燥させてネヴィアのバッグに入れた。

 あたしのバッグにも沢山入るよと笑顔で言葉にしたファルだったが、まさかとは思いながらも、歩きながら摘んではいけませんわよと笑顔で話すと目が泳いでしまう彼女へ、シルヴィアは白い目を向けていく。


 何とも言えない微妙な空気が流れる中、先陣を切るように進んでいくファルは右手と右足が同時に出しながらも、見通しが良く光が差し込む森の中を歩いていった。

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