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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十七章 光に満ちた言葉
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"三つの道"

 問題の洞窟と思われる場所へとやって来たイリス達。

 既に辺りは日が落ちかけ、深い森を進む彼女達を闇が包み込んでいた。


 "暗視(ノクトヴィジョン)"の効果ではっきりと周囲を視認できる一同だったが、魔法を使わなければかなりの暗さを感じるほどの場所であることは間違いないだろうと思えた。

 眼前にぽっかりと口を広げる穴に異様な不気味さを感じるネヴィアだったが、シルヴィアとファルはとても楽しそうに話し、不穏な空気を吹き飛ばしていく。


「凄いですわね! 未知の場所に自然の洞窟だなんて!」

「ダンジョンじゃなければ探検したいくらいの場所だねぇ。こんなところがあったなんて全く知らなかったよ。街のみんなも知らないんだろうね、きっと」

「もしかして、私達が発見者となるのかしら」

「どうだろうね。アルト様は知ってたと思うんだけど、知識としては載ってないなぁ」


 イリスへと視線を向けるファルだったが、残念ながらレティシア達から託された知識にも含まれてはいないようだ。

 これに関しては彼女達が知らなかったのではなく、託す知識としては必要ないだろうと考えた可能性があるとイリスは答えた。


 そもそも人に研究成果や歴史を含む情報を渡すことは、非常に難しいとされている。

 "知識共有魔法ナレッジ・シェアリング"であれば、確かに情報を対象者に渡すことは可能だ。

 しかしそれもごく一部といったものに限定されてのことであり、いくら真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを使ったとしても、レティシアが託した情報量は凄まじかったとイリスは話した。


「恐らくではありますがレティシア様が託した知識には、渡すことのできる限界の情報量まで詰め込み、必要ないと判断したものを削っていっているんだと思います」


 その中には、ここより先の知識も削られているとイリスは考える。

 石碑へと向かうことになるはずの"適格者"に、そういった情報を省く必要があるのだろうかと思ってしまう仲間達だったが、これにも恐らく理由があるのだろうと続けた。


「レティシア様が託して下さった知識に含まれたかつて使われていた言の葉(ワード)の全てと、"想いの力"を組み合わせた魔法の新技術"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"。

 この力があれば、安全に石碑へと向かえると確信していたんだと思います」


 周囲を索敵し、地形を理解し、自身と周囲の者を強化し、魔物を退ける絶大な力。

 魔法の衰退した世界であれば、十分過ぎるほどの安全性を手にすることができるとレティシアは考えたのだろう。現にこれほどまで安全に深い森を真っ直ぐ進むことなど、この世界の者達にはできないことは確実だと言える。

 故に、ここより先となる場所の情報はなくとも、自身の力で辿り着けるとレティシア様は信じて下さったのだろうと、イリスは仲間達に伝えていった。


 そしてもうひとつの理由が考えられる。こちらも推察の域を超えることはないが、自身の目で先を見て、自身の心で何かを感じ取って欲しいと思っていたのかもしれない。

 だからこそこれほど大陸中央から離れた、それこそリシルアからも遙か北東と言えるほどの場所、更にはアルリオンからですら行くのも困難だと言えるような北西の地に招くように石碑を置いているのではないだろうか。


 その大きな理由として推察を挙げられるのが、まるで大陸北全土を抉り取るかのように広がるという"奈落"の存在だ。

 これについては今現在でも正確な規模が判明して居ないほどの巨大さを誇るらしい。

 あくまでもこれは、エグランダ北西にあるドルトの調査団が調べた情報によるものになるが、直接調査隊の冒険者に話を聞いたとロットは言葉にしていた。誇張した情報ではない以上、これから向かう石碑の奥にも"奈落"が広がっている可能性も考えられる。


 レティシアはその場所をイリスに見せようとしているのかもしれない。

 人ならざるものが創り出したと現在でも言われている女神の創り出してしまった大穴をイリスに感じさせて、彼女は一体何をしようとしているのだろうか。

 メルンでさえ予想が付かないという彼女の思慮深さに驚きながらも考えるイリス。

 コルネリウス大迷宮の"深淵"に置かれた石碑の存在を、レティシアは知らないはずだとメルンは話した。であれば、彼女は"奈落"を創り出した一端を担っている女神が関係していることも知るはずがない。

