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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十七章 光に満ちた言葉
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"果てなく続く大地"

 眼前に広がるは、果てなく続く白の世界。

 周囲に警戒をしながらもその大地を踏み締めるイリスは、"周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"を始めとする魔法を再び使っていく。

 すぐさま魔法の効果により周囲の情報が頭に伝わってくるが、どうやら本当に何もない場所のようで、草木は勿論、魔物の姿すらその目に捉えることはできなかった。


 地面を調べていくイリス。

 この白い土は、まるで砂のようにさらさらとしたものらしく、乾燥しきったような大地で一面が形成されていると思われた。


 "広範囲索敵サーチ・ア・ワイドエリア"の効果は、凡そ二千五百メートラほどになる。

 しかし、これだけ広く、また見通しが良過ぎる大地に魔物が生息していないことに驚きを隠せない一同だった。当然肉眼でもはっきりと視認できるような場所となっているので、魔物がこの周囲に存在しないことは間違いないと言えるだろう。

 問題は、地中に生息するような魔物がいないことを祈るばかりだが、それに関してはイリスの"警報(アラーム)"と"索敵(サーチ)"だけでなく、ヴァンとロットでも感知ができるようになっていると思われた。


 これまで遭遇してきたギルアムやグラディル、ガルドやザグデュスといった凶種と思われる存在であれば、"潜伏(ハイド)"を使って気配を消すようなものも現れないとは限らない。

 十分に注意をしながら進みましょうとイリスは仲間達へ伝え、シルヴィア達もそれに強く頷きながら答えていった。



 白い大地を進みながら、踏み締める地面に違和感を感じるイリス。

 それはヴァンやファルも同じだったようで、疑問に思いながらも二人は話した。


「……なんだろう、この大地。砂地かとも思えたけど、妙な硬さを感じるね」

「うむ。俺も気になったな。まるで地面を踏み固めたような感触だ」

「まさか、これだけの広さを何らかの存在が踏み締めていた、なんてことはないよね」


 思わず半目で言葉にするファル。

 もしそれが本当だとすると大変なことになるのだが、流石にそれはないんじゃないかなとロットは答えた。


「広大な大地全てがそう見えるからね。もしそんな存在がいるんだとしたら、イリスの索敵(サーチ)に反応しないとは思えないし、目視でも確認ができるだろうからね」

「あら、地中を潜っている、ということも考えられるのではないかしら」

「それはとても怖い発想ではありますが、これだけの広さでも魔物が視認できないとすれば、その可能性も捨てきれないのではありませんか、ロット様」

「うん、確かにそうだね。でもそうなると、俺とヴァンさんの索敵(サーチ)じゃ見つけられない危険性もあるから、確実に強い魔物、ということになるだろうね」


 サーチ系統の魔法を打ち消すには、それ以上の"潜伏(ハイド)"を使用しなければならない。

 それはつまり、魔法による潜伏が可能ということであり、それだけでなく保護系統の魔法や身体能力強化系まで扱えるという危険性を持つ存在ということになる。

 断言などできないが、そんな魔物とはもう出遭いたくはないと思えてしまうイリス達は、しばし言葉を噤みながら何もない大地を進んでいった。



 しばらく歩いていると、イリスはそうだと思い出したように"遠望(ディスタント・ヴュー)"を発動し、遠くまで見通していくも、やはり魔物の姿を見ることはなかった。


「だが、真っ直ぐ進むことはできる場所のようだな」

「ですね。流石にこういった地形は、俺も予想していませんでしたが」

「世界は不思議でいっぱいだねー。アルト様もこの景色をご覧になったのかなぁ」


 そう言葉にする先輩達。

 ファルはどこか楽しそうに話していた。

 そんな三人にシルヴィアは尋ね、ネヴィアも姉に続く。


「ですが、これほど何もない場所を進むとなれば、進む方向も分からないですわよ」

「何か方角を見分ける方法があるのでしょうか」


 "周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"であれば周囲の地形を詳細に知ることができるが、自分の向いている位置までは把握できない。

