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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十七章 光に満ちた言葉
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"未知の場所"

 "周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"の効果により、周囲の地形を正確に知ることができている彼女達は、無理することなく開けた場所で休息を取ることにしていた。


 日が傾く前に少しだけ開けた場所を見つけ、火を熾して食事を作り、身体を休める。

 セルナを出てからそういったことを続けながら二日が経った頃合となる現在、休息の合間に魔法の修練をしているシルヴィア達だった。



 エグランダを出てすぐ、仲間達に覚えたい魔法はありますかと尋ねると、真っ先に"洗浄(クリーン)"と"洗濯(ウォッシュ)"を挙げたシルヴィアとネヴィア。

 ふたつの魔法を選んだ彼女達の気持ちが、非常に良く分かるイリスとファルだった。

 確かにあの魔法は非常に多く存在する言の葉(ワード)の中でも、かなり使用頻度の高い魔法と言えるだろう。

 寧ろ、生活魔法となるこれらは、兵士達のようにブーストを使用しながら戦う者達でなくとも必須と言われるほどの魔法となっていた。

 それは当時の主婦達に必要不可欠と言われるほどの素晴らしい魔法で、それを使えなければ主婦としての資質にも問われてしまうらしい。


 何とも凄い時代だと言葉にしたヴァンとロットは、"警報(アラーム)"と"索敵(サーチ)"を選んだようだ。

 そのどれもが初心者の覚える言の葉(ワード)ではあるものの、修練を積めば相当の効果を得られるものなので、一度覚えさえすれば徐々に鍛えていくことで十分過ぎるほど使い勝手のいい魔法となる。

 この二つの魔法を習得したことにより、イリスなしでの行動も安全性を増したと言えるだろう。


 ルンドブラードで起きたようなことも考えられる。

 今後起こるかもしれない可能性を考慮して、索敵系の魔法は覚えておいて損はない。

 そうイリスは思っていた。




 あれから三日が過ぎ、ファルの知らない場所を通り過ぎていた頃、五匹目となる遭遇した魔物を倒していた。


 転がる魔物の名はスノウベア。

 フィルベルグ近くの深い森で出遭うオレストベアと同程度の大きさだが、やはり強さはかなり危険だと言えるような存在だったようだ。

 攻撃力も変わることはないが、それでも危険極まる威力を持つ。

 とりわけ目立っていたのは、耐久性と敏捷性だろう。

 並外れた鎧のような体と素早い動きに翻弄され、ゴールドランク冒険者であっても経験者でなければ危険だと言い切れる強さを持っていた。


 こんなものと遭遇しても、成人になっていないセルナの子供達が討伐できるということに驚きを隠せないイリス達だったが、同時にそれだけの強さを持つのであれば、街を旅立ったとしても安心して送り出せるのだろうと彼女達は感じていた。

 何とも豪傑揃いなのだなと、口角を引く付かせながら言葉にしたヴァンの声が浅い森へ静かに響いていった。


 残念ながら、今現在は食料や毛皮は欲していない。

 毛皮を剥ぐ必要もなかった彼女達は、スノウベアを地中へと埋めていった。

 あえて必要以上に傷つけることがなかったことに安堵してしまうイリス達ではあったが、魔物を動物へと戻せないことにどこか申し訳なさを感じているようだ。

 どうしようもないこととはいえ、それでも何か別に方法があるのではないだろうかと考え続けるイリス達だった。




 セルナから五日も離れたこの場所は、地図上にも記されていない地域となる。

 正確には黒塗りであったり、地形が途切れて書かれていたりといった表現をされているのだが、辺りは徐々に深い森へと入っていく程度で、別段周囲に変化を感じないイリス達だった。


 当然と言えば当然なのだが、どうしても地図に記されていない未知の場所と言われる地点を目の当たりにしていると、奇妙な違和感を感じてしまっているようだ。

 いきなり世界の終わりになっているとは流石に思うことはない彼女達だが、それでも地図にない場所を歩いていることに不思議な気持ちになっていた。


 イリスの"周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"によってかなりの先まで見えてはいるが、凡そ一日先程度しか見ることはできないようだ。