 そもそもこの世界の天上にいるエリエスフィーナの存在ですら知らないと思える。


 では、レティシアは一体何を伝えようとしているのだろうか。

 幾ら考えても彼女のしようとしていることが、イリスの頭に浮かぶことはなかった。



 口を大きく広げる洞窟の入り口に立つイリス達。

 周囲を確認するように見ていくも、特にこれといった人為的な痕跡を見つけることはできなかった。恐らくはシルヴィアの言うように、自然にできた洞窟だと思われる。


 イリスは"内部構造解析ストラクチュアル・アナライズ"を使用し、中の構造を探っていく。

 瞬時に構造を理解することのできた仲間達は、その先となる遙か先へと意識を向けるも、どうやら魔法の効果でも判断ができないほど長く続いているようだ。

 さてどうするかと言葉にしたヴァンに、イリスは提案をしていった。


「そうですね。進む経路としては三つ、でしょうか。

 ひとつはこのまま内部を調査し、出口となる場所を探す道。

 もうひとつはこの洞窟上部を登り、強引に先へと進む道。

 そして最後は北東へと進み、深い森を越えていく道ですね」


 だが、どの道も色々と問題があるとイリスは話す。

 一つ目の道は、まずダンジョンの可能性が考えられる。

 地底魔物(クリーチャー)の出現も考慮して進む必要が出てくるが、魔物の数は幸い十数匹と少ないようだ。しかし、逆に強い魔物であることも頭の片隅に置かねばならない。

 更には奥へ奥へと進んでも行き止まりとなっていた場合、来た道を引き返すことも想定しなければならない。一体どれだけ先まで続いているかも現時点で分からない以上、やはり危険な道だと言わざるを得ないだろう。


 二つ目の道は、現実的に可能とする方法ではあるものの足場が非常に悪く、魔物に襲われた場合はかなりの危険性を覚悟しなければならないと思われた。

 必要以上に危険な場所へ向かう必要がないことは、洞窟内を進んで行く場合にも言えることではあるが、中でもこの経路は非常に危険な道となる。

 こんな場所でもし危険種にでも遭遇すれば、かなり危ないだろうとイリスは話した。


 これら二つの経路はそれぞれ危険性を伴う場所だと言えるが、だからといって三つ目の道を簡単に選ぶことはできないイリス達は悩んでしまっていた。

 その問題となる三つ目の道は、しばらく深い森が続いていくも、その先には深い谷が存在するらしく、非常に落差が激しい場所に出てしまうようだ。

 ブーストを使えば強引にでも谷を越えられるかもしれないが、転落する危険性も非常に高いのではと危険視するイリスだった。


「ふむ。レティシア様がいた八百年前から地形が全く変わらないのであれば、どこかから通れる場所が必ずあるはずだ。しかしどこにその道が通じているか分からない以上、どの経路も危険で厄介な場所であることは変わらないのではないだろうか」

「そうですね。俺としてはイリスが二つ目に挙げた経路は、かなり危険だと思えます。

 強引に突破する方法は最終手段として、まずはこの洞窟から調査するのはどうかな。

 もし行き止まりであるなら三つ目の経路を進んで、向こう側へと行ける場所を探すくらいしか思い当たらないかな」

「あたしもロットに賛成。上は危険過ぎるだろうね。

 さっきは半分冗談で話していたけど、実際に進むとなれば足場が崩れる可能性も高いし、地面にしっかり足が付かない場所だと力が入らないから覇闘術も上手く扱えない。

 索敵(サーチ)の効果で魔物は確認できないみたいだけど、空からの襲撃も十分に考えられるから、あたしは二つ目の経路を進むのは反対だよ」

「そう、ですね。私もお二人の意見に賛成です。

 ブーストを使えば強引に進むことはできても、やはり危険だと私には思えます。

 "水の大竜巻(アクア・スパウト)"は勿論、ゲイザーもプレッシャーも使えないとなれば、私にはできることが非常に限られてしまいます……」

「それは私にも言えることですわ。"純水清冷の刺突リムピッド・ピアシング"も足場がしっかりと踏めないのであれば、十分に威力を発揮できないでしょうし。

 やはり二つ目の経路は選べそうもありませんわね。洞窟を進むことに思うところがないわけではありませんが、それでもまずはここの調査から入るのが一番の近道のようにも思えますわ」


 じっくりと仲間の話を聞いていくイリスはヴァンの考えも尋ねるが、やはり一つ目と三つ目しかないだろうなと答えた。


「まずは洞窟内の調査をしつつ、先へと進めるなら重畳。

 もし行き止まりしかないようなら、戻って谷を渡る方法を探すのがいいだろうな」

「そうですね。では、皆さんの意見の通りに進みましょう。運が良ければ洞窟の先へと行けるかもしれませんし、魔物が地底魔物(クリーチャー)であるのかも確認したいです。

 ですが、危険種並みの強さの魔物がごろごろといる場合は引き返し、谷へ向かいましょう、ということでどうでしょうか?」


 イリスの提案に乗っていく仲間達は、休息を挟んで体力の回復に努めた。

 既に周囲は暗闇に包まれてしまっているが、深い森で休み続けるのは危険だろう。

 長時間休むのであれば、洞窟内の方が多少は安全な場所もあると思われた。


 魔物への警戒を怠らないように歩くイリス達は、慎重に足を進めていった。

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