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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"必要ない"

「先日は失礼した」


 イリス達の対面に座るランナルは、瞳を閉じながら軽く頭を下げていく。

 第一声が謝りから入られたことにおろおろとしてしまうイリスは、慌てながら彼へと言葉にしていった。


「いえ、そんな。こちらこそ勝手なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

「いや、それは違う。命を懸ける冒険者は自由であるべきだ。

 ギルドはあくまで冒険者ありきで考えるべき組織。そこに所属する者達の気持ちをないがしろにしては、そう遠くないうちに大きな歪になっていく。もしそうなれば徐々に冒険者達は街を去り、未来など見えぬ最悪の事態へと進んでいくだろう」


 だからイリス殿達のされたことは、勝手なことなどではないのだ。

 そう彼は頭を下げたまま言葉にしていった。


 その考えは彼が元冒険者だったから出てくるものなのは、イリス達よりも先輩であるヴァン達三人にも理解できることではあるが、ロナルドといい冒険者視点で対応してくれるのは本当に嬉しく思えてしまう。


 やはり物は言いよう、ということなのだろうか。

 しかし、悪意を感じるような言動を示してしまう者もいる以上、人それぞれということなのだろう。

 あまり深く考えることなく思考を止めるヴァン達だった。


「それでは、ギルドとして先日の話を正式にさせてもらう。

 エグランダ鉱山八層中央にて、ザグデュスの討伐を確認した。

 エグランダ所属冒険者ギルドマスターとして最大限の感謝をすると共に、この街に住まう一人の者としても礼を言葉にしたい」


 一度上げた頭を深々と下げていくランナルに、再び戸惑いを見せたイリスだったが、すぐにザグデュスのことが頭を過ぎり、ぴたりと動きを止めてしまった。

 確かに、彼を討伐しなければ大変な事態になっていただろうことは確実だ。恐らくこの世界でもあれほどの強さを持つ存在を倒すには、イリスにおいて他ないと言える。

 だがそれ以上に、偶然か故意かは分からないが魔石を取り込んでしまったことに、どうしようもなく引っかかりを覚えてしまうイリスだった。


 魔物の討伐が確認されている八層にたった一頭だけ、それも九層への扉は無事だった点を考えればある程度の予測はできるのだが、結局はそれも明確な答えなど出ることはないものとなってしまう。

 直接エリエスフィーナと話ができたらと心から思うイリスだったが、それは不可能だろうと心のどこかでそれを感じていたようだ。

 もしそんなことが出来るのであれば、恐らく全ての疑問が解消されるだけでなく、今後襲い掛かる可能性の高い災厄にも前向きな答えを出すことができるかもしれない。

 女神たる彼女をもってしても答えを導き出せないことであろうと、二人であればもしかしたら何かいい案が浮かぶかもしれない。

 自分の知識に自惚れるわけではないが、レティシアやアルエナ、そしてメルンの知識を託されているイリスであれば、とても有意義な話が出来るのではないだろうかと思わずにはいられなかった。


「ザグデュス討伐報酬も既に用意させてもらっているが、その前に話さなければならないことがあるな」


 ランナルの言葉に苦笑いをしてしまうイリス達。

 彼女達はギルドに"あること"を報告し忘れていた。

 それについての話だろうと確信を得ている彼女達に彼は話していった。


「……言わずとも、といった表情だな。そうだ。九層の魔物についてだ。

 これらの報酬も用意させてもらった。受け取りはどうするか考えているか?」


 報酬を受け取る方法についての話に飛んでしまい、少々驚きを隠せなかったイリス達だったが、誰が討伐したのかなど尋ねるに値しない愚問だと彼は続けて答えた。


「ザグデュス討伐確認後、戦闘に参加していない冒険者達に九層の調査を依頼した。

 最初にそれ(・・)を目撃したのは作業員ではなく冒険者ではあったが、相当驚いたそうだぞ。逆に警戒心が強まったと報告を受けているが、倒した魔物を山積みにする魔物など聞いたこともないからな」

「……すみません。お話しするのを忘れてしまって……」


 申し訳なさそうに言葉にするイリスへ、それも私が悪いと返していくランナル。

 あの時はそれどころではなかった精神状態だったと改めて話していく彼は、却って報告を遠慮させてしまったことにも謝罪していった。

 本来であれば報告を怠ったと言われても当然なのだが、彼は咎めるようなことはしなかった。何よりも危険種を被害なく抑えられたことにありがたく思っていた彼だったが、それだけではなく、更にその先となる九層の魔物まで討伐してくれたことに、心からの感謝をしていた。


 暗い場所での探索ともなれば、相応の危険が伴う。

 どこから魔物が襲いかかってくるか分からない恐怖が常に付き纏う状況で、怪我なく調査を終えること自体奇跡と言えるらしい。それほどの危険な探索となる。

 イリスであれば、暗さを全く気にせずに細かな調査をすることができるので、それを言葉にはできないが、お礼を言われることに申し訳なさを感じてしまっていた。


 彼女達には彼女達の行動する理由があった。

 それも詳細を説明するわけにはいかない為に、余計申し訳なく思ってしまう。

 そしてそれについてもランナルは、イリス達に詳細を尋ねる事はしなかった。

 疑問に思ってしまうネヴィアはそれを表情に出していたようで、口角を少しだけ上げた彼は答えてくれた。


「危険種と、計三十二匹にもなる魔物を討伐してくれた功績は非常に大きい。

 ここにどうやって、といった経過報告は必要ない。一般的な冒険者であれば尋ねたくなる気持ちも分からなくはないが、私はそういったことよりも、それだけの魔物を討伐してくれたという事実の方が遙かにありがたい。

 ようは結果だ。これだけ求めては良くないが、今回はそれで十分だ」


 詳細は必要ない。

 そうランナルは言葉にした。


 流石に魔物討伐料を貰わないという選択も選べないイリス達は、素直にお金を受け取ることにしたようだ。とはいえ、ザグデュス討伐と三十二匹の魔物ともなれば、凄まじいほどの金額になってしまう。

 当然、魔物討伐にはそれに応じた報酬があって然りではあるが、鉱山の魔物は街の外にいるそれらよりも遙かに強く、支払われる金額も高くなる。

 エグランダの財政を圧迫させてしまうのではないだろうかと考えるイリス達だったが、エルマとは違いこの街は魔石で潤っている。高額を支払うのに思うところがないかと言えばそれは難しいが、それでもあの街とは規模も収益もまるで違う。

 今回の件で傾くようなことはないとランナルは言葉を付け足した。

 どうやら心配していたことが彼に伝わっていたらしい。


「それで、報酬は口座に預けるか?」



   *  *   



 がやがやと賑わいをみせる店内。

 待ち人達はと探すイリス達に、店の奥から手を振っていく一人の女性。

 少々お酒の入っているようで、ほんのりと頬が赤いメラニアはこっちこっちと楽しそうな表情で一同を呼び寄せていった。

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