 それでも十分過ぎると先輩達は言葉にする。

 本来であれば全く見られることはないことを知覚できるようになり、更にはかなり先まで地形を細かく探ることを可能とするイリスの魔法。

 たとえ一日先しか見えないとイリスは言葉にしても、十分過ぎるほどの効果を見せていることは明らかであり、大凡の推察をしながら足を進めることができることそのものが、安全性の確保にも繋がると先輩達は話した。


 そんな話をしながら歩いていた頃、"周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"に気になる地形を確認したイリス達だった。

 現在居る場所から更に北東にあたる、ここから九アワールほど進んだ地点のようだ。

 深い森の入り口付近を進み続けるイリス達だったが、このまま北へと行くと更に深い森へと辿り着く。恐らくは"暗闇の森"とファル達に呼ばれている場所なのだろうが、これほど遠くまで北東に伸びているとは予想していなかったイリス達だった。


 それを避けるように深い森を北東に進み続けると、丁度"暗闇の森"手前に当たる場所に洞窟のようなものを発見する。

 内部構造はその場所へと入り、"内部構造解析ストラクチュアル・アナライズ"を使わなければ分からないが、洞窟上部は険しい岩場となっているらしく、森を突き抜けるように真っ直ぐ伸びているようにもイリス達には見えた。


 石碑の位置的には更に北東となっているので、このまま進むとその洞窟の近くを横切る形となるようだ。

 周囲の警戒を続けながらも、イリス達はこれについての話をしていく。


「洞窟ならダンジョンの可能性も考えるべきですわね」

「ふむ。だがイリスの推察通りであれば、地下へ向かうことはあっても地上に出ることはないのではないだろうか。周囲に地底魔物(クリーチャー)もいないように見える。

 安全だと言い切ることはできないが、入り口を塞ぐ程度でいいのかもしれないな」

「だねー。あたしとしてはもうダンジョンには行きたくないかな。あの場所は危険過ぎる。人の行く場所じゃないと本気で思えるほどに」


 真剣な面持ちで答えたファルだったが、その表情はあの時のことを思い起こしているような顔をしていた。

 大切な仲間の為にと力を手にすることができた場所ではあるが、苦々しい思いの方が色濃く残っているようだ。

 尚も考え続けるようなファルを落ち着かせるように、ロットは話した。


「大丈夫。今回の目的は石碑だよ。ダンジョンの内部調査じゃない。

 とは言っても、このまま進むと凄く近くを通ることになるみたいだから、イリスに内部構造の解析をしてもらって、ダンジョンなら塞ぐってことでいいんじゃないかな」

「そうですね。ダンジョンであれば放置はしない方がいいでしょうし……」

「塞ぐ程度であれば時間もかかりませんし、ここはセルナからも離れている場所ではありますが、やはり危険だと言えるような場所はできるだけ封じておいた方がいいと思います」


 イリスの言葉に頷いた一同は、そのまま進路を変えずに進み続けた。

 徐々にその姿が魔法の効果で判明していくと、驚いたようにヴァンは話していった。


「……まさか、これは……。繋がって(・・・・)いるのか?」

「まだ内部構造は分かりませんが、その可能性は高いかもしれません」

「いや、あくまでも岩がその先へと繋がっているだけかもしれないよ。

 まぁ乗り越えていくのも、ありっちゃあり、なのかなぁ……」

「それも可能だと思いますわよ。ブーストがありますからね」

「ですが姉様、そういった足場の悪い場所での戦闘となれば、かなりの危険を伴うとも思えるのですが……」

「確かにそうだね。何がいるかも分からない以上、それもしっかりと確かめた上で行動した方がいいと俺は思うよ」


 それも全ては近くに行ってみてからだな。

 ヴァンの言葉に賛同していく仲間達は、問題のその場所へと足を進めていった。

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