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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十六章 普通の家族に
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"衝撃的な遊び"

 道場を出たイリス達は、子供達と遊んでいるファルを探して街を歩いていた。

 建物を出てすぐ右へ進めば会えるとのフェリエの言う通りに歩くイリス達だったが、どうやら彼女達はそれほど離れていないほどの近くにいたようだ。

 楽しそうな声をきゃっきゃとあげる子供達は、それを追いかけているファルに捕まらないようにと逃げながら遊んでいた。


 しかし、その彼女達の姿にイリス達は目が点になってしまう。

 地面だけではなく、壁や木、更には家の屋根まで使って逃げる子供達に、一体何をしているのかと思考が完全に凍り付いてしまっていた。

 どうやらファルも同じような動きをしながら子供達を追いかけているようだが、ぎりぎり子供達に触れられないような手加減をしていた。

 イリス達の真横を通ったファルは彼女達に気が付き、動きを止めて話していった。


「あ。お話、もう終ったの?」

「え、ええ、そうなんですが……ファルさん、一体何を……」

「ん? 追いかけっこだよ?」

「……私の知るものとは大分異なるようですわね……」

「そなの? よく分かんないけど、ここではこれが普通だよ」


 笑顔で返すファルに、女性達は尚も固まり続ける。

 小さな子供達が家の屋根にまで巧みに上る追いかけっこなど、とてもではないが彼女達の知る遊びとは全くと言っていいほど違っていた。

 確かに家といっても一階建ての造りではあるし、木もそれほど高いわけでもない。

 だがそんな場所を九歳ほどの少年少女が軽々と飛び上がり、七歳ほどの子供達は壁を使いながら飛び乗り、それ以下の子供達は屋根に上ることはなかったが、壁の上やら木やらを利用して上手くファルに捕まらないようにと激しく動いていた。


 その動きは最早、とても子供のものとは思えなかったイリス達だったが、ファルの話によると実際に猫人種の子供達の遊びとは、こういったものとなるのだそうだ。

 元々足腰の丈夫な彼女達猫人種は、自分が持つ筋肉の使い方を子供ながらに理解して行動する種族らしい。

 当然、子供なのでそれほど凄い力の出し方は無理だが、このくらいならば問題なく動けるんだよとファルは笑顔で答え、さらにイリス達三姉妹を凍りつかせてしまう。

 そんな彼女達にヴァンは話していくが、彼にとっても中々に衝撃的だったようだ。


「……ま、まぁ、猫人種は多種族よりも柔軟な筋肉を持つと言われている。

 中でも瞬発力や敏捷性に優れている種族だとも聞くから、俺達のような力に特化した虎人種とは違うのだろうと思えるんだが……。

 小さな子にこれだけ活発に動かれると、中々な衝撃を受けるな……」

「……だとしても、屋根から落ちてしまう事を考えれば危険なのではないかしら……」

「……そ、そうですよね、姉様。流石に子供達には危ない遊びなのでは……」

「あはは、大丈夫大丈夫! 軽い捻挫程度なら、寝れば明日には治ってるからね!」

「……そ、それはそれで凄いですよ……。

 以前ファルさんから聞いていましたが、軽い怪我ならお薬いらずなんですね……」

「あれだけ動かれると、俺達ではブーストを使わないと追いつけそうもないね……」

「む、むぅ……」


 子供達と遊べるのを楽しみにしていたイリス達だったが、残念ながらそれは少々難しそうだと彼女達は思っていた。

 ブーストを使っての遊びともなれば、ちょっとしたことで大怪我に繋がってしまう。

 子供達とのひと時を過ごしたかったが、流石に今回は諦めるしかない。


 しばらく子供達とファルとの攻防を見学していると、小さな子供達が疲れたのか、イリス達の元へとやってきてお話をして欲しいと頼まれた。

 それならばとイリスは、薬屋に勤めていた頃にお客さんから聞いた面白い話や楽しい話をして子供達を喜ばせていく。

 姫様達はお城で見聞きした話を、ヴァンとロットは冒険で体験したことや同業者から聞いた話を続けていき、次第に子供達はそれぞれに興味のある話をする者達の下へと集まっていったようだ。