 しかしここに"道標(ガイドポスト)"と"(マーク)"を同時に使えば、それも可能にするとイリスは話した。

 当然これらを使うには、かつての言の葉(ワード)が使えることが前提となるのだが、それを知らぬ今現在の冒険者や商人達は、どうやって自身の進むべき道を知るのだろうかと二人は考えているようだ。


 確かに現在の魔法が衰退した世界で、本来の言の葉(ワード)を使える者はいないだろう。

 街道を逸れなければ問題とはならないことが多いのだが、方角が分からなくなる森の中などで迷った場合は、様々な方法で方角を知ることができると先輩達は答えた。


 そのひとつが太陽の位置だ。

 これは当然、深い森では分からないが、太陽さえ出ていれば大凡の方角が分かる。

 それを目標に歩いていくことで浅い森などの場所では迷うことはない。

 太陽が見えなくとも光から作られる影を見て判断することができるので、日の光が届く場所であればなんら問題にはならないだろうと言える。

 当たり前ではあるが、時間帯には気を付けなければならないが。


 太陽ではなく、星の位置で判断する方法もある。

 星は時間や季節によって変化するものだ。

 しかし、全く変わらない星がひとつだけ存在している。


 真北を指す一際強い輝きを放つひとつの星。

 "女神の光"と人々から呼ばれているその明るく輝く星は、時間だけでなく季節が変わっても、星の位置を全く変えることなく輝き続けている。

 その星を見つければ北の位置が正確に分かる為、迷うことはなくなる。たとえ何もない草原にいたとしても、星さえ見えていれば正確な方角を知ることができるという。


 これらが分からない深い森で迷ってしまった場合、他の知識で判断することになる。

 これに関してはイリスの方が詳しかったようで、薬草学や調合学に必要となる知識を得る際、植物学についても祖母レスティから学んでいる。

 "リトヴァ"や"テューネ"と呼ばれた、背の高い樹木を探すのがいいと彼女は話した。


 これらの樹木は、世界中にある深い森の至るところに群生しているらしく、太陽の光が届かない場所であれば、まず間違いなく見つけられる植物となっているようだ。

 リトヴァは真南、テューネは真西に枝を伸ばしていくとても不思議で特徴的な植物で、その根はどちらも薬の材料になる。重い病気に効くようなものではないが、強い発熱や頭痛に良く効くとされ、薬師の間では非常に重宝されている植物となる。


 その分、使う材料に気を配らなければならない強い効果を持つものではあるので、しっかりと分量を量ってから使わないと吐き気や眩暈などの副作用が出てしまう、扱いに注意をしなければならない素材なのだとイリスは話した。

 冒険者への依頼としても割と出されているものらしく、世界中のギルドに置かれている掲示板で依頼書をよく見かけると、先輩の一人であるロットは言葉にした。


「他にも色々方角を調べる方法はあるんだけどさ、あたし達猫人種なら感覚で大体の向きなら分かるらしいよ。結構便利な能力とも言えるんだけど、あたしはそういった場所に行ったりしないから、体感したことはないんだけどね。

 ……あぁ、でもこういった場所でなら、発揮できたりするのかなぁ……」


 苦笑いをしながら答えるファルだったが、感覚として理解するというそれを感じることはなかったようで、迷信なのかなと首を傾げながらぽつりと呟いた。

 しかし、そんな危険な場所になど行かなくても当たり前だと言えるだろう。

 わざわざそんな場所に向かう用事でもない限り体験することはないだろうし、そういった依頼を受けることもこれまでなかった。



 そんな話をしながら、イリス達は何もない大地を歩いていく。

 あるのは太陽と、遙か彼方に見える丘のようなものだけ。

 木々や草だけでなく、魔物でさえも存在しない世界にぽつんと六名だけがその場に取り残されてしまったかのような印象を受けてしまう。


 だが不思議と恐怖心は感じず、それどころか心が穏やかに感じられるシルヴィア達。

 それは本当に不思議な感覚で、もしかしたらこれがイリスが生まれた世界で彼女が感じ続けていた"魔物のいない世界"にいる穏やかな感覚に似ているのかもしれないと思いながら、シルヴィア達はその静かな白い大地の世界を歩いていった。

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