 猫人種の性格から考えれば、ヴァンやロットの話す冒険者の世界に興味があるのではと思ってしまうが、どうやらまんべんなくそれぞれに集まっていた。

 いつの間にかイリス達の前に七歳以上の子達も集合していたようで、目を輝かせた子供達へ話を続けていくイリス達だったが、そんな子供達の中心に同じような格好で座るファルに苦笑いをしてしまう一同だった。

 寧ろ、ファルはこちらで話すべきではないだろうかと思うシルヴィア。

 そんな気持ちを察してか、その場に立ち上がったファルは、これまでの冒険の話をした。流石に内容は子供向けの軽い話となっていたが、それでも子供達にはとても興味深かったようで、瞳を大きくしながら輝かせて彼女の話に耳を傾けていた。



 次第に日は傾き、そろそろ子供達が帰る時間となった頃、五歳くらいの少女がファルへとても寂しそうな表情と声色で尋ねた。


「ファルおねえちゃん、あしたもいる?」

「大丈夫だよ。もう急にいなくなったりしないから。

 そんなに長くはいられないけど、セルナを出る時は必ずみんなに話すからね」


 笑顔で答えるファルの表情に安心したのだろう。

 子供達は元気に挨拶をしながら帰っていった。

 イリス達にもしっかりとお礼を言いながらも挨拶をしてきた子供達にほっこりしていた彼女達に、静かになってしまった遊び場でファルは話していった。


「さて、子供達も帰っちゃったし、あたし達もいこっか?」

「そういえば、セルナのお宿はどこにあるのかしら。

 ここまでの道では見かけませんでしたし、少し町外れになるのかしら?」

「あー。このセルナには小さな雑貨屋さんはあるけど、宿屋や飲食店はないんだよ」


 この街は、猫人種が生活することを主として存在する街になる。

 残念ながら彼女達猫人種にすらもう記憶されていないが、アルトの時代には様々な店が建ち並び、飲食店や宿屋も多数あった。

 しかし、彼女達の種族に災厄と呼ばれ、現在でも忌まわしい存在として認識される魔物が出現して以降、劇的に縮小せざるを得なかった。

 現在ではそういった店の類は一切なく、お金での取引も殆どされていない。


 レティシアやメルンの知識で、アルトがいた時代のセルナには店があったらしいという情報をイリスは持ち合わせているも、そこまで詳しくは載っていないようだった。

 非常に残念なことではあるがアルトから託された知識は、言の葉(ワード)や覇闘術に関してのものがほとんどであり、彼の時代のセルナについての情報は全く記されていないらしいとファルは話した。


「宿屋もないこの街では、セルナを訪れてくれたお客さんを道場でお世話しているんだよ。特に名産品も何もない街に来てもらえる人って、そのほとんどが何かの依頼を受けた冒険者か、商売をしてくれる商人さんだけなんだ。

 そんな村の為に来てくれている人達だから、この街の中心として存在する道場で休んで下さいってのが、このセルナでの方針なんだよ」


 小さな集落ならではとも言えるようなおもてなしに、心が温かくなるイリス達だったが、まぁ他に泊まれる場所もないんだけどねとファルは楽しく笑いながら答えた。

 とはいえ、セルナで旅人をもてなすのは道場を管理している者となるらしく、つまりはフェリエ達になるそうだ。


 先程その話を二人がしなかったのは、ファルと合流すれば知ることになるから話さなかったのだろう。

 そんなことを考えながら、イリス達は再び道場へと向けて足を進めていった。

 先頭を歩くファルの足取りは軽く、街に付いた時とはまるで違う表情をしていた。